第86話 騒めきは未だ止まず


 肌寒さを感じる室内。魔道具による冷気か、恐怖心から来るものか。言いようのない薄ら寒さが、私の肌を撫でる。


 背後にあるイグニールの遺体。

 自分が出した答えが正しければ、これを見る目も変わってくる。この獣もまた、被害者なのかと。


 「最初から死んでいた。つまり、君たちが対峙したのは遺体だったと?」


 静まり返った室内に、学園長の問いかける声が響く。

 自分でも、荒唐無稽な結論だと思う。通常ならば馬鹿馬鹿しいと一笑する話だ。

 それでも、これならば様々な点に納得がいく。


 「魔術の解除と共に遺体が崩れたのは、既に限界だったのではありませんか。死後相当な時間が経過しており、腐敗した身体が崩れ落ちたと考えられます。

 野生の魔獣を手懐け、指示通りに動かすのは困難です。遺体を何らかの術で動かしたと言われる方が、まだ納得がいく」


 私の言葉に、学園長は黙したまま頷いた。否定の言葉は聞こえてこない。

 どうやら、私の予想は正しいようだ。


 「君の言うとおりだ。このイグニールは、既に死後相当な日数が経過したとみられる。

 その遺体を操り、自身の思うように動かしていたのだろう。一から躾るより余程確実だ」


 我が国で普及している術ではないが、そう前置きした上で手段についても説明してくれた。


 「東方では、死体を操る術があるという。我が国とはほぼ交流のない国だ。歴史は古く、独自の術が多いと聞く」


 東方には、ジェノーネ帝国という国がある。

 私がまだ3歳の頃、アンナにマンサクの物語を読んでもらった。その際、彼女がこの世界にある国を教えてくれたのだが。

 そのとき名前が挙がったジェノーネ帝国。どうやらこの国は、独自の文化を育んでいるらしい。


 「死体を操る術。これは彼の国で伝わる呪術の一種だ」

 「呪術……」


 呪いを意味する言葉に、私の背を冷や汗が滑り落ちる。

 ジェノーネ帝国に詳しくない私が、安易に否定することは許されないが。ベント子爵領での惨劇が忘れられず、恐怖心は拭えなかった。


 「学園長は、此度の件を東方の人間が起こしたとお考えですか?」

 「いや、それは考え難いだろう」


 ルーファスの問いに、学園長はきっぱりと否定する。間髪入れずに返すあたり、ほぼ確信しているようだ。


 「わざわざ学園に魔獣を放つ意味がない。王都や城ならともかく、学園を狙う利点はないだろう」

 「そうですね。私も同意見です」


 リスクの割にリターンが見込めない。ルーファスはそう言うと、私の方へ視線を向けた。


 「君は、ベント子爵領の魔獣も既に死んでいたと思うかい?」

 「ええ。そう考えれば解決することがあるもの」


 ベント子爵領では、いくつか不審な点があった。あのときは理解できなかったが、今なら予想がつく。


 「不審な点は三つ。

 一つは、襲撃から一夜明けた朝のこと。ルーファス、イグニールによって焼かれた家を覚えていて?」

 「もちろん。住人三人の死亡が確認された件だね?」


 私は一つ頷くと、現場に残された違和感を口にする。


 「息子さんの遺体について思い出して欲しいの。彼は腕が喰い千切られていた。

 にもかかわらず、その腕は綺麗に残されたままだった。わざわざ千切ったというのに、それを口にしていない。

 普通では考えられないけれど、既に死んでいたなら理解できる。食事など、必要なかったのだと」


 食べるためではなく、ただ残虐に殺しただけだったのだ。生きていたら到底考えられない行動だ。


 「二つ目は、恐ろしいまでに静かな森について。

 動物の鋭い感覚が、森の異変を察知したのでしょう。遺体が動き回るような森に、まともな生き物が残るとは思えない」


 奇怪さに恐れをなし、生き物は森を出たのだろう。そう考えれば、あそこまで静かだったことにも納得がいく。

