タイムカプセル

成阿 悟

タイムカプセル


「この辺だったよね?」

 英理奈えりないてきた。

「うん。この大きなかえでの木から、ラッキーセブンの7歩分、南に行ったとこだったから、その辺であってるよ」

「じゃ、掘り出そうか」

 英理奈と私は、大きなシャベルを持って穴を掘り始めた。

 中学の卒業式の後、ふたりでこの学校の裏山にタイムカプセルを埋めたのだ。

 綺麗な夕日が見えるここは、私たちふたりだけの秘密の場所だった。

 私と英理奈は、小学生の頃からの親友で、その後中学、高校もずっと同じ学校、同じクラスで過ごした。

 遊ぶのもいつも一緒で、成績もふたりでトップを争っていた。

 と言っても、英理奈が毎回トップで、私はずっと2位だったのだけれど。

 それからも、英理奈がずっと私と一緒がいいと言って、大学、就職先までも同じ。

 その英理奈が、来春、結婚することになった。

 お相手は、将来の重役候補と噂の、職場の先輩。

 仕事も出来て、顔もイケメンの、女子社員みんなの憧れの的。

 もちろん、私も好意を持っていた男性だったけど、英理奈とならお似合いの、美男美女カップルだ。

 英理奈が、その結婚式でタイムカプセルに入れた手紙を使いたいと言うから、掘り返そうということになったのだ。

 おしゃべりしながら、地面をかなり掘り進んだけれど、まだタイムカプセルは出てこない。

「埋める時にさ、動物に掘り返されないように深く、って掘り始めて、気づいたらけっこう深い穴掘っちゃってたじゃん」

「あ、そうだったそうだった」

 英理奈は笑って答える。

 しゃがめば隠れられそうなくらいまで掘ったところで、ようやく、大きめの円柱の缶をビニールで包んだタイムカプセルが出てきた。

 「やったぁ! タイムカプセルはっけーん!」

 「すごーい、思ったよりキレイなままだね」

 ふたり、はしゃぎながら穴から上がって蓋を開けると、中には当時好きだったアイドルのグッズと一緒に、『未来の私へ』と書かれた封筒がそれぞれ入っていた。

 英理奈は早速さっそく、封を切って手紙を読んでいる。

 その表情は懐かしそうに微笑んでいた。

 私の分は、手紙の内容は読まなくても覚えている。

 私は、封筒を上着のポケットにしまうと、タイムカプセルの代わりのものを、穴に入れて埋め戻した。

 そうして英理奈と別れて家に戻った。

 

 

 タイムカプセルに入っていた封筒を開け、かわいいキャラクター柄の便箋を取り出して開く。

 そこにはこう書いてある。

『未来の私へ——今日は、ようやくあなたの願いが叶う日ですね、明日あしたからは明るい日々が待っています。』

 短い一文だけの手紙。

 そしてその通りに、私の願いは叶った。

 すごく嬉しそうな笑顔の自分が、窓ガラスに映っている。

 

 お気に入りの入浴剤を入れた暖かいお風呂にゆっくりと浸かって、疲れた身体をほぐし、ふかふかのお布団に潜り込んだ。

「——おやすみ、英理奈」

 

 

 私は、山中の土の下にいる彼女にそう言って、眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

タイムカプセル 成阿 悟 @Naria_Satoru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説