第2話 パイオンの町
レティーアをパイオンの町に案内するアキトたち。その道中、パイオンの町についていろいろと教えてあげている。
町についていろいろと聞いたレティーアは興奮状態だ。記憶喪失の彼女にとっては、胸踊るような話なのだろう。
「豊かな町ですね。すごい」
「でしょ? すごく心地のいい町で、私はお気に入りです」
「あたしもあの町は好きだよ。雰囲気がいいんだよね」
「……噂をすれば、見えてきたよ」
四人が森を抜ける。なだらかな丘から下に見えるのは、魔物の侵入を拒む城壁で囲まれた巨大な町。
町の中央で存在感を放つ荘厳な神殿。そこから東西南北に伸びる4つの大通り。大通りから離れているというのに、人々の活気が伝わってくるようだ。
実際に町を見たレティーアが感動の声を漏らす。
「あれがパイオンの町……!」
「そうよ。……あれ?」
マリアが首をかしげた。その視線をアキトたちが追うと、南門の前にできる行列を見つける。
行列を整理し、スムーズな動きを取るよう指示をだす簡素な装備の兵士たち。だが、城門で人々に話を聞き、何らかの作業を行っているのは、実戦を意識した本格的な装備を身に纏う騎士たちだ。
アキトたちは、騎士がパイオンの町にいることに驚く。
ロミオス王国では、兵士と騎士は少し違う。
兵士は、王都の役所に申請すればすぐに訓練施設で軽く訓練を受ける。そのあとに兵士になるのだ。町の防衛や治安維持などの仕事に携わる。
反対に騎士は、国立騎士学校という専門機関をでないとなれない。騎士の職務は主に、王族に関するものだ。
その騎士がいる、ということは王族から何か命令が出たということだ。平和なパイオンの町に、何があったというのか。
アキトたちも移動し、列に並ぶ。ちょうどそこで知り合いの門兵に会ったので、話を聞くことにした。
「なぁ。これってなんの行列?」
「あぁ、アキトくんか。実はな、難民が流れてきてるからその調査と整理をしてるんだよ」
「難民? どこから?」
「……君だから話すけど、あまりペラペラ言わないでくれよ? ……どうも南の大国、アルカディア王国から流れてきたみたいなんだ。なんでも、魔物の大軍勢に襲われて王都は壊滅。王族全員が行方不明らしいんだ」
「アルカディア王国が……!? でも、あそこには……」
「そう。勇者姫がいたはずなんだけどね。それに、アルカディア王国はノーヴァ帝国、聖ブリテン王国と並ぶ軍事大国だったはずだ。一体、どんな魔物に襲われたんだか……」
深刻そうな顔になる門兵のお兄さん。アキトも顎に手を添えて考える。すると、マリアの声によって意識を現実に引き戻された。
「レティーア!? どうしたの!?」
「っ!?」
見ると、レティーアが苦しそうに頭を抱えて踞っていた。小声でなにかを呪詛のように呟き、体を小刻みに震わせている。
「アル……カディア……兄……さま……いや……いやぁ……っ!」
「れ、レティーア……?」
アキトが心配してレティーアに手を伸ばす。だが、伸ばされた手をレティーアは力強く弾いた。そのまま数歩後ずさる。
「やめて……来ないで! まだ……まだ、死にたくないのっ!」
「ね、ねぇ? 大丈夫なの?」
「心よ安らかなれ。"ストロングマインド"」
マリアがレティーアに精神強化の魔法を付与する。これにより、少しずつ冷静さを取り戻していった。
しばらくして落ち着くレティーア。だが、今度は先ほど自分がしてしまったことを思い出し、涙を浮かべた目でアキトを見上げる。
「あ、その……あ、の……ごめんなさい……」
顔を伏せて縮こまってしまう。アキトは、そんなレティーアにゆっくりと近づいていった。
正面までくると、屈んでレティーアに視線を合わせる。涙で滲む視界の前に、そっと優しく手を差し出した。
「大丈夫だから。ほら」
「あ……ありがとう……」
レティーアは、アキトの手を掴んで立ち上がった。大きく息を吸って、呼吸を整える。
「レティーア……君、記憶が?」
「……ううん。でも、なぜだろう? アルカディア王国……なにか、とても大事で、愛おしくて、悲しい気がする……」
俯くレティーア。アキトは、やはり、と思う。
先ほどの話を聞いてから、薄々は思っていた。レティーアは、アルカディア王国から流れてきたのではないかと。記憶がないのは、謎の魔物に襲われた際のショックが大きいのではないかと。
二人が無言でいると、リーネが少し苛立つように言う。
「……あたしたちは空気かなにか?」
「あっ! 悪い」
「ほんとよ」
門兵のお兄さんも近寄ってきて心配の声をかけてくれる。
「嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「ええ。もう、落ち着きました」
「マリアちゃんの魔法なら問題ないとは思うが、不安なら教会に行くといい。あそこの神父さんは精神強化の魔法の名人だから」
「あら。私の腕に文句でも?」
マリアの冷たい声音の質問に、門兵のお兄さんは冷や汗だらだらで否定した。マリアも、からかいたかっただけだったので、大事には発展しない。
その後、レティーアたちは町に入る手続きをする。アキトたち三人は冒険者証を持っているためにすんなり入れたが、レティーアはそうはいかない。
覚えている限りの情報と、アキトたちが通行料を払って四人が町に入る。
門を抜けた先には、活気溢れる人々が作り出す元気な町が広がっていた。
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