 デイジーが言っていたように、あの森は墓場だったのだ。死した者の居場所だった。


 「最後に、洞窟に残された跡よ。

 ルーファスの背より高い位置から、爪で抉ったような跡が残されていた。

 真下まで振り下ろされた跡は、まるでもがき苦しんだかのようだった」


 その言葉に、ルーファスが目を見開く。それを横目で見ながら、私は学園長へ問いかけた。


 「学園長。死体を操る呪術、それは操られている側に苦しみを与えるのでしょうか」

 「ふむ、あり得ない話ではない。私は呪術に明るくないが、一方的に操られる以上苦しさを感じる可能性はある。ましてや動かないはずの身体を無理に動かすのだからね。

 ……死んだ者に、苦しみを感じることができるのか。それは定かでないが」


 我が国で扱う術ではないため、正確な回答は難しいのだろう。学園長に礼を言い、私は思考を切り替える。


 やはり、ベント子爵領の魔獣も既に死んでいたと考えていい。それならば、わざわざ魔獣に自害させた理由も分かる。


 「魔獣を自害させたのは、遺体を残さないためだったのでしょう」


 形も残らぬほどの衝撃を与えれば、それが最初から遺体だったかなど判断がつかない。

 遺体を消すことで絡繰を隠そうとしたのだろう。


 「そうまでして、犯人は何を狙っていたのかしら……」


 静かな地下室に私の声が落ちる。

 仕組みは判明しても、犯人の目的が分からない。オリエンテーションへの乱入とベント子爵領の襲撃。

 一体、犯人の最終目的は何なのだろうか。







 「少し、時間を貰えないか」


 学園長と別れ、寮へ戻ったときのこと。部屋に戻ろうとした際、不意にルーファスから呼び止められた。


 元はと言えば、付き合ってもらったのは私の方。

 他の寮生たちは今頃大広間で食事中だ。急いで戻る必要もないだろうと、彼の提案に頷いた。


 そうして訪れたサロン。話をするならここが最適だろうと判断した。

 紅茶を淹れる姿を眺めつつ、ほっと息を吐く。自身が思っていた以上に、心身共に疲弊していたらしい。


 「まずはお疲れさま」

 「あなたこそ」


 互いに労いながら、ティーカップに口をつける。温かな紅茶が身体の緊張を解してくれた。


 「聞きたいことがあるんだ」

 「何かしら?」


 その言葉に、ティーカップをソーサーへ戻す。

 彼は真剣な表情でこちらを見ていた。わざわざ呼び止めたほどだ、彼にとって重要な内容なのだろう。


 「君はもう、誰もが認める聖女だ。王ですら丁重に扱う身である君が、なぜ民のために最前線で動くのか。それを知りたい」


 今日だって、本当は怖かったのだろう。そう告げる彼に、私は顔を俯かせる。


 彼の言うとおり、自ら凄惨な現場を見る必要はない。報告があがるのを待てば良いのだ。その上で、慰問や討伐に助力すればいい。

 今日の件も、彼だけが確認すれば済んだ話だ。怖さを押し隠してまで、私がやる必要はない。それは理解しているけれど。


 思考を整理し、顔を上げる。答えは一つだけだった。

 

 「怖いからよ」

 「怖いから?」


 彼は不思議そうに首を傾げる。怖いのなら余計に待っていればいい。そう言いたげだ。


 彼は強い。それゆえに、理解できないのかもしれない。怖いからこそ知りたくなる、そんな気持ちが。


 「恐怖はある。でも、何も知らずに待つのはもっと怖いの。

 自分が知らないうちに得体の知れないことが起こる。それに、私の知る誰かが巻き込まれているかもしれない。そう思うと、ただ待つのも恐ろしいわ」


 報告を待つということは、誰かが調査を肩代わりしているということだ。その人が無事戻ってきてくれるのか。酷い目に遭っていないか。そんな不安を抱えながら待つのは苦痛だ。


