ずっと。ずっと
「おはよ……ふぁ」
「おはよう二奈。朝ごはん出来てるよ」
「朝からカレー食べてるんだ……」
「健康に良いからね。あの野球の……ああそうそう、イ◯ローも言ってた」
「インド人……?」
「まあ言ってるだろうけど(納得)」
これは結構寝ぼけてるな。
眠気まなこを擦りながら、彼女は椅子に座る。
懐かしい光景だ。昔から二奈は朝が弱かったから。
「顔洗ってきなよ」
「ふぁあ……忘れてた」
「俺は学校だから。適当に食べたら流しに置いといて」
「うん……」
「そういえば家の鍵は?」
「ママの借りてきた……」
「じゃあいいか。行ってくるね、二奈」
「……うん。しっかり閉めて帰るから……」
「よろしく」
——バタン。
彼女らしからぬ弱気な声が、印象的だった。
目の下、残る涙の跡も。
「あ、もしもし。今日の夜……予約できますか?」
昨日決めた事だ。
早いほうが良いだろう。
「分かりました、今日の20時ですね」
電話を切って。
どこか吹っ切れた気持ちで、俺は学校に向かった。
☆
「あ。おはよう」
「おはー☆」
「おう」
早めに登校。
席で自習していると、いつもの気配。
二人とも、俺と違ってオーラがあるからね。
近付いたら分かる。
俺なら目と鼻の先にいても気付かないだろう。
オーラの代わりに“影”があるからね(厨二病)。
「……なんかあった?」
「今日のカレーがさ、前世含め人生一うまく出来たんだ」
「しょーもな☆」
「 」
「おい莉緒……」
「それでこそ柊さんだよね(後方腕組み)」
「おーおー、リオの事全然知らないくせに言うなぁ☆」
「……確かに、そうだね」
「え」
「東町?」
「え、あ。ああごめん! ちょっと今日あんまり寝れなくて。スパイスについての論文を読みあさってたら興奮して寝れなくてさ。熱くなっちゃって、カレーだけに(激ウマギャグ←カレーだけに)」
「オタクって本当に早口になるんだ☆」
「(死因:正論によるショック死)」
「生きてるか?」
……こういう風にやりとりをするのも、つい2ヶ月前のこと。
思えば、最初に“虹色”にしたのを触れてくれたのも彼女達だ。
懐かしい。
それこそ、この髪にしていなきゃ仲良くなんてなれなかった。
「あのさ」
「「?」」
……ほしいな。
最後に、彼女達とも思い出が。
「写真、取っていいかな」
☆
「んじゃ行こー☆」
「おう」
「ハイ」
で、どうして俺は放課後に彼女達と一緒に居るのか?
それは――
「まさかとーまち、プリクラ童貞だったなんて☆」
「どどどっどどどどどどど童貞ちゃうわ(童貞)」
「はしたねぇぞお前ら……」
二人に両端を固められ、俺はシャレオツストリート(推奨ジョブ:陽キャ)に連れてこられていた。
ここアレだ、ダンスゲーやってた時に来たっけな。
「ほんとに撮るの? プリクラって陰キャが撮ったら魂抜かれるんじゃないの?」
「大昔の人みたいな事言うね☆」
「先人の教えは守らないといけないね(ポロ)」
「もしそうなら、今日がお前の命日だな」
「 」
「ふははは!」
響く笑い声(次元魔法属性)。
誰か助けて。
このままじゃ、ほんとに大魔王とその側近にタマ取られちゃう!
……いや、そういう最期もアリか……?
「我が魂は、二人に捧げる事にするよ……(悲劇の主人公並感)」
「あっ着いた」
「入ろうぜ」
「(死因:無視によるショック死)」
ゲーセンには何度か入ったけど、この『男性客のみの入場はお断り』領域は初めてだ。
なんだよこれ。
俺入ったら憲法に違反しちゃいません?
