第76話 お茶会と噂話


 王都の一角にある美しい邸宅。赤レンガで造られた建物は、どこかレトロな印象を受ける。古くからある由緒正しいお家柄ゆえ、歴史があるのは間違いないだろう。


 快晴の今日、私はウィルソン公爵家で開かれるお茶会に招待されていた。屋敷の入り口にはソフィーたち三兄弟が出迎えに来ている。


 今日のお茶会は夏季休暇前にソフィーが提案していたものだ。すなわち、タンザナイト寮生との顔合わせである。ジェームズ殿下主催の交流会前に、顔合わせをしてしまおうというものだ。

 中には学園の生徒でない者もいるらしいが、高位貴族の集まりであることは間違いない。ここでの出会いは、殿下主催の交流会だけでなく、今後の社交にも役立つことだろう。


 幸いにして、本日は従者であるオーウェンが同伴している。その上、主催者は友人だ。他のお茶会よりは遥かに居心地の良い場所に、私がほっと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。


 ソフィーたちに導かれ、応接室に到着する。室内には、既に30名の出席者が揃っていた。

 皆私たちが入室するや否や、静かに立ち上がり礼をする。幼い頃より叩き込まれてきたのだろう。わずかなブレもなく行われる礼は美しかった。


 しかし、まさかここまで人数の多いお茶会だったとは。多くても10名程度の参加だと思っていたが、その三倍である。表情にこそ出さないが、内心驚いてしまった。

 急遽催されたお茶会でこれほどの人間を集められるとは。ソフィーが持つ影響力、その強さを目の当たりにした。


 「本日は聖女であり、私の友人であるシャーロット嬢にお越しいただきました。是非、この機会に彼女の人となりを知っていただけると嬉しいわ」


 そう告げるソフィーに促され、私は一歩前へ出る。極力穏やかに見える笑みを浮かべ、挨拶の言葉を述べた。


 「我が国の次代を担う皆様とご一緒できること、とても嬉しく思います。このような機会を作ってくださったソフィア嬢に感謝するとともに、皆様との出会いに感謝いたします。

 今日をきっかけに良き縁を紡ぎたいものです。よろしくお願いいたしますね」


 そう告げる私に、あたたかな拍手が降り注ぐ。周囲を見渡すと、皆さんが笑顔で手を叩いていた。どうやら歓迎してくれるようだ。

 今日のメインは交流を深めること。まずまずの滑り出しだろう。


 室内には、5つの円卓が配置されていた。室内の奥に二つ、中央に一つ、出入口付近に二つ並べられている。各席7名ずつ座るようだ。


 既に招待客は各席に割り振られており、開いているのは中央の卓のみ。

 そちらへ向かうと、そこには男女一人ずつの先客がいた。驚いたことに、その一人は私がよく知る人物である。

 パチリ、と驚きに目を瞬くも、あちらはくすりと微笑むばかり。種明かしはこの後してくれるのだろう。私も微笑んで席に着いた。


 「では、皆様お楽しみください」


 ソフィーの一言でお茶会が始まった。私たちの席には、ソフィーとイアン、ジュードのウィルソン公爵家の方々。私と従者であるオーウェン。加えて、先客である青い髪の少年と、私の従姉であるカーリーが同席している。


