第7話 ガーゴイル
振り下ろされる
直撃の寸前、リーネは前方に転がるようにして攻撃を回避。受け身を合わせて取ったため、体勢はすぐに元に戻った。
ギガンテスの拳が地面を破砕、たくさんの岩を空中に巻き上がらせる。その中の大きな破片に乗り、リーネが空へと飛び上がる。
狙うは一ヶ所。ギガンテスの首筋。
魔物とはいえ、体がある魔物は人と同様に全身を血管が巡っている。動脈を断ってしまえば、大量出血で死に至るのは必然だ。
リーネの高度がギガンテスの首よりも高くなった。落ちるタイミングで首を切る。
「リーネ! "フィジカル・ブースト"!」
「いけ! "ストーム・グラスバー"」
マリアの強化魔法と、アキトの暴風魔法。二人の支援を受けたリーネの剣は、リーネ自身にも制御できない威力となってギガンテスの首へと吸い込まれた。
リーネの手から離れて超高速回転しながら飛ぶ大剣は、ギガンテスの首を易々と切断。勢いは衰えることなく森の木々を伐採しながら遠くへと飛んでいった。
華麗に着地を決めるリーネ。その周りにレティーアたちが集まる。
「すごいリーネ!」
「さすが。ギガンテスを一撃か」
「私たちの魔法支援があっても、そうそう出来ることではありませんわね」
が、リーネの表情は曇っている。かと思えば、次の瞬間にはアキトに掴みかかった。
「わあぁぁぁーっ! あたしの剣が飛んでいったー!」
「さ、探そうな?」
「アキトの暴風強すぎるのよ!」
リーネの文句を延々聞きながら、各自バラけて森の奥へと進んでいった。
◆◆◆◆◆
捜索開始からおよそ三分。森の奥地で、アキトが一本の大樹を前に腕を組んで唸っていた。
アキトの目の前には、幹に突き刺さったリーネの剣がある。剣は、とある魔物を貫いて絶命させていた。恐らく、運悪く飛んできた剣にやられたのだろう。
それは仕方ない。単なる事故だ。問題は、死んでいる魔物が本来ここにいるはずがない――いてはいけないはずの魔物だったからだ。
「こいつは……やはりそうなのか?」
悩みながらその場をうろちょろしていると、視界の端にマリアが映った。幼い頃は教会で暮らし、冒険者になる前まで教会で様々な修練をつんだ彼女の意見であれば確実なものになる。アキトはそう考えた。
「おーい、マリア。ちょっと来てほしい」
「どうしたの?」
「なぁ、こいつ、どう思う?」
「こいつ? ……っ! この魔物は……っ!」
「やっぱり、どう見てもガーゴイルだよな?」
死んでいる魔物は、半人半鳥の化け物だった。近くには、大きな鎌も落ちている。
空を舞い、足で掴んだ鎌で人の命を刈り取る魔物――ガーゴイル。脅威度としては低く、新人冒険者でもやり方によっては倒せる相手。
だが、ガーゴイルがいるという事実がおかしいことなのだ。
「こいつ、
「ええ。灼熱の邪神が生み出す魔物のはず……」
そんなガーゴイルがいる。それはつまり、灼熱の邪神が世界に解き放たれてしまったという意味に他ならない。
「でも、あり得ないだろ。世界に目立った異変は起きてない。邪神の封印は強力だ。万が一解かれれば、必ず何か異常現象が起きるはず」
「封印が一瞬緩み、狭間からガーゴイルだけ飛び出した? でも、それならギガンテスはどうしてあんなに……」
マリアが思い出すのは、先ほど倒されたギガンテスだ。あれは、何かに怯えるような挙動を見せていた。ギガンテスほどの魔物が、ガーゴイル程度に怯えるとは到底考えられなかった。
とりあえず剣を引き抜き、ガーゴイルの翼から羽を一枚引き抜く。ギルドに報告しなければならない。
「マリア、急いで帰ろう。ギルドに報告しなければ」
「ええ。……一体、この世界に何が……?」
二人がその場を離れる。
来た道を引き返していくと、レティーアとリーネと合流した。アキトが持つ剣を見て、レティーアが驚く。
「ずいぶん遠くまで飛んだんですね。お疲れさまでした」
「……ねぇアキト、マリア。何か、見たの?」
リーネのその質問に、二人がハッとした。長い付き合いのリーネだけは、誤魔化せない。
「――ガーゴイル」
「え?」
「森の奥でガーゴイルの死体を見たの。急いで報告しないと」
マリアの言葉を聞いたリーネが狼狽える。レティーアはきょとんとした表情だった。
彼女は記憶がない。ガーゴイルがいることがどんな意味を持つかいまいち分かっていないだろう。
四人で報告のために急いでパイオンの町に引き返す。道中、アキトがレティーアにガーゴイルについて教えると、レティーアの瞳にはっきりと恐ろしいという感情が浮かんでいた。
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