「もうおいでよ☆ ほら」
「観念しろ。その方が楽だぞ」
二人に手を引っ張られる。
陰キャからは眩しすぎるプリクラエリアに、俺は一歩を踏み出した――
☆
「ふははははは! 見て見て苺! とーまちの髪加工されてめちゃくちゃ綺麗!」
「アニメキャラみたいになってんな」
「眉毛まで虹色になってるんだけど……」
二人は慣れているからか、ポーズも綺麗だ。
そして俺も、ダンスやってるからポーズは完璧だ。
……なんてことはない。
ただの棒立ち(恥)は駄目なので、油をさし忘れたロボットみたいなぎこちないポーズ(大恥)。
ただ、プリクラのフィルターを通しても……俺の髪色はやっぱり綺麗だ。
ちょっと侵食してるけど。それぐらい美しいね(?)。
「……」
本当に、綺麗だ。
無くなるのがもったいないくらい。
「……とーまち?」
「大丈夫か?」
「え? あ、ああ。ごめんごめん」
出てきたプリクラ写真を鞄に仕舞って、彼女達に答える。
「あ、それって携帯にも保存できるんだよ☆ とーまちに送っとくね~」
「! ありがとう……最近のは凄いね」
「紙じゃ、無くしたりしちゃうから☆」
「アタシは紙の方が好きだけどな。小物に入れたり出来るし」
そう言いながら、夢咲さんは定期入れの中にさっきのプリクラ写真を差し込んだ。
いや恥ずかしい!
俺は……どこに仕舞っておこう。
アルバムにでも差し込むか?
「無くさないでね。とーまち」
「はは、当たり前だよ」
初のプリクラだ。
小学生の頃は……二奈と、二奈の友達に誘われたっけ。断ったけど。
その頃よりはきっと、今の方が笑えている。
彼女達は、俺の友達だから。
「きっと、一生無くさない」
「「!」」
九色の前髪、前の二人。
今だけの、綺麗なその思い出を――ずっと忘れない様に。
「……ねえ。とーまち」
「?」
「髪、戻すの?」
彼女が問う。
真剣なまなざしに応える様に、俺は口を開いた。
☆
☆
「じゃ、今日はありがとう。俺はそろそろ時間だし行くね」
「ばいびー☆」
「おう」
それは、普段通りの様に。
笑って――彼は背を向けた。
「いやぁびっくりしたね。写真嫌いだと思ってたけど☆」
「な」
「でも、これでとーまちの虹色は見納めかぁ……」
「……」
「そんな顔しないでよ、苺」
「……止めた方が良かったか悩んでんだ」
背中を見送りながら彼女達は話す。
「家族の事だから。それに、何を言ってもきっと同じ。あの目はもう本気だよ」
「そうだけどよ」
「ふはは、髪色変わるだけだよ? 大袈裟過ぎ☆」
「ほんとにそう思ってんのか、莉緒」
「……う」
「ちげーだろ。あの髪色を変えることは――東町にとっての決別だ」
暗い表情。
それは、彼に見せられないもの。
「……決別て。大袈裟過ぎ☆ これだからヤンキーは☆」
「はぐらかすな。多分、クラブもアイツは行かなくなると思う。家族から言われたことは、茶化して東町が言ってただけでそうとう“重い”んだ」
「……っ」
「アタシ達は部外者なのは分かってる。だから出来る事は、東町がどうなろうと変わらず接するぐらいだ」
「そんなの、当たり前じゃん……」
いつになく弱気な二人。
ダンスの時の様に、明確な“敵”は居ない。
東町一の家族と、彼自身の問題。
どちらも正しいのは分かっている。
いや。
むしろ、“家族”の方が正しい。
「……良かったんじゃねーか?」
「なにが」
「“黒”になれば、良い事しかねーじゃねえか。学校からの評判は上がるだろ。もともと素行が良いから見逃されてたけど……いつ突っ込まれるか分からない爆弾だった」
「……」
「ダンスの時みたいな事も無くなる。髪色も普通になって、授業態度は最高。試験じゃ学年一位。体育だって誰よりも努力して……“変人”から正真正銘、優等生に変わるわけだ」
どこか、それは自分を信じ込ませる様に。
「……そうだね」
「ああ」
「ホントにそう思ってる?」
「アタシは……東町がどうなろうと、ダチのままだ」
「答えになってない」
「うっせえ」
彼の背中を、二人して目だけで追う。
それが見えなくても、ずっと。ずっと――
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