 「恐怖心なんて、何もしていなくても湧き上がるもの。

 想像には限りがなくて、いつだって最悪のシナリオを作り上げる。

 考える時間があるほど、想像に囚われがちになるものよ。考えたくないと思っても、振り払えないほどにね」


 かつて、一人きりで両親の帰りを待っていた頃。そのときは弟もおらず、子どもの私はいつも一人で留守番だった。

 帰るという連絡もなく、ただ時計の針が虚しく響く部屋。仕事に行っているだけだと分かっている。

 それでも、時計の針が進む度に思うのだ。ちゃんと帰ってくるのか、事故にあっていないか、このままひとりぼっちなのではないか、と。


 日常の一コマですらそうなのに、非常事態ならなおさらだ。

 そうなるくらいなら、怖くとも現実を見た方がいい。想像に押し潰されるよりも、恐ろしい現実がいいのだ。


 「怖がりだから、現実を見たいの。それ以上の恐怖を抱えないために」


 想像とは異なり、現実には限りがある。起こり得ないこと、それだけは除外できるのだ。

 今回は、予想以上に残酷な結果だったけれど。それでも起こり得ないことではなかった。悲しい話だが、あり得る範疇の出来事だった。

 そういう意味では、限りある現実の方が時に優しいと言える。実現不可能なことは、決して起きないのだから。


 「結局のところ、ただ怖いだけよ。

 怖さゆえに座して待つことができない。だから自分で確認する。想像に怯えずに済む様にね」


 みっともないでしょう? 自嘲する私に、彼は目を細める。卑下することはない、そう告げる彼の声は、穏やかに耳を打った。


 「君の在り方は変わらないのだろうね」

 「……そうね。命の危険があるなら別だけれど。怖いから待つということはしないでしょう」


 今回だって、命の危険はなかった。学園長がいて、あくまでも学園という安全な場所での行動だ。


 これが自身の命に関わることなら、おいそれと動きはしなかっただろう。

 聖女となった身。ただの令嬢であった頃とは立場が違う。命に関わるときまで、我儘を押し通すわけにはいかない。


 「命の危険には敏感なだけ良いとするべきか。

 ベント子爵領でも、ヘレン嬢から話を聞いて森へ突撃することはなかったしね」

 「さすがにそんな無謀はしないわよ。迷惑かけられないもの」


 私が不用意に傷つけば、責められる人たちがいる。そう答えた私に、彼は微笑んで頷いた。眼鏡越しに見える瞳は穏やかだ。


 「よく理解している。そこを間違えないのなら、君は大丈夫だろうな。

 立場がある人間は、守られることも義務になる」


 守られるのが義務。そう語る彼に、私の胸が傷む。

 守られるべきは彼も同じだ。オーウェンが側にいるのはそのためだろうし、変装しているのも身を守る一貫といえる。


 一方で、私の従者である以上、自身の身を危険に晒すことは避けられない。


 それを彼はどう思っているのか。より危険性の低いものを選んだ結果だと、納得しているのだろうか。


 「あなたは、私の従者になって後悔していない?」


 彼の正体に言及できない以上、聞けることなど限られているけれど。見て見ぬふりもできず、問いかける。


 暗殺の恐怖から逃れることは出来ても、魔獣討伐などの危険は付き物だ。今起きている事件が解決したって、それは無くならない。

 理知的な彼のこと。天秤が利益に傾いたからこそ、ここにいるのだろうけれど。


 それでも、最近の魔獣騒ぎは想定外だっただろう。人の悪意により引き起こされた事件。そんなものに巻き込まれるなど、誰が想像できるというのか。


 従者として注目を集めた今、辞めることは困難だけれど。それでも、彼の安全を優先するのなら。

 従者として席を置きつつ、厄介な案件からは遠ざけるべきだろう。一名増員をかける程度、どうとでもなる。


 そんな気持ちで彼に視線を送るも、私は驚きに目を見開いた。

 彼が呆れきった表情で私を見ていたからだ。


