第5話 クエスト受諾

 レティーアの装備を揃え、宿でレティーアの歓迎会を開いて一夜を過ごした。その歓迎会も、いろいろあったことで疲れているだろうということで早めにお開きとなり、日付が変わる前には眠りについた。

 翌日、アキトが起きて部屋を出ると、ちょうどレティーアと遭遇する。


「おはようレティーア」

「あっ、おはようございますアキトさ……アキト」

「まだ慣れないんだね。まあ、ゆっくり慣らしてくれればいいから」

「はい」

「そうだ。これからリーネの剣を受け取りに行くけど、来る?」


 アキトの問いかけにレティーアは頷いた。二人揃って階段を降りていき、宿の扉を開ける。親父さんに頼んで、朝早くに鍵を開けてもらっていた。

 まだ寒さが残る早朝、外で剣を抱えて待っていたのは武器屋の主人、キャティアだった。宿から出てきたアキトを見るなり駆け足で近寄ってくる。


「さっぶっ! さぶいですから!」

「ご、ごめん。リーネの剣は?」

「はいこれ。バッチリ一夜で仕上げましたよ! 徹夜って疲れますねぇ」

「徹夜!? 後日でもよかったのに」

「夜に飲む眠気覚ましのポーションが密かな楽しみなんですーっ! 徹夜とか理由つけないとデブまっしぐらじゃないですか! 最近のポーションは飲みやすさを追求してお砂糖入ってるんですからね!」

「いや、理由つけてもそれは太るんじゃないか?」

「アキト、女の人に太るは禁句だと思うな……」


 レティーアから指摘され、キャティアに涙目で肩をポカポカ叩かれる。正直すぎるのも考えものだ。

 キャティアからリーネの剣を受け取り、アキトとレティーアは宿に戻る。すると、朝一で商業者向けに開かれる市場から帰ってきた親父と出会った。朝食を作りながら背中を向けて話しかけてくる。


「おうアキト。朝からデートかい? マリアとリーネが嫉妬するぜ」

「違うよ。リーネの剣を受け取りに行ってただけ」

「んなこたぁ分かってんだよ。面白みのないやつめ」


 ジョークを真に受けられて困る親父。アキトは、マリアたちを呼んでくるようにレティーアに頼む。

 レティーアが階段を登っていくと、降りてくるマリアと出会った。まだ少し眠そうな瞳を擦り、小さく欠伸を漏らす。服も少し乱れていて、胸の谷間が露になっていた。


「ふわぁーぁ。おはようレティーア……」

「うん。おはようマリア。リーネは?」

「そのうち起きてきますわ」


 マリアが言うと、部屋から大きな悲鳴が聞こえた。分かりやすいリーネの声だ。


「えと、何をしました?」

「あの子、目覚めが悪いから魔法で悪夢を見せたの。すぐに起きたわね」


 扉が開き、今にも泣きそうな顔のリーネが出てくる。ほんと、マリアはどんな夢を見せたというのだろうか。

 三人でアキトがいる食堂に行く。宿の親父がテーブルに朝食を並べていた。

 焼きたてパン、トマトスープ、サラダ、ソーセージ。香ばしい香りが食堂を包み、朝から幸福な気分にしてくれる。

 四人が席について食事を始める。すると、早速リーネがマリアのソーセージを横取りする。


「あっ、返してよ」

「あたしにあんな夢を見せたお返しよ! ふーんだ!」

「悪かったわ。つい、出来心でね」

「出来心で虫に襲われる夢見せる!? 趣味悪すぎる!」


 リーネとマリアが揉めている前で、アキトが搾りたて牛乳を飲む。自分は何も関係ない。物静かにそう語っているようだった。

 騒がしい朝食を終え、各自部屋に戻る。荷物を手にすると部屋を後にし、宿から出た。去り際に、親父がわざわざ表まで見送りにきてくれる。


「行ってこいアキト。頑張れよ」

「うん。当然」

「んで、しっかり稼いで今夜もうちを頼むぜ」

「考えるさ」


 宿を離れて向かうのは、もちろん冒険者ギルド。ギルドが開くこの時間は、他の冒険者たちとおいしい依頼の争奪戦が勃発する時間でもある。

 ギルド前に着くと、すでにいくつかのパーティーがいた。皆、パイオンの町では凄腕と有名な冒険者たちだ。

 アキトを含めた各パーティーのリーダーたちが笑顔で睨み合う。すでに勝負は始まっているのだ。

 そんな無言の視線だけによる攻防がしばらく続いた頃、ギルドの扉が開く。


「冒険者ギルド開きまし……って、うわぁ! 押さないでください!」


 職員を押し退けて我先にと掲示板に殺到するリーダーたち。手頃で報酬のいい依頼の紙をちぎるように剥ぎ取ると、それらをカウンターへと持ち込んでいく。

 アキトが今日狙うのは、簡単な戦闘が予想されて報酬がいいものだ。レティーアの実戦練習はもちろんのこと、少しでも報酬がいいものを選びたい。

 他のパーティーを牽制しつつ、アキトが一枚の紙をカウンターに持ち込む。ギルドから受諾票を受け取り、レティーアたちのところへ帰った。


「ねぇアキト。今日のクエストは?」

「これ。穴コンダの討伐だよ。お金持ちの商人がペットをこいつに喰われて、その復讐がしたいって依頼したらしい」

「可哀想に。私たちでなんとしても倒さなくてはいけませんね」


 マリアとリーネが先に歩き出す。アキトは、レティーアの手を取って二人に続いた。


「ほら、行くよ。今日はレティーアの実戦練習でもあるんだから」

「あ、うん。頑張るっ!」


 そして、レティーアたち四人はパイオンの町から出ていった。

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