第75話 思いを馳せる夜
明かりが落とされた廊下。暗闇に包まれた中を、ランプを手に進む。
不自然に目が覚めてしまい、もう一度眠りにつくことも難しい夜。何か飲み物でも飲もうかと厨房の方へ向かうことにした。貴族の令嬢が立ち入る場所ではないが、誰も起きてこない時間だ。バレずに済むだろうと歩を進める。
一階へ降りようとしたときのことだ。不思議な光景に足が止まる。踊り場を挟んだ反対側の廊下、その一室から光が漏れていた。
あの部屋は父の書斎だ。いつもならきっちりと閉められているというのに、何故か扉がわずかに開いている。
首を傾げ、しばしその光景を見つめる。ただの換気かもしれないが、わざわざこの時間にするだろうか。
扉を開けているくらいだし、中を覗いても問題はないだろう。そう結論付けて、私は進行方向を変える。深夜という時間ゆえ、足音を立てぬよう静かに近づいた。
扉の隙間から覗き込む。室内にはオレンジ色の間接照明が灯っていた。真夜中という状況と相まって、落ち着いた印象を受ける明かりだ。
ソファーには、伯父が一人で座っていた。その手には、ロックグラスが握られている。
どうやら父と二人で酒盛りをしていたらしい。兄弟水入らずの時間を過ごしていたようだ。久々の団欒に話が弾んだのかもしれない。
しかし、なぜ扉が開いたままなのだろう。室内に父の姿がないところを見るに、一時的に部屋を出ているのだろうか。ラウンドテーブルへ視線を移すと、空になった酒瓶が置かれている。
もしかしたら、追加で酒を取りに行ったのだろうか。その際に、扉をきちんと閉めずに出てしまったのかもしれない。
「それで? 俺の可愛い姪は、いつになったら部屋に入ってくるんだ?」
突然聞こえた言葉に、心臓がドキリと鳴る。室内の観察を止めて、ゆっくりと伯父の方へ視線を向けた。ばっちりと絡み合った視線に、私は肩を落とす。
伯父は魔力こそ強くないものの、武術に優れた方だ。経験値の差ゆえか。あっさりと気配を読まれてしまったらしい。
「申し訳ございません、伯父様」
扉が開いたままだったので、気になってしまって。そう謝罪すると、伯父はからりと笑う。良いから入ってこい、そう促されて室内へ足を踏み入れた。
穏やかなオレンジ色に照らされた部屋は、決して明るいとは言えない。言うならば、バーのような雰囲気だろうか。酒を飲むには相応しい照明に、なんだか懐かしい気持ちになった。
ふと、かつての職場を思い出す。あの店はシャンデリアが飾られていたけれど、照明は大分抑えられていた。雰囲気づくりのためもあるし、多少暗い方がキャストが綺麗に見えるのだ。似たような明るさに、懐かしさを覚えたのだろうか。
「酒臭くてすまんな」
伯父に勧められ、向かい合わせのソファーへ腰かける。
本来ここに座っていたのは父だったのだろう。ラウンドテーブルの上には、空になったロックグラスが一つ置かれていた。
「お父様と飲まれていたのですか?」
「あぁ。丁度酒が切れてしまったからな。今あいつが取りに行っているところだ」
酔いを醒ますにも丁度いいだろう。そう言って伯父はグラスに残っていた酒を一気に飲み干す。ボトルを見る限り、どうやらウイスキーらしい。
「兄さん取って来たよ……って、シャーリー!?」
父が戻って来たようだ。酒瓶片手にこちらを凝視している。私がいるとは思っていなかったのだろう。目をぱちぱちとさせる姿は、どこか可愛らしい。くすりと笑みをこぼすと、伯父も可笑しそうに笑った。
「いやーいい反応するだろうとは思っていたが、予想通りだったな!」
「兄さん!!」
伯父の笑い声に、父は声を荒げる。恥ずかしさからか、ほんのりと頬が赤く染まっているように見える。薄暗い部屋ゆえ、はっきりとは分からないのが残念だ。
「お父様、おかけになってはいかがでしょう?」
「う……、そうだね」