 「君ってやつは、本当に……」


 盛大なため息を吐く彼に、私はむっと眉を寄せる。心配しているというのにこの反応。

 まあ、私が勝手にしていることだけれど。それにしたってこの反応は酷くないか。


 もうちょっと他にあるでしょう、と不満を露わにしていると、彼の指がこちらへ向かってくる。眉間の皺へ押し当て、ぐりぐりと動かし始めた。


 「ちょ、いきなり何!?」

 「それはこちらの台詞じゃないかな?」


 君こそ、いきなり何だ。不服そうに言う彼は、未だに一定の強さで弄ってくる。不満を行動で表しているらしい。


 「あーもう! いい加減やめてちょうだい!」


 両手で彼の手を押し返す。ぐりぐりと押されていたからか、何だか眉間に違和感が残った。


 右手で額を撫でていると、不機嫌そうな視線とぶつかる。机に肘をつく姿は、とても従者とは思えない格好だ。

 ありのままでいいとは言ったけれど、ここまで明け透けだと感心する。やはり、この男の心は鋼でできているに違いない。


 「言いたいことがあるのなら口で言ってちょうだい。よく回る口があるでしょう?」

 「おや、君には劣ると思うけれど」

 「よく言うわ」


 じとりと彼に視線を送ると、彼は口角を上げる。相変わらずの勝気な笑みだ。


 「では言わせてもらうが。

 後悔など一つもない。俺は自分の意思で、君の従者になると決めたのだから」


 今更後悔するはずないだろう。呆れたように告げる姿は、実に堂々としている。誤魔化しや気遣いゆえの言葉ではないらしい。


 「でも、厄介な事件ばかりじゃない。コードウェル公爵令嬢には絡まれるし、今では命に関わる事件まで起きている」

 「コードウェル公爵令嬢の件も、今起きている事件も、君が悪いわけじゃない。

 まあ、巻き込まれすぎだとは思うけれど。君が望んだわけではないだろう?」


 当然だ。厄介事など巻き込まれずに済むならその方がいい。

 特にブリジット嬢の件は理不尽過ぎる。乙女ゲームのヒロインだから始末したいとか、私に何の罪があるというのか。

 そもそも、ロマンスにどきどきするどころか、闇深い事件に心拍数が上がっている状況だ。世界観バグっていませんか。


 「望むわけないでしょう。人が死ぬような事件、巻き込まれるのはもちろん、起きることも嫌だと思うのに。

 コードウェル公爵令嬢の件も同様よ。乙女ゲームだとかヒロインだとか、意味が分からないわ」

 「まあそうだろうね。そういえば、彼女は乙女ゲームと表現していたか。ヒロインが恋をする物語だっけ?」

 「ええ、彼女が言うにはね」


 私がそう答えると、彼は思案するように両腕を組む。何を考えているのかと視線を向けると、彼はにっこりと笑って口を開いた。


 「ヒロインが恋をする物語ねえ……。君の側にいると、そんな甘酸っぱい話は期待できないように思えるけれど」


 最近血の気が多い話ばかりじゃないか。やれやれと肩を竦める姿に、私は拳を握る。


 好きで血の気が多い日常を送っているわけではない。リアル流血沙汰など勘弁だ。

 乙女ゲームのような華やかさがないと言われても、断じて私は悪くない。ヒロイン扱いは御免だが、だからといって、恋愛のれの字もないのは不可抗力だろう。


 特に最近は酷いものだ。吊り橋効果を狙うにしては、バイオレンス過ぎるイベントばかり。

 これが乙女ゲームとか冗談だろう。どれだけ平和的な場面のみを切り取ったのかと、製作陣に文句を言いたい。


 まあ、ここは現実で、ゲームそのものではないのだから詮無い話だが。


 「私だって、いつかは恋くらい……いや、恋になるかはともかく、結婚はするわ」


 彼の言う甘酸っぱい話になるかは不明だが、色恋沙汰と無縁のような言い方はやめていただきたい。

 令嬢の義務として結婚をする気はあるのだ。父の同意を得られるかは別問題だが。


 「ふーん? まあ君なら結婚相手には困らなそうだけれど……」

 「それはどうかしらね」