 「ふふ、驚かせてごめんなさいね、シャーリー」

 「本当に驚いたわ。でも、会えて嬉しい。最近伯父様にはお会いしたけれど、あなたには会えていなかったもの」

 「この前、父はアクランド邸に行ったのでしょう? 羨ましいわ、私も行きたかったのに」


 しょんぼりと眉を落とすカーリーに、私は微笑みを浮かべて濁す。仮に来たとしても、最終的に開かれたのはあの酒盛りだ。カーリーが楽しめたかは疑問である。


 「そう言えば、お二人は従姉妹でしたね」

 「はい、ソフィー様。当家の子どもは私一人ですので、カーリーのことは姉のように思っています」

 「嬉しいわ! 私にとっても、シャーリーは可愛い妹よ」


 にこにこと笑うカーリーに、私も微笑みを浮かべる。

 父が私を親戚から離していたために、カーリーと会うのは少し遅かった。会ってみればすぐに意気投合し、今ではすっかり仲良しだが。


 「ふふ、お二人はとても仲がいいのですね。本当の姉妹のようです。仲の良い姉妹というのはいいものですね」

 「ありがとうございます、ノア様」


 青い髪の少年が微笑ましそうに告げる。それにカーリーが嬉しそうな笑みを浮かべて礼を言った。


 さて、私はこの少年に会うのは初めてだ。歳は12歳ほどだろうか。美しい青の髪と瞳は、ある人を思い起こさせる。顔立ちこそ愛らしさがあるものの、高位貴族らしい悠然とした佇まい。おそらく、彼の息子だろう。


