第3話 現れたのはケモミミ男
私にとって朝は戦いだ。だってお姉ちゃんと話せる唯一のチャンスだから。
身支度を済ませてリビングに入ると、もうお父さんとお母さん、そうしてお姉ちゃんが先に朝ごはんを食べていた。私はドキドキする気持ちを隠して自分のダイニングチェアに座った。そうして正面のお姉ちゃんに向き合った。
「あ、あの!お姉ちゃん、おはよ……」
その時、ばんっ、と机に箸を叩きつける音がした。私もお父さんもその音に驚く。お姉ちゃんは少しイライラした顔をして、お母さんを見た。そうして低い声で
「母さん、今日は部活で遅くなるから」
と、言い放った。それだけ言うとお姉ちゃんは「ご馳走様」と言って、リビングから出て行ってしまった。お母さんが少し気遣ったように、
「美孤、朝ごはん」
と朝ごはんを促してくれたが、私はすぐに「ごめんなさい、今日はいらない」と言って鞄を持ち、すぐに席を立った。
私が玄関に出るといつものようにお姉ちゃんが先に学校に行こうとしていた。お姉ちゃんはさっきイライラしていた時とは打って変わって、普通にお母さんに「お弁当ありがと、いってきます」と言っていた。私はその姿をただ
「美孤、もう行くの?」
と、お弁当を渡してくる。私はそれを受け取ってこくり、と頷いた。
「ありがと、お母さん。大丈夫。行ってきます」
私はお母さんに心配かけないようにそう言うと、そのまま玄関の扉を開けた。
お姉ちゃんと私の距離は10メートル。ずいぶんと離れている。私はいつもより少し離れてお姉ちゃんの背中を見ていた。
(お姉ちゃん、昨日のことで怒ってるのかな)
昨日言われたことを思い出して、少し気持ちが暗くなる。今日も見えるお姉ちゃんの背中は変わらないのに、今日は少し目を逸らしたい気持ちだ。
(私のこと、もっと嫌いになっちゃったかな)
そんな不安が、ふと頭を支配する。昨日より今日、今日より明日。私は毎日過ごすごとにお姉ちゃんが好きになっていくのに、お姉ちゃんは私と関わっていく度に、私を嫌いになっていく。同じ姉妹なのに、この反比例。大きなその差が重くのしかかって、私を押しつぶす。
(お姉ちゃん)
そう呼んでも答えてくれなくなったのは、こんなに離れてしまったのは。今の私達の距離は、まるで年を重ねるごとに離れていく私達の関係をよく表しているようで。あの背中に、私は触れられない。追いかけることすら許されない。
私が遅い足取りで歩いていると、いつの間にか神社に着いた。今日は神頼みなんて、と思ったけれど、それでも毎日の習慣を体は覚えている。私の体は、引き寄せられるがまま、神社へと向かった。
背丈と同じぐらいの鳥居をくぐって
私だけのお姉ちゃん。私だけの、お姉ちゃんなのに。
みんなに笑いかけないで、みんなと楽しそうにしないで。
私を、私を見てよ。私はここに、ずっといるのに。
感情があふれ出して、涙に変わって私の瞼から溢れる。
「私を見て、お姉ちゃん」
そう呟いて、涙が地面にぽたりと落ちた時だった。
ガタッ、と
「っ、え、?」
突然の物音に涙が引っ込む。正面を見ると、
「な、何?!」
そのうち、
「ちょ、ちょっと待って、!」
思わず扉を閉めようと、
「きゃぁっ、!?」
縄がばちん、と切れて、扉がたちまち勢いよく開いたかと思えば、中から白い光と強い風が吹いた。思わず私は後ろに尻もちをついてしまう。周りが白い光に包まれて、強い風が周囲を囲む。私はその現象に訳が分からず、目を閉じて耐えていた。
「一体っ、何なの!?」
思わず口から文句がこぼれた時だった。
「おい、目ぇ開けろ。人間」
低い男の人の声がして、私は言われるがまま、ゆっくりと目を開けた。
そこには白髪の男性が立って、私を見下していた。
しかも頭には白くてふわふわした、耳?みたいなものが生えていて、お尻のあたりからもしっぽみたいなものがゆらゆらと揺れていた。
「まずいものを喰わすやがって」
目の前の男性は微笑を浮かべながら、鋭い目で私に言い放った。
「……き、」
「き?」
「き、きゃあああああああああああああ!!!!!!」
思わず出た私の叫び声は、春の快晴の空に大きく響いた。
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