 現に今困っている。王家という予想外の選択肢をちらつかせるあなたの御父上のせいでね! そう内心で文句をぶちまけた。

 しれっとした顔をしているこの男に直接言えないのが残念だ。いつか絶対に文句を言わせてもらおう。


 「何にせよ、君に恋愛は当分先かな」

 「急いではいないけれど、突然なに?」


 問いかける私に、彼はにっこりと笑う。続けられた言葉を聞き、私は心の底からため息を吐いた。


 「君に変な虫を寄せ付けないのも、従者である俺の役目だからね」


 安心して勉学に励んでくれ。きらきらとした笑顔で言い放つ彼に、悪びれる様子は1ミリもない。

 彼の正体が分かった時点で覚悟していたが、やはり従者となったのは結婚がらみの狙いもあるらしい。

 これだけ堂々と言われれば、いっそ清々しいともいえる。


 「……それはどうも。でも、自分のことも少しは気に掛けなさいね」

 「というと?」


 少なくとも、現時点で王家に嫁ぐ気はない。嫁ぐメリットがないのだから。彼に恋をしているならばともかく、それもない。


 だからこそ、ちゃんと考えておいて欲しい。私という駒が使えなかったときのことを。

 玉座に着くのは、彼でなければならないのだから。


 「人の心配ばかりして、自分の幸せを逃さないようにってことよ」


 私が結婚したときに、独り身でも知らないわよ? そう告げる私に、彼はきょとんと目を丸める。

 予想外の言葉を言われたかのような反応に、その表情をすべきは私だとため息が漏れた。


 既に陛下へお断りの意思は伝えている。そんなことはもう知っているだろうに。


 「ははっ、君はやっぱり優しいね」


 楽しげな笑い声を上げる彼に、私の胸中に不安がよぎる。予想だにしない反応を見て、嫌な予感しかない。


 「優しいって?」

 「他人の心配をするところさ」


 従者の幸せまで気にする必要はないだろうに。穏やかに微笑みながらそう言うと、彼は表情を一変させた。


 笑顔なのは変わらない。

 けれど、その瞳は大きく変わっていた。私へ向けられる瞳には、確かな熱が込められている。じりじりと焼きつくような熱さに、思いがけず息をのんだ。


 「俺はね、好いた相手を諦めるほど物わかりのいい男ではないんだ」


 涼やかな声が、相反する言葉を口にする。

 どれほどの時間をかけても、どれほどの労力を費やそうとかまわない。そう語る彼の瞳は、獲物を狙うかのような鋭さがある。


 どくりと心臓が鳴る。恋に落ちるような、そんな可愛らしいものではない。

 この男は危険だと、本能が知らせているようだ。


 彼が優秀な人間であることは知っている。

 そんな人間が本気で執着するのなら、簡単に終わりはしないだろう。


 「……それはそれは。お相手の女性が可愛そうになるわね」

 「そうかもしれない。でも、大丈夫さ」


 にっこりと浮かべる笑みは、まるで薔薇のようだ。美しい姿のはずなのに、どこか棘がある。


 「俺が愛する女性は、その程度で根を上げるほど弱くないからね」


 全力でぶつかって、受け入れてもらえるまで努力し続けるさ。

 笑ってそう告げる彼に、私は小さく息を吐く。


 ああ、この男はやり切るのだろうな。そんな感想が脳裏に浮かんだ。

 努力を苦にも思わない姿勢。その姿勢に裏打ちされた実力。実力に相応しいだけの自信。

 

 その恋が、どれほど遠い道のりであろうとも。この男は決して諦めないのだろう。


 ――厄介な男に目をつけられたものだ


 「だから君は俺の心配などしなくていい。従者として君を支え、いつかは俺の幸せを掴んでみせるさ」


 腹黒さとは裏腹に、どこまでも真っ直ぐ相手を想う在り方は、酷く眩しく見える。


 恋ではなく、愛でもないけれど。

 不器用なまでの愚直さ、その在り方は、私の目に好ましく映った。

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