 「アクランド嬢とお会いするのは初めてですね。僕は、ノア・ロバート・コードウェルと申します。よろしくお願いしますね」

 「ご丁寧にありがとうございます。シャーロット・ベハティ・アクランドと申します。以後、お見知りおきいただければ幸いです」

 「もちろんです! とても優秀なご令嬢だと父から聞いております。ずっとお会いできるのを楽しみにしていたんですよ」

 「まぁ! 御父上からですか?」


 ノアの言葉に、私は目を瞬く。あの方が私の話をご子息にしていたのか。どこまで話をしたのかは分からないが、彼は嫡男。あのコードウェル公爵の跡を継ぐ身だ。

 あの貴族然とした公爵のことだ。家を継ぐ息子には厳しい教育を施しているに違いない。それであれば、おおよそのことは知っていると見るべきか。


 「はい。僕はいずれ父の跡を継ぎますから、話し合うことが多いのです。

 そのときに、アクランド嬢のお話をお聞きしました。若いご令嬢でありながら、広い視野を持つ優秀な方だと」

 「そこまでお褒め頂けるとは……これほど光栄なことがあるでしょうか。御父上から頂いたお言葉に恥じぬよう、精進せねばなりませんね」


 微笑む私に、ノアもふんわりとした笑みを見せてくれる。一見すると愛らしい笑顔だが、その実、隙は一つもない。

 さすがはコードウェル公爵のご子息といったところか。幼くとも、公爵家に相応しい振る舞いが身についてるらしい。


 「アクランド嬢のお言葉に、父も喜ぶことでしょう。父のみでなく、今後は僕とも親しくしていただけると嬉しいです」

 「こちらこそ、願ってもないお話ですわ」

 「良かった! では、シャーロット嬢とお呼びしても?」

 「もちろんです。私もノア様とお呼びしてよろしいでしょうか」

 「はい! 是非そう呼んでください!」


 嬉しいなぁ、そう喜ぶ彼は、無邪気な子どものようだ。愛らしい姿に自然と頬がほころぶ。彼がただの無邪気な子どもでないと分かっていても、つい微笑ましく見てしまう。

 それは、私の個人的な事情が関係しているのだが。


 脳裏に、かつて共に過ごした弟の姿が浮かぶ。10歳差の弟は、目の前にいるノアとそう変わらない歳だった。

 まだ小学生だった弟。男の子特有のやんちゃさはあったものの、決して姉を困らせることはしない子だった。


 貧乏暇なしを象徴するかのような我が家では、あの子に多くの時間をかける余裕がなかった。

 本当は、もっと我儘を言いたかっただろうし、甘えたかったはずなのに。いつも聞き分けよく、姉の言いつけを聞いていた。


 もう少しお金に余裕があったなら、あの子と遊ぶ時間を多く作れただろうか。生活のため、やめることはできなかったけれど。

 それでも。一人留守番する弟に、何も思わないわけではなかった。


 「シャーロット嬢?」


 どうかしましたか? ノアの声に、私はハッと意識を戻す。慌てて視線を合わせ、何でもないと笑った。


 彼を見ていたせいか、つい意識が過去に引っ張られたようだ。ここは社交の場、腑抜けている場合ではないと気を引き締める。


 「申し訳ございません、ついぼんやりと考えてしまいました。私は一人娘ですので、ノア様のような素敵な弟がいらしたらどれほどいいか、と」

 「ふふ、そう言われると照れてしまいますね! ですが、嬉しいです」


 何とか誤魔化せたようだ。にこにこと笑うノアに、私も笑顔を返す。

 本当に、愛らしい姿だ。年相応の無邪気さに、自然と頬が緩んでしまう。


 「僕もシャーロット嬢のような姉がいたらと思いますね。優秀な方が側にいてくださるのはありがたいことですから」


 実際はそうはいきませんでしたが、そう呟いて彼はティーカップを傾ける。


 これはどうしたものか。言うまでもない話だが、彼の実の姉はブリジット嬢だ。にもかかわらず、この発言はどういった意図なのだろうか。


 周囲には多くの人間がいる状況。皆各卓で話をしているとはいえ、こちらの話に聞き耳を立てていることは間違いない。当然、ここでの発言は、参加者全員にとって周知の事実となるだろう。


 幼い見目に反し、隙のない少年。感情のままに口を開いたわけではないだろう。


 「ノア様がそうおっしゃるのも無理はありませんわ。シャーリーは優秀ですもの。起業した成果も出ておりますし、聖女としてのお役目も幼い頃より果たしております」

 「幼い時分から行動されていたことに頭が下がる思いです。起業なさった頃は、今の僕より幼かったのでしょう? 未だロクな功績も出せていない我が身を、恥ずかしく思います」


 ソフィーはにっこりと笑みを浮かべて、ノアに話しかける。彼女としては、私の立場を固めるためにお茶会を催したのだ。ノアの発言は渡りに船だっただろう。

 互いの意図が合致した上での会話。そうは見えぬ素振りで話しているが、その裏では様々な思惑が巡っているようだ。


 「ノア様、恥じることなど何もございませんわ。

 私の功績とされておりますが、どれも周囲の支えがあってこそ。起業においてはウィルソン公爵家をはじめとする優秀な方々のお力添えがございました。

 聖女としての役目も、ここにいるオーウェンをはじめ、様々な人が手を貸してくれています。

 私だけでは決して、ここまで来られませんでした」

 「シャーロット嬢……、本当に謙虚なお方ですね」


 ますますうちの姉とは大違いだ、そうこぼすノアに、私は困ったように微笑む。


 どうやら、この子に姉を守る気はなさそうだ。以前も感じたことではあったが、コードウェル公爵家では、既にブリジット嬢を切り捨てる方向で舵を切ったのか。庇えない程度には、彼女の言動は問題だが。