父は私の言葉にすごすごと足を進める。伯父がそれにまた笑いをこぼすと、父が伯父を睨みつけた。覚えてろよ、と小さく呟いたのが耳に届く。仲のいい兄弟でなによりだ。
それにしても、父は結構酔いが回っているようだ。普段は伯父を兄上と呼んでいるのに、今は兄さんと砕けた呼び方になっている。幼少の頃はそう呼んでいたのだろうか。昔の父を垣間見たようで、何だか微笑ましく感じた。
「いい酒だな。何年ものだ?」
「13年ものだよ。この前、仕事の関係者からもらったんだ」
「そりゃあいい! 寝かされた酒は大抵美味いもんだからな」
そう言うと、伯父は戸棚へと歩いていく。引き戸の中にグラスがしまわれており、三つ取り出してくれた。
「シャーリーも成人したんだ、飲めるだろう?」
「はい、よろしければ是非」
私の返事に気を良くしたのか、伯父は鼻歌を歌いながらグラスを並べた。アイスペールを引き寄せ、右端から順に氷を入れていく。照明の光を受けて輝く氷は、きらきらとして美しかった。
伯父からグラスを受け取り、父が指二本分のウイスキーを注ぐ。琥珀色の海に氷が沈む様は、かつて何度も見た光景だった。
「それじゃ、乾杯するか」
全員の手元にグラスが行き渡る。伯父がそう言うと、父へ視線を向けた。どうやら、乾杯の声掛けは父の役目のようだ。
私たちの視線を受けて、父は軽く咳払いをする。普段はこういうことをやる役回りではないからか、どこか不慣れな仕草に頬がほころんだ。
人付き合いがあまり得意でない父は、社交の場にもほとんど出ることがない。それゆえ、自身で乾杯の音頭をとる機会はそうないだろう。
「それでは……乾杯!」
「「乾杯!」」
グラスを掲げ、皆で視線を交わす。父も伯父も楽しげな笑顔を浮かべていた。
グラスを傾けると、特徴的な甘い香りが感じられる。前の世界でいう、バーボンに近いだろうか。この世界ではどう分類されているか分からないが、覚えのある香りに口角が上がった。
ウイスキーを口に含む。まず感じたのは、濃厚なバニラの香りだ。続いて果実を思わせるフルーティーな風味が口いっぱいに広がる。美味しい。自然と気分が上昇するのを感じた。
最後にはピリリとした余韻が舌を打つ。甘いだけではない、味を引き締める辛さがあるものは、私が以前から好んでいたタイプと同じだった。
「やはり美味いな、この酒は」
「そうでしょう。せっかくだからと持ってきました。
シャーリーはどうかな? 飲みづらくないかい?」
「そんなことはありません。とても美味しいですよ」
そう告げる私に、父は嬉しそうに頬を緩めた。
「それは良かった。これからはシャーリーとこうして飲めるようになるんだね。……あっという間だったなぁ」
そう言うと、父はグラスをくるりと回す。きらきらと輝く氷は、父の手に従いグラスの中を泳いでいく。
「シャーリーが生まれてから、色んなことがあった。多くの驚きや経験をさせてもらって、ここまできたけれど。本当に、あっという間だった」
カラン、と氷が音を立てる。響いた音は、どこか寂し気に聞こえた。父の気持ちを代弁するかのようなそれに、私は思わず息をのんだ。
「早いなぁ……もっと、ゆっくり時間が流れると思っていた。気がついたらデビュタントを迎えて、こうして一緒にお酒も飲めて」
そこで言葉を切ると、父は私の方へ視線を向けた。その瞳には、うっすらと涙が浮かんで見える。
「そして、いつの間にか結婚とかいう話が出始めた。どうして! どうしてこんなに早く……!」
「お父様……」
しんみりとした空気をぶち壊す父の発言に、私は肩を落とした。伯父は腹を抱えて笑っている。父としては大問題だろうが、私だっていつかは結婚するというのに。まだ相手が決まっていない段階でこれでは、先が思いやられる。
「うぅ……酷すぎる。たった一人の娘なんだぞ? そんな早く連れて行こうとしなくていいじゃないか。
