第38話
俺と
「実はね、
きっと今、胸の大きな女子生徒が前を横切ったからだろう。良太が唐突にそんなバカ話をぶっ混んできた。
「ほう、そりゃ凄い。して、どんな活動をしてんだ?」
こちらもその嘘に全乗っかりする。
意味はない。ただただ退屈だったからだ。
「最近はね、おっぱいを上品に取り扱う養成所の生徒向けにね、練習曲を作ってるんだ」
良太は紙パック牛乳をロック・ウィスキーのグラスを傾ける様にして言った。
全く以て意味がわからないが、とりあえずその話を聞く。
「その曲を自然と弾く事ができれば、おっぱいも自然と上品に取り扱う事ができる魔法の曲を作りたいんだけどね、今ちょっと僕はそれで悩んでるんだよ」
「へえ。何に悩んでるんだ?」
「如何に滑らかに弾いてもらうかなんだけどね……」
何の身にもならないアホな話。俺と良太は、やる事がなくなるとよくこんな無駄話をしている。
毎度の如く良太がおっ
もちろん話が広まったところで、何も得るものなどない。ただ、何となく愉快な時間を過ごせて、時間が潰せる。それだけの遊びだった。
「……ただね、何曲作っても完璧なメロディができないんだ。そしてその時、僕はその作曲者として、最大級の欠点を抱えている事に気付いてしまったんだよ」
「ほう? そりゃ大問題だ。どんな欠点なんだ? それを解決できれば、その曲は完成するかもな」
バカ話はだらだらと続く。
その欠点にも曲にも何も興味はない。ただ、良太がどんな事を言い出すのかだけに興味がある。それだけだった。
「その欠点とは……」
「欠点とは?」
「僕は、おっぱいの感触を知らなかったんだ……!」
致命的な大欠陥だった。
養成所の作曲者の前に、神奈川おっぱい副理事とやらの選定基準を改めた方が良い。
「そこで、僕は麻貴に訊きたいんだよね」
「ん?」
「おっぱいの感触とは、どんな感じなんだ⁉」
「あー……どんなっていうと難しいなぁ。とにかく柔らかくて、もちもちしてて、でも張りもあって」
それでいて本能的に求めてしまうものなのだ。あれこそ人類の神秘ではないかとさえ思える。
それを思い浮かべなら、何も考えずに頭に浮かんだ言葉を話していると、隣の良太が突如ぷるぷる震え出した。
「ん? どうした?」
「麻貴……何で、お前はまるでその感触を知ってるかの様に話せるんだい?」
「……あ、やべ」
しまった。何も考えずに頭に思い浮かんだ事をそのまま話してしまった。
「さーて、そろそろ教室帰るか」
「──ちょっと待ったぁッ!」
俺が立ち上がろうとすると、肩をがしっと掴まれて阻止された。
「お、お、お、お、お前! まままままさか、あの
そのまま良太は俺の胸倉を掴み、ヤンキーの様に睨み上げてくる。良太の目は血走り、口調はまるで壊れたロボットの様になっていた。
「さあ、午後の授業も頑張ろうぜッ」
とりあえずこれでもかというくらい爽やかな笑顔で、親指を立ててやった。
「頑張れるかーッ! 話せ、お前はどこまで知ってるんだ、話せ!」
「午後は数学かぁ。大変だなぁ。でも一緒に、頑張ろうな!」
「誤魔化すな! そして何なんだその爽やか過ぎる笑顔は! 不気味なんだよ!」
完全に失言だった。
これまでは何も考えずに頭に浮かんだ事を話していても問題なかったのだが、知らない間に地雷も抱えてしまっていたのだ。これは彼女がいる事のデメリットだった。
「この手か、この手なのか⁉ この手は全てを知っているのか⁉」
良太が俺の手を掴んで、手のひらをまじまじと見る。
「という事は、待てよ……? 僕がこの手を舐めれば、間接的に
「うわああああ⁉ やめろ、離せ! 俺の手を舐めようとするなぁぁッ!」
手を掴んだままベロを出して舐めようとする男子高校生と、それを必死に拒絶する男子高校生の地獄絵図が出来上がってしまった。
最悪な昼休みだった。
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