 そんなことを考えながら、私は頬に手を当てて、小首を傾げた。


 「ノア様の姉君も幼い頃より努力なさっておいででしょう? ジェームズ殿下の婚約者として妃教育に励まれていると伺っております」

 「たしかに、姉は幼い頃より妃教育を受けておりました。それが身になっているかについては、僕としては発言できませんが」


 そう言って口を閉ざす彼に、私は微笑みを維持する。

 発言できない、その言葉が既に答えだ。彼にとって、ブリジット嬢は評価するに値しないのだろう。この発言は、彼女が王子妃に相応しくないと明言したも同義だ。


 実の弟からの酷評に、周囲はわずかに騒めいている。騒ぎ立てるような者はいないが、目配せし合うのを見る限り、相当な重みをもって受け止められただろう。


 「ノア様は、御父上によく似ておられますね」

 「父に、ですか?」


 突然の言葉に驚いたのだろうか。彼はきょとんとした顔でこちらを見つめている。それに一つ頷いて、私は口を開く。脳裏に浮かぶのは、誰よりも厳格な公爵の姿だ。


 「御父上とは何度かお会いしましたが、とても厳格な方だと感じました。それは全て、ご自身の立場とその重責を理解してのことでしょう」


 誰よりも貴族らしく、それでいて、どんな貴族にも負けないほどに領民を思っている。

 それゆえに、自身へも他者へも厳しいのだ。それは例え、自身の血を分けた娘であっても変わらない。


 「私が7歳の頃、初めて御父上にお会いしました。一人の少女を救おうと動いていたときのことです」

 「一人の少女、ですか。その方は……」

 「お察しの通り、平民の出です。平民でありながら、強い魔力の持ち主でした。それが理由で、酷い扱いを受けていたのです。

 見過ごすことができず、手をのばしたときのことでした」


 デイジーを父親の暴力から助け出した日。私は彼女をメイドとして雇い入れようと提案した。

 彼女の魔術属性は火。万が一魔力暴走を起こせば、農地が一瞬にして更地になる可能性があった。それを防ぐためにも、魔術訓練が必要だと話をしていたのだが。


 「御父上が私にこう問われたのです。君はその少女を拾い上げるつもりのようだが、それは子どもの我儘ではないのか、と。

 私は、世界中の人間を救えるわけではありません。どうしたって、救われる人と救われなかった人の差が出てしまいます。公平性に欠けると言われれば、それを否定することはできません。御父上のご指摘はもっともでしょう」


 苦境に立たされていたのは、何もデイジーだけではない。私が知らないだけで、同じ思いをしている人は他にもいただろう。

 それを知りながら、偶然目の前にいた人間を拾い上げるのかと。不公平だと言われることも覚悟の上なのかと、そう問いかけていたのだ。


 「それは……、とても、7歳の少女に問いかける内容ではありませんね」


 ノアは眉を下げ、困ったように言葉をこぼす。思いがけぬ父の厳しさに、彼も驚いているのだろうか。余所の子にまで厳しくしているとは思わなかったのかもしれない。

 申し訳なさそうな顔をする彼に、私は笑って首を横に振る。


 「お気になさらないでください。御父上のおっしゃることは正しかったですし、私も覚悟の上でしたから」

 「覚悟の上、ですか?」

 「はい。全ての民を救えず批判されようとも、それが諦める理由にはなりませんでした。

 何より、我が領地で起きたことです。民が苦しんでいるのであれば、救うために模索し続ける責任が私たちにはあると考えています」


 今救えなくとも、明日には救えるように。明日が無理なら一年後、その先でもいい。少しでも民が苦境から抜け出せるように。最善を尽くすのが、領主であるアクランド家の義務だ。


 「例え耳に痛い話でも、私たちは聞く必要があります。民の生活を、その命を背負っているのですから。きっと、御父上は誰よりもそれを理解されている。

 だからこそ、私に問われたのではありませんか? 公平性に欠ける振る舞いは糾弾される可能性がある。ときには、守るべき民から糾弾されることすらあるでしょう。

 それに耐えられるのか、そういう意味合いもあったと思うのです」


 公爵は本当に厳格で、自身にも他者にも厳しい人だ。それゆえに、例え幼い子どもであっても容赦はしなかった。

 貴族という立場を利用するならば、その責を担えるのかと。その行動が招く結果から目を逸らさずにいられるのかと、私に問いかけたのだ。


 「御父上と同じように、ノア様も厳しい目をお持ちのようです。

 それは、ノア様のお立場であれば必要なものでしょう。不足があれば、過ちがあるのであれば、例え姉君であっても否を唱える。その姿勢は、御父上によく似ておられます。

 きっと、ノア様が治める公爵領も、厳しくも温かな領地になるでしょうね」

 「シャーロット嬢、」


 ノアはじっとこちらを見つめている。数拍の間が空いて、彼はゆっくりと表情をほころばせた。蕾が花開くかのようなその瞬間は、目を奪われる美しさだった。


 「……ありがとうございます、シャーロット嬢。僕はまだ若輩者にすぎませんが、あなたの期待に応えられるよう精進します」


 ふんわりと微笑む様は、花のようで。まだ幼い彼の、本音が見えた瞬間だったのかもしれない。これから育っていく彼がどんな治世をするのか、今の私には分からないけれど、きっと美しい領地になるだろう。