それに、それに王家なんて! どうやって会いに行けというんだ? 頻繁に顔を見られないじゃないか!」
「そりゃあ王子妃になったら無理だな。そもそも、公務が忙しくて父親の相手なんかできんだろ」
「やっぱり王家はダメだ! 絶対ダメ!」
父が大きな声で否定する。私としては、結婚後頻繁に会いに来る予定だったのかと驚きだ。父ならやりかねないと思ってしまうあたり、私も毒されているかもしれない。
「そういえばシャーリーはどんな男と結婚したいんだ?」
伯父の質問に、私は頬を引きつらせる。最近この手の質問が多すぎやしないか。
そして父よ、視線が痛い。睨みつけるかのような熱視線は止めてくれ。
内心でため息を吐きながら、私は口を開く。酒が入っているせいか、伯父はやけに楽しそうな顔で私の返答を待っていた。
「伯父様の質問は、どういった条件ならいいか、ではないのですよね?」
「もちろんだ。シャーリーのことだ、条件を聞いたらアクランド子爵家にとって利益になる相手としか言わんだろう?」
バレている。伯父の言うとおり、条件面ならそう答えるつもりだった。予想できる答えゆえに、除外されたらしい。純粋にどういった男性が好みか、そういう質問のようだ。
この手の質問は昔から苦手なのだが、仕方あるまい。私は以前シアたちに答えた内容を口にすることにした。
「理想の男性という意味では、朝の挨拶ができる人ですかね」
「朝の挨拶、か?」
伯父が驚いたように目を丸める。父からしても意外な答えだったのか、不思議そうに首を傾げていた。
「そうです。朝の挨拶。どんなときも挨拶ができる人が良いのです。それこそ、前の晩に喧嘩をしていたとしても、です」
その言葉に、伯父が感心したように頷く。彼も覚えがあるのだろう。どこか言い難そうに口を開いた。
「……それは大事だな。うちも喧嘩した日の翌日は大変なことになっている」
「あら、そうなんですか?」
「それはもう! 朝から冷戦状態だよ。どちらかが謝らなければ、視線一つまともに合わないからな」
とはいえ、喧嘩をするとどちらも意固地になるのが大概なんだが。そう言って伯父は頬をかく。自身が意地を張っている自覚があるのだろう。
以前、シアバターのハンドクリームを見せた際、奥様へ贈ろうとしていたのを覚えている。仲の良い夫婦であれど、やはり喧嘩はあるようだ。
「謝るのってきっかけ一つだと思うんです。どちらも意地を張り続けてしまうから、中々謝れない。
そんな中でも、朝一で気持ちよく挨拶できれば違うでしょう? 笑顔で挨拶してくれる相手に、意地を張り続けるのは難しいですから」
もちろん喧嘩の内容にもよるだろうが、多くの夫婦喧嘩は日々の積み重ねで起こるもの。挨拶もなく、殺伐とした空気で過ごしていたら余計ストレスが溜まってしまう。
だからこそ、きちんと挨拶はしたいのだ。今日も一日よろしくと、いつだってそう言える関係でありたい。
「毎日共に過ごすうちに、適当になりがちなのが挨拶ではないでしょうか。それが続けば、家で顔を合わせても無言の空間になりそうで嫌なんです。
例え政略結婚であっても、温かな家庭は築きたい。生まれ育った家より、長い時間を過ごすことになる場所ですから」
そう告げると、ぐすりと鼻をすする音がする。隣を見ると、父がぽろぽろと涙を流していた。慌てて声をかけるも、父はハンカチで涙を抑えながら泣くばかりだ。
「うぅ、シャーリー、いつの間にかそんなに考えていたなんて……! 本当に大人になっちゃったんだね……!」
「ずっと子どもでいられても困るだろうが」
伯父が冷静なツッコミを入れるも、父はただ悲しそうに涙を流している。普通は子どもの成長に感動の涙を流すべきところだが、ここで悲しむのが父らしさなのかもしれない。いつか子ども離れをさせなければ。
