第3話 冒険者ギルド

 門を抜けてパイオンの町に入る一行。レティーアは、立ち並ぶ屋台や店舗に目を奪われているようだった。

 冒険者の町としてロミオス王国でも有名なこの町は、冒険者を相手にする商人たちによって発展してきた。武器や小物、アイテム類や軽食がよく売れる。

 町を物珍しそうに見るレティーアの手を、アキトが引いた。


「レティーア。まずは冒険者ギルドに行こう。冒険者証があれば、身分証明書代わりにもなるし」

「あっ、はい。お願いします」

「……ところでさ。もっと砕けた感じで話してくれてもいいんだよ?」


 あまり丁寧な口調で話されると、背中がむず痒い感覚になるアキト。それに、レティーアとはなにか特別な繋がりがある気がしてならなかった。

 もっと気楽に話したい。そう思うのは自然だった。


「えっ。でも、そんな……」

「僕のことはアキトでいいからさ」

「あら? じゃあ、私はマリアでいいのよ」

「なら、あたしはリーネだね。一人だけさん付けしたら泣くから!」


 三人に詰め寄られるレティーア。戸惑いながらも、恐る恐る三人の名前を口にする。


「ア、アキト……マリア……リーネ」

「「「そうだよ。レティーア!」」」


 そんな風にお気楽に歩いていると、やがて、剣と盾が重なったようなイラストの看板を提げたレンガ造りの建物にたどり着く。

 ここが、冒険者ギルドパイオン支部だ。パイオン周辺の事件や依頼、魔物の情報を冒険者たちに紹介し、仕事を斡旋する場所。

 扉を開けて中に入る。内部には、主に二つの施設があった。

 入り口から見て左側に、食事と酒を提供する酒場がある。夕方頃、冒険者たちが仕事を終えて帰ってくる頃になるとお祭り騒ぎの中心地となる。

 そして、右側にあるカウンターが、冒険者登録や仕事の斡旋を行う所。受付のお姉さんがいつも笑顔で座っている。

 今、用事があるのは右のカウンターだ。アキトたちは、クエスト完了の報告とレティーアの冒険者登録のためにお姉さんの元に向かう。


「あっ、お帰りなさいアキトくん。お疲れさまでした」

「ただいまルナさん。ゴブリンの群れ、無事に潰してきたよ」

「ご苦労様です。……あれ? そちらは?」


 お姉さんは、アキトの後ろにいるレティーアが見て首をかしげる。ここは、アキトが説明するべきだろう。


「森の中で出会ったんだ。彼女はレティーア。レティーアを冒険者登録させたいと思ってね」

「なるほどです。じゃあ、レティーアさんの登録料は報酬から差し引いて問題ありませんか?」

「ああ。それでお願いするよ」


 お姉さんは、にっこりと笑ってカウンターの下から一枚のカードを取り出す。そこに、サラサラっとレティーアの名前を書き込んだ。


「こちら、冒険者証となります。貴重なものなので、失くさないようにお気をつけくださいね」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ、アキトくん。こちら、登録料を差し引いた報酬、金貨二十枚ね」

「確かに。ありがとう」


 お姉さんにお礼を言ってカウンターから離れる。酒場の近くで他の冒険者と話していたマリアとリーネを回収し、ギルドを後にした。

 酒場で宴にしてもよいのだが、今日はレティーアもいる。疲れているであろう彼女を連れて、宴というのは気が引けた。

 それよりは、今夜の宿を選んで宿でゆっくりすることにする。


「ねぇねぇ。今日はどこに泊まるのさ」

「そうだなぁ。レティーアもいることだし、黒猫の帽子亭にするか?」

「やった! あたし、あそこのクリームシチュー好きなんだ!」


 アキトたちが目指す黒猫の帽子亭は、このパイオンの町で有名な宿屋だ。美味しい食事と良質なベッドが売りの一流店。

 その分お値段もお高く、大抵の冒険者は泊まることを躊躇うのだが……アキトたちは有力な冒険者で、稼ぎもそれなりにいい。黒猫の帽子亭に泊まるくらいは余裕だった。

 アキトたちが一軒の宿にやって来る。ここが、噂の黒猫の帽子亭だ。

 扉を開けて中に入る。出迎えたのは、屈強な親父だった。


「らっしゃい。……アキトか」

「アキトで悪かったね。部屋、空いてる?」

「空いてるが、気を付けてくれよ? うちのベッドは頑丈だが、激しく暴れられると壊れる。そういうことをするならよそに行ってくれよ?」

「やらねぇよ! 大部屋一つと小部屋一つ頼める?」

「冗談だっての、あいよ。ところで、そっちの嬢ちゃんは見ない顔だな」


 アキトたちとは長い付き合いの親父は、すぐにレティーアに気づいた。レティーアも頭を下げて挨拶をする。


「アキトさ……アキトのパーティーに入れてもらったレティーアです。こんにちは」

「アキトお前……また女の子を増やしたのかこの野郎。お前、そのうち他の冒険者たちに背中を刺されるぞ」

「その時はあたしが返り討ちにしてやるから心配ないわ!」

「だ、そうだ」


 自信満々に薄い胸を張るリーネ。親父とアキトが苦笑しながらリーネを見る。

 それから、親父は鍵を二つアキトに渡した。


「ほら、部屋の鍵だ。夜這いとかすんなよ?」

「しねぇって何回言えばいいんだよ! はい、マリアが持ってて」

「分かりましたわ」


 アキトから部屋の鍵を受け取るマリア。すると、親父が予備の鍵を取り出した。


「荷物置いて町に行ったらどうだ? どうせ、そのレティーアちゃんって子に町を案内するんだろ?」

「え?」

「荷物は俺が部屋に運んどいてやる。だから行ってこい」

「うん。ありがとう」


 親父に荷物を預け、宿を出るアキトたち。その足で、レティーアにパイオンの町の紹介をすることにした。

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