刈田→鎌田
「新参者に負けるとはいい恥さらしだな。ああ?」
両手を縛られ、空中で吊るされたまま
「がっ……ぁあっ……!」
カットマン、刈田は特別指導室で兄貴分の洗礼を受けていた。
この獄門小学校に来た新入りには、織井兄弟へと忠誠を誓わせるべく、支配下の構成員がヤキを入れる習慣がある。不良の世界は舐められたら終わり。それを知っている織井兄弟は、この監獄を恐怖で支配するようになった。
織井兄弟に逆らう者は抹殺されなければならない。織井兄弟に逆らう者を野放しにする者も同時に抹殺されなければならない。
――恐怖が生んだ、鉄の掟。それを破る事は異端者となる事を意味する。
宙ぶらりんになったままの刈田に、地獄のボディーブローが左右から突き刺さる。アバラが折れて、呼吸が出来なくなる。噎せると、首回りが血で染まった。
「なあ」
「俺達の稼業っていうのはなあ、恐れられてナンボなんだよ。分かるか?」
「……はぃ」
消え入りそうな声。吊るされたまま絶望する。
小学生にして二メートルを超える巨体。上腕二頭筋や背中、首回りの肉が隆起している。ガチガチのオールバックはⅤシネマの影響と思われる。
目つきはやたらと鋭く、常人なら少し睨まれただけで全身が動かなくなる。世界中の子供を攫って来ても、こんなバケモノはいないはずだ。
「俺達のビジネスもうまくいっている。その背景には、逆らえば殺されるという恐怖があるからだ。それがあるからこそ、俺達は優雅な生活を送る事が出来る」
言いながら、レバーブローを突き刺す。不意を突かれた刈田は、堪えられず嘔吐した。血とともに大量の吐瀉物が床へと落ちていき、跳ねている。
「その威信を傷付けた事がどれだけ罪深いか、分かるか?」
鈍い、肉を打つ音。断続的に響いて、そのたびに血が床に滴っていく。
「お前は人のタマを切り落とすのが趣味らしいな」
何を考えているのかは一発で分かった。だが、分かりたくない。
刈田は脳裡を飛び交う予感を必死に消そうとしていた。
「やっ……やめ……!」
足をばたつかせていると、腹を強打される。意識が遠のく。いくらか、救われた気がする。
――だが、
「おい、お楽しみの時に寝てるんじゃねえよ」
バケツで顔に大量の水をかけられる。
せっかく落ちかけた意識がもとに戻される。
「ああ、やめ、やめ……っ」
「昔、女子はブルマっていうのを履いていたらしいぜ。明日から使ってみりゃいいんじゃねえか?」
もがく。もはや主従関係など何もなく。
我を忘れて、
「動くんじゃねえよ」
無防備なまま、打ち下ろしの右ストレートが顎に入った。骨が砕けて、刈田が気絶した。
「ああ」
「名前も、鎌田に改名しねえとな」
下卑た嗤い。
少ししてから、学校中に響き渡る断末魔が上がった。
その声は、学校中の人間に粛清が行われた事を知らしめた。
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