 「ふふ。仲良くなれたようで何よりですわ」


 ソフィーは私たちを見てにこやかに笑う。

 その言葉に、周囲にも話し声が戻ってきた。ノアの姉を切り捨てるような発言に、皆固唾をのんで見守っていたのだ。空気が変わった今では、それぞれの卓で楽しげに会話を始めている。


 「やっぱり、あの噂は本当だったのかしら」


 そんな中、出入口付近の席からひそひそと語り合う声が聞こえた。ティーカップを傾けながら、何事かとそちらへ意識を向ける。


 「ええ、その可能性が高いのではないかしら。実際にこうしてお会いしてみると、あの噂も現実的に思えるわ」

 「どこからどう見てもご立派なお方ですもの……嫉妬から悪意を持っても可笑しくありませんね」


 後方から聞こえる会話は、何とも不穏な内容だ。その噂とやらが何なのかは分からないが、どうにも気にかかる。


 「あなたたち、興味深いお話をしているわね。せっかくですし、教えてくださらない?」


 ひそひそと話し合う令嬢たちに、ソフィーがにっこりと微笑みかける。それに令嬢たちは顔を見合わすと、戸惑いがちに口を開いた。


 「その……出所が不明ですし、真実かも分かりませんが……」

 「かまわないわ。噂なんてそんなものでしょう? それに、こうして集まったのだもの。色んな話を聞いてみたいわ」


 ねえ、シャーリー? ソフィーが私にボールを投げてくる。彼女の言葉に微笑んで頷くと、令嬢たちへ聞かせてほしいと願い出た。

 私の後押しもあり、話す気になったようだ。ぽつぽつと言葉をこぼし始める。


 「実は、この前聞いてしまったのです。イグニールの一件は、誰かが仕組んだのではないかと」

 「誰かが仕組んだ、ですか?」


 令嬢たちの言葉に、私の思考が一気に切り替わる。なんせ、あの騒動についての噂だ。未だ不明瞭な点が多かった事件。学園側のみでなく、生徒や保護者にとっても聞き逃せない話である。


 「そうです。基本的に、学園への侵入は不可能でしょう? ましてや魔獣だなんて。入られたのにあのときまで気付かなかったというのは不自然ではないか、と」


 その指摘は納得できるものだった。イグニールの身体は巨体だ。誰にもバレることなく潜伏できたとは考えにくい。

 そう考えると、侵入してきた直後に遭遇したと仮定するのが自然だ。潜伏が可能だったと思うよりも、余程現実的と言える。

 日中という時刻でありながら、侵入を許した点については説明が困難ではあるが。


 「ですから、あのイグニールは誰かが招き入れたのではないかと話が出たんです」

 「なるほど……」


 誰かが手引きしたのなら、気づかれずに侵入できたのも理解はできる。誰が、何の目的で、あのタイミングに引き入れたのかは分からないが。


 「そしてその関係者として疑われている方がいらっしゃるのですが……」


 そこで令嬢は言葉を濁す。名前を挙げづらいのだろうか。右往左往した瞳が、ある一人のところで止まる。


 「……おおよその予想はつきました。どうぞ、おっしゃっていただいてかまいませんよ」


 微笑んだままそう告げるノアは、有無を言わさぬ雰囲気を纏っている。その姿に畏怖を抱いたのだろうか。令嬢は胸元を強く握りしめて、恐る恐る口を開いた。


 「噂では、ブリジット嬢が関わっているのではないかと言われています。自身の婚約者の座を奪いかねないアクランド嬢を、始末しようとしたのだと……」

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