第6話 初陣

 森の中をレティーアたちが歩いている。道中、今回の討伐対象である穴コンダについてアキトが簡単に生態などを説明していた。


「地面を掘って地下に潜み、頭上を通る獲物を丸呑みにする大蛇……それが穴コンダだ。地面を見ていれば掘った場所は分かるから気をつけて」

「分かった。でも、そんなに分かりやすいの?」

「うん。ほら、あそこ見て」


 リーネが地面の一点を指差す。そこだけ不自然に土が新しかった。


「あぁ、なんて分かりやすい……」

「でしょ? 後は、ここをこう!」


 リーネが勢いよく地面に剣を突き刺す。すると、大地が揺れて大きなナニかが地上へと這い上がろうとしている気配が伝わってきた。地下を砕きながら昇ってくる。

 やがて現れたソレは、自らの体を刺したリーネを見て激しく怒り狂う。口を大きく開き、唾液を撒き散らして威嚇の咆哮を放つ。

 長い胴体。そこから生える短く太い腕。腕の先にあるのは鋭利な爪を有する手。

 獲物を穴に落とし、一口で飲み込んでしまう凶悪な大型の魔物――穴コンダ。その巨体が今、レティーアたちの前に現れる。


「大きい……っ!」

「中々に大きなサイズだね。いくよ!」

「もっちろん! マリアとアキトはサポートお願い! さぁ、いくよレティーア!」


 リーネが剣を構えて突撃。その瞬間にマリアとアキトが支援魔法を送る。

 発動させたのは筋力強化と守備上昇の魔法。リーネとレティーアの体が淡く発光し、纏う威圧が強くなる。


「いっくよぉー! てりゃあっ!」


 リーネの剣が穴コンダの口を裂き、牙を破壊する。穴コンダの対処法である、口と腕を優先して狙うという定石だ。

 リーネが口を潰した。なら、レティーアの担当は腕だ。


「レティーア! 腕を落として!」

「わ、分かった!」


 後方でリーネの戦闘を見ていたレティーアも参戦する。剣を振りかぶって腕を狙い――だが、穴コンダはその動きを察知していた。爪を絶妙に動かして威力を殺す。

 反撃に尻尾を勢いよく振り抜いてレティーアの足を打ち据える。足元を掬われる形になったレティーアはその場で転倒、穴コンダがその瞬間を逃すことなく襲いかかる。

 口が使えないなら全身の筋肉で圧殺する。そんな意思を込めた瞳でレティーアの周りを周回していく。


「なんて、やらせると思った? "エアーギロチン"!」


 アキトが放つ攻撃魔法。緑風の刃が回転しながら飛翔し、穴コンダの胴を裂いた。体が硬直し、動きが止まる。


「今よレティーア! トドメを!」

「うん! はぁっ!」


 勢いよく振り下ろされる剣。穴コンダの上半身を左右に切り分け、地面を削って止まった。穴コンダがゆっくりと分割される。

 クエストの討伐対象である穴コンダを撃破。これで依頼達成だ。後は、穴コンダの体の一部を切り取ってギルドに持ち帰って報告するだけ。

 リーネが切り落とした穴コンダの牙を拾おうと腰を屈める。すると、目の前の水溜まりの水面がわずかに振動していることに気がついた。

 その揺れは段々と大きくなり、レティーアたちも気づくことになる。


「なんだ? マリア」

「任せて。"ロケート"」


 目を閉じ、魔法で周囲の状況を探る。捉えたのは、接近してくる巨大な反応。それは、もうすぐそこまで来ていた。


「大型の敵性個体が接近! すぐそこよ!」


 マリアが警告を発すると、木々をなぎ倒して巨大な怪物が姿を見せた。それを見たアキトが息を呑む。マリアとリーネが目を見開いた。

 本来、こんな森にいるはずのない魔物。近くにある古代の遺跡を根城にしているはずの魔物が場所を移動した。

 大きな一つ目に大きなこん棒。どこから拾ってきたのか申し訳程度の布で局部を隠し、水色の肌を晒している巨人。その名は、豪腕巨人ギガンテス

 予想外の乱入者に驚く。が、いつまでもそうしてはいられない。


「構えて! こいつも倒すよ!」


 アキトの号令で意識を引き戻される三人。慌ててリーネが飛び出し、マリアが補助に回る。

 レティーアも参戦しようとするが、それをリーネに止められた。


「こいつはあたしたちで始末する! レティーアは見てて!」

「で、でも……!」

「問題ない。あたしたちだって強いんだから!」


 リーネの言葉に頷くアキトとマリア。レティーアは迷うように視線を行き来させるが、やがて三人を信じると決めてアキトの後ろまで下がる。


「それでいい。あいつは穴コンダとは訳が違うからね」

「ごめんなさい。今回は私の訓練のためにクエストを受けてもらったのに……」

「気にしないで。あのギガンテスが想定外すぎるだけ。それに、穴コンダ戦でレティーアの力は見たから」


 アキトが視線を前に向けて微笑む。その先では、リーネとギガンテスが各々の武器をぶつけ合ったまさに火花を散らす戦いが繰り広げられていた。

 視線をそのままにした状態で、アキトが言う。


「だから、今度は僕たちが見せるよ。君のパーティーメンバーの力」


 その言葉は、レティーアに不思議な安心感を与えていた。

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