「全く、羨ましい悩みだな? オスカー。うちは早く成長してくれと願ってばかりだったというのに」
伯父は苦笑いを浮かべて言葉をこぼす。伯父様も娘がいる身だ。自身と父を重ね合わせているのだろうか。
それにしても、早く成長してくれとは何とも不思議なものである。成長を願うのは普通だが、それほど早く成長して欲しいものなのだろうか。
「うちの娘は、あれでいて我儘放題だったからな。それにどれだけ苦労したことか」
「え、カーリーが我儘ですか?」
伯父の言葉に目を丸める。カーリーとは、以前から従妹として仲良くしている。誕生日パーティーにも来てもらったことがあった。
おっとりとした穏やかな少女、それがカーリーの印象だ。幼い頃に多少の我儘を言うことはあるだろうが、我儘放題と称されるほどとは思えないのだが。
私の言葉に、伯父が眉を下げる。困ったように微笑むと、彼女が幼い頃の話を聞かせてくれた。
「今でこそ聞き分けも良くなったし、物事の善悪もつくようになったがな。小さいときは酷いものだった。言ってしまえば、今のジェームズ殿下みたいなものか。
自分に手に入らないものはないと思っていたし、それが当然だと思っていたんだ。生まれたときから貴族に囲まれていたから、裕福であることが当たり前に感じたのだろう」
カーリーは由緒正しい伯爵家の娘として生まれた。他人から見れば、銀の匙をくわえて生まれてきた子どもというわけだ。
幼い頃は家の財政事情など知らないだろうし、貴族の体面を保つ程度には高価な物に囲まれていたはず。裕福なのが当然に思えても無理はない。
実際のところ、当時のペイリン伯爵家は決して裕福ではなかっただろう。
伯爵家は代々魔術師の才に頼ったビジネスをしていた。当然、優秀な魔術師を輩出できなければ、そのビジネスモデルは破綻する。
以前伯父は伯爵家を斜陽の家と呼んだが、そう称するほどには難しい状況にあったようだ。
今は皆で起業した会社、ペチュニア株式会社がある。配当金を受け取ることができ、伯爵領内の雇用も増加した。以前よりは遥かに安定した税収もある。家計は大分安定したはずだ。
それでも、カーリーが幼かったときは相当に苦労していたはず。幼かった彼女には、理解できなかったのかもしれないが。
「そのせいか結構我儘なところがあった。貴族ゆえの傲慢さとも言えるか。決して悪意があったわけではないが、無神経さはあったように思う。それを見るたびに、厳しく叱るのが俺の役割だった」
おかげで小さい頃は怖がられたものだ、伯父はそう言ってグラスを煽った。
要するに、無知ゆえの過ちだったのだ。そのまま育ったなら問題だが、今のカーリーにそんな素振りはない。伯父にたくさん叱られ、様々な経験を経て学んでいったのだろう。
真剣に叱り、諭してくれる人がいたかどうか。それが、カーリーとジェームズ殿下の違いだったのかもしれない。
「そういえば、僕がシャーリーを叱ることはなかったなぁ」
「そうでしたね。唯一ぶつかったのは、この前が初めてでしょうか」
「ああ! 聞いたぞ、シャーリー! 学園に残るかどうかで、こいつと魔術試合をしたんだろう?」
オスカーが負けるところを見られるなら、忍び込めば良かった! 楽しげな伯父に、父が眉を顰める。
「僕が負けるところなら、兄さんは見てきたじゃないか。僕は兄さんに剣の腕で勝てたことがない」
「そりゃあ魔術が敵わないのに、剣まで弟に負けるわけにはいかんだろう? そうじゃなくて、シャーリーに負けるところを見たかったんだよ」
親子で力比べとは粋な話だ。両腕を組んで笑う伯父に、父はため息を吐く。「こういう脳筋みたいなところが理解できない」とこぼし、父も一気にグラスを煽った。
「ふふ、分かってはいましたけど、伯父様とお父様は仲が良いのですね」
