第11話 付き合うって何するの?
「いいぜ、付き合っても」
お姉ちゃんはあっけらかんとした様子でそう告げた。私はそんなお姉ちゃんの言葉を、上手く飲み込めなかった。
「……え?え?何に、付き合う?」
私が思わずそう言うと、お姉ちゃんは「はぁ?」と眉をひそめた。
「お前、ここまで来てんだからわかるだろ。付き合ってやるって、お前と」
私は真っ白になった頭で一生懸命その言葉を理解しようとした。
(お姉ちゃんが、私と、付き合う?)
「え、え、えええええええええ!!?」
今更ながら、私から出た言葉は叫び声だった。
「おいっ、大きな声出すなよ」
「あ、だって!だ、だっ……んぐっ!」
叫び声をあげる私の口をお姉ちゃんは優しくふさいだ。
「ここ、空き教室!みんなにばれたら困るんだよ」
そう言うお姉ちゃんに私はこくり、こくり、と頷いた。お姉ちゃんはそれを確認すると、そのままゆっくりと私の口から手を離した。そうして、はぁ、と息を吐いた。
「で、どうすんだよ」
「え、どうする、とは……?」
「付き合うの?付き合わねぇの?」
お姉ちゃんが出してきた二択は、あまりにも私には究極の二択だった。
「え、ええ……」
「てかお前、今更私以外を好きになれるのかよ」
普通の場面で聞いたらどう考えても自信満々すぎるその質問に、私は即座に首を振った。全く、私も私である。
「ああ、だろうな」
お姉ちゃんはまるで最初から全て知っていたかのように、うん、と頷いた。
「だからいいぜ。協力してやるよ」
『少しでもそれで美孤の呪いが何とかなるなら、私はなんでもするから』
頭に流れ込んできた言葉に、私は目を見開いた。そう言い放つお姉ちゃんの姿は、私がずっと追いかけてきた、堂々としたかっこいいお姉ちゃんの姿だった。昔から、何も変わっていない。
(あ、)
この頭に流れてくる言葉は何かはわからないけど、でも、多分、お姉ちゃんはお姉ちゃんなりに、私のことを心配してくれているんだと思った。そうして今、お姉ちゃんが出来ることを、私にしてくれていることも。その優しさも。
(もしかして、これって、お姉ちゃんの本音……)
そんな気がしただけで、確証なんてない。私の都合のいい思い込みかもしれない。でも、でもそれでも、お姉ちゃんの声で、その言葉を聞けて良かった、なんて。
「……お願い、します」
私もお姉ちゃんの言葉に答えるようにして、はっきりと告げた。いろいろ考えた。姉妹だしとか、憧れのお姉ちゃんと私が釣り合うのかとか。でも、それ以前に、お姉ちゃんは私の呪いを解こうとして、ここまで頑張ってくれている。その期待に、応えたい。私の為に、こうしてくれているお姉ちゃんに。
「よろしく、お願いします!」
そうして言った言葉に、お姉ちゃんは真面目な顔で私を見た後に、ふっと笑った。
「うん、よろしくな。……だから、お前」
『美孤』
お姉ちゃんが話す言葉に、私はしっかり耳を傾けた。
「呪いなんかに負けるなよ」
『私が傍にいるんだから、呪いなんかに苦しむなよ』
お姉ちゃんの言葉って、不思議だ。そう言われると、心の奥から何かがみなぎるようにして、溢れてくるのだ。
「大丈夫、負けないよ」
そう言うと、お姉ちゃんは
「それでこそ私の妹だよ」
と言って、爽やかに笑って見せた。
「と、じゃあ私が協力するのはいいとして、その
と、お姉ちゃんはうーんと考え始めた。一般的に付き合った恋人同士が何をすると言えば、まぁ、することは沢山あるだろう。でも、その一体何から手を出すべきか、と私も悩む。しかも、私はお姉ちゃんが好きだった期間が長いせいで、ほぼ恋愛経験がないのだ。
「まぁ、まずは……」
そう言うとお姉ちゃんは私の顔をじっと見た。
「お前、私のことお姉ちゃんって言うのやめろよ」
「へっ?」
「恋人だろ?名前で呼ぶもんだろ、普通」
私はまた頭が空っぽになって、お姉ちゃんの言葉を一生懸命に考えた。
(お姉ちゃんを名前で??お姉ちゃんを名前で呼ぶ??)
「はい、呼んでみろよ。美都って」
「う、でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんだから……」
「お姉ちゃん兼恋人な」
「え、いや、そうだけれど……」
「口答えしない。はい、美都」
お姉ちゃんは私にぐいぐいと名前を呼ばせようとする。私はそんなお姉ちゃんに逆らうことなんてもちろん出来るわけもなくて、私は「あ」と声を出した。
「み、み……」
「み?」
「美、都さん……」
「……なんでさん付け?」
「だ、だって……!」
言い訳をしようとして、口を紡ぐ。ここで本音を言ってはまたあの焼けるような痛みに襲われるだけだ。ここまでこの呪いと向き合ってきてわかったことは、別に本音が話せないわけでもないってことだ。多分、話そうと思えば話せる。でも、それは私がどれだけ喉を焼く痛みに耐えられるかが鍵となってくる。
(あんな痛みに襲われるのは、もう勘弁だ)
私が急に話さなくなったのを見たお姉ちゃんは、
「まぁ、さっきあれだけ話したからな。限界だろうな」
と、言って教室の出口に向かった。
「え、え?」
「放課後、体育館前で待ってる。一緒に帰るぞ」
そう言い残して、お姉ちゃんは教室を出て言った。
「え、えええ……」
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