第4話 レティーアの武器
レティーアは、アキトたちに連れられて町へと出た。午後、それもおやつ時を過ぎているというのに、まだ開いている店も多くて賑わっている。
人々の生活の熱気を肌で感じながら、四人が町を歩く。今、彼女たちが歩いているのは二番通りだ。
パイオンの町は、中心の教会から東西南北に伸びる四つの大通りがあり、そこを中心に栄えた町だ。
劇場や書店、娼館などの娯楽関係の店が立ち並ぶ北の一番乗り。冒険者向けに武具やアイテムを売る店や、酒場などが多い東の二番通り。日用品や食料品といった、日常生活に必要なものを売る店が多い南の三番通り。服や装飾品などを売る店が並ぶ西の四番通り。そして、それぞれの大通りの先にちょっとした噴水広場があり、その噴水広場を挟んで住宅地や宿、そして門があるという構造になっていた。
なぜレティーアたちが二番通りにいるかというと、理由は簡単。リーネの装備の補修とレティーアの装備を整えるためだ。
四人は、パイオン一の名店と噂される武器屋に入った。
「あっ、いらっしゃいませ! ようこそアキトさんたち!」
元気のいい声で迎える猫人族の少女。彼女が、この店の店主で名前をキャティアという。華奢な体だが、両手剣くらいなら軽々振り回せる豪腕の持ち主だ。ちなみに、元冒険者らしい。
「まーたリーネさんが剣を壊したんですか? まったく、ミスリルは高いし加工が難しいんだから勘弁してくださいよ……」
「壊してないわよ! ただの整備だから! それに、お金なら払ってるじゃない!」
「アキトさんが、ですよね?」
キャティアとリーネが軽口を叩き合い、にらみ合う。その様子を、マリアが苦笑して眺めていた。
キャティアがリーネから剣を受けとる。そこで、ようやくレティーアの存在に気づいた。
「あれ? アキトさんまたパーティーに女の子増やしたんですか? この色男めぇ~」
「成り行きでね。彼女はレティーア。彼女に合う武器を見繕ってほしいんだ。ほら、僕って刀剣とかに詳しくないから」
「確かに、アキトさんとマリアさんは魔法メインですものね。リーネさんなら詳しいと思いますが……まっ! 私のほうが本職ですけど」
「ぐぬぬ……悔しいのに言い返せない……!」
リーネが悔しげに歯軋りをする。
キャティアは、適当に店内を回ってどんな武器がいいのか探している。
「でも、うちって上級者とか金持ちのボンボ……お得意様向けの武器が多いんですよね~。レティーアさんに合うのあるかな?」
「君、お客さんの呼び方えぐいな……」
「まぁまぁ。ところでレティーアさんは、どんな武器がお好みで?」
などと質問されるが、正直、レティーアはよく分かっていなかった。何を使えばよいのかさっぱり分からない。
キャティアはそれを一瞬で見抜いた。そこで、様々な種類の武器を渡してみる。
「裏に試し振りできる場所があるからさ。行ってみよう」
レティーアたちは、店の裏に移動する。敷地内にちょっとしたスペースがあり、人の形の丸太が置かれている。
キャティアは最初に槍を渡してみる。扱いは難しいが、近接戦闘においてはこれが最も強い。
レティーアが槍を構え、丸太へと突きを放つ。だが、穂先がぶれぶれになっていて丸太を逸れて何もない宙を刺した。
「槍はだめかぁ……じゃあ、シンプルに片手剣と盾にしてみる?」
渡された剣を右手に持ち、小盾を左腕に装備する。この状態でレティーアは剣を振った。
先ほどとは違い、丸太に上手く当たって傷をつける。片手剣は、少し扱いに慣れているようだ。
「おっ、剣はいけそうだね。じゃあ、次はこれ」
その後は斧や両手剣、弓矢といった武器を渡して試していくが、一番上手く扱えたのは片手剣だった。
店に戻って片手剣でいいものを探す。初心者でも扱いやすく、なおかつ丈夫で威力のあるものを選ぶ。
選んだのは、合金聖の剣だった。鋼と銀を混ぜ、魔法で少し強化を施すという逸品。値段もそれなりにするが、初心者が持つには最上級の剣だろう。
支払いを済ませて店を出ていく。
「毎度~。リーネさんの武器は明日にはお渡しできるようにしますね~」
「ありがとう。よろしくね」
キャティアと別れ、レティーアたちは町を歩いていく。段々と陽は傾き、赤い夕焼け空が広がっていた。
なにか、屋台で軽食を食べさせてあげたいと思うアキトだが、もうすぐ宿の夕食になるのでそれは控える。代わりに、レティーアたち女子三人組に提案した。
「お湯屋にでも行ってきたら? 体の汚れを落としてくるといいよ」
「確かに。レティーアは森の中で倒れてたわけだし、あたしだってゴブリン戦でかなり汗かいたしね」
「じゃあ、行きましょうか。こっちよ」
マリアがレティーアを連れてお湯屋に向かう。リーネも後に続いた。
アキトは、独自に編み出した洗浄魔法で体の汚れを剥離させると、三人の帰りを待つために宿へと戻っていく。
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