男兄弟ゆえの遠慮のなさか、二人はポンポンと言い合うことがある。子気味いい会話は、聞いていてなんだか楽しくなるものだ。空いたグラスに氷を入れながら、自身はどうだったかを思い返す。
かつて自分にも弟がいたが、10歳も年が離れており、喧嘩など起きなかった。性別も違ったため、例え弟が大きくなったとしても、こんな風に言い合う日は来なかっただろう。
「仲がいい、か。たしかに、幼い頃からよく言い合いはしたな。
知っているか? シャーリー。お前の父親は、小さい頃は相当泣き虫だったんだぞ?」
「そう言う兄さんだって、小さい頃は怖がりだったじゃないか。幽霊が怖くて夜中起こされたこと、忘れてないからな!」
「お前、それは言わない約束だろう!」
二人は互いに幼い頃の暴露話を始める。酒瓶を傾けながら、その様を楽しく眺めた。普段から多少の言い合いはするものの、こうして幼い頃の話まで聞くことはなかった。双方ともに酒が入っているからか、普段より饒舌になっているに違いない。
側にあった布巾を手に取り、グラスの水滴を拭き取る。未だに言い合いをしている二人は、まるで少年のようだ。
いつもは頼れる大人だというのに、こうなってしまうのは酒の力か。それとも、懐かしい少年時代を思い出せたゆえのことだろうか。
くすりと笑みをこぼし、二人の前にグラスを差し出す。すると、それに気づいた伯父が驚いた声を上げた。
「シャーリー、いつの間に酒を注いでいたんだ? 全く気付かなかったぞ! しかも水滴も綺麗に拭き取られている。手が濡れなくていいな!」
ありがとう、そう言って私の頭を撫でる伯父に、私はにこりと微笑みを浮かべる。その反面、脳内では軽いパニック状態に陥っていた。
――何をしているんだ私は!!
つい癖で酒を作っていた自分に呆れかえる。こんなところでキャバクラ時代のスキルを発揮してどうするのか。
あの頃は、お客様のお酒が途切れてしまわぬよう、いつも話しながら酒の進み具合を確認していた。さり気なくグラスを取り、酒を注いでは目の前に置いていたものだ。
その際、グラスの水滴は必ずハンカチで拭っていた。お客様が手を滑らせたら大変だし、洋服に水滴がつくのも嫌なもの。染みついた癖ゆえに、無意識に動いていたようだ。
「うん。ウイスキーの量もピッタリだ。凄いね、シャーリー。たった一回だったのに、覚えていたのかい?」
「初めてお父様たちとご一緒する機会ですから。楽しくて見てしまいました」
そう言って言葉を返すも、残念ながら正解は異なる。単に、シングルかダブルかの確認をしていただけだ。父が指二本分のウイスキーを注いだ時点で、ダブルが好みかと判断していただけのこと。
ここまで感心されると、なんだか複雑な気持ちになってしまう。単なる職業病です。
「~っ! なんていい子なんだ! やっぱりうちのシャーリーは天使だ!」
「親馬鹿と言いたいところだが、これは言えんな。男親と酒を飲むなんて、嫌がる娘も多いと聞くからなぁ……」
うちの娘は飲んでくれるだろうか、そう呟く伯父に、私は微笑んで言葉を濁す。
それはカーリー自身にしか分からぬことだ。数年もすれば普通に付き合ってくれるだろうが、今付き合ってくれるかは不明。年頃の娘とは、難しいものである。
「ほら、シャーリー。気を遣ってばかりじゃなく、シャーリーも飲んでね」
「ありがとうございます、お父様」
父によって注がれたグラスを受け取り、礼を言う。感動しきりの二人は、再びスイッチが入ったらしい。まだまだ飲む気のようだ。
まぁ、たまにはこんな夜もいいか。元々寝つきが悪くて起きた身。こうなったら気が済むまで付き合うとしよう。
楽しげに笑い合う父と伯父を見て、私は目を細める。
こんな日常が、どうかこれからも続きますようにと願うばかりだ。
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