空っぽになった金魚鉢

@Fuuka__003

第1話 空っぽになった金魚鉢

その日は雨だった。


窓ガラスに流れ落ちる水滴は

何とも言えず綺麗で、

雫ごしには自分の姿が映っていた。


そんな自分を見つめながら思う。


もっと瞳が大きければ 。

もっと鼻筋が通っていれば 。

もっと綺麗な髪だったら 。


もっと…


考えているとキリがなかった。



ー私は私が嫌いだったー




あれはまだ私が幼かった頃。


私には父親はいなくて母と2人で

暮らしていた。


どうして父親がいないのかは、わからない。


それは高校生になった今も同じだ。

小学生の時までは母親に尋ねていた。


「どうして私にはお父さんがいないの」 と。


そのたびに母親は目の色を変えて

私を睨みつけた。


私にはたくさんの痣があった。



中学生になって、はじめて父の写真を見た。

私はそこで父の顔を知った。


私はとても父に似ていた。

母の綺麗な顔立ちとは明らかに違っていた。


私がもし、母のように綺麗だったら。

私がもし、父ではなく母に似ていたら。


母は私を愛してくれたかもしれない。

母は私を抱きしめてくれたかもしれない。

母は私を名前で呼んでくれたかもしれない。


私は愛されたかった。


私は母が好きだった。




父とは違って私を捨てなかったから。


父は私と母を捨てたから。


父は私と母を愛さなかったから。


父のせいで

私は母に嫌われていたから。


母が愛しているものは、

きっと私が小学生の時に祭りでとった

金魚1匹だけだろう。


母は私にご飯を作ってくれたことがない。

買ってくれたことがない。

用意してくれたことがない。


ただ、金魚には毎日3回、

朝昼晩と餌をやっていた。






羨ましかった


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