一度とったら止まらない



――ピコン



「!」

「あやの~?」


「あ、ちょっと東町君から連絡が」

「――いちにー!!」


「わっ。もう……ふふ」



笑ってしまう。

膝に潜りこんで画面を覗くかのんに。



東町一『ちょっと寂しくて。今日も家行って良いかな?』

彩乃『もちろんいいわよ』

東町一『ごめん、昨日も来たのに』

彩乃『はやくー!』

彩乃『うさぎのスタンプ』

東町一『あ かのんちゃんかな』




と思ったら、いつの間にかかのんが携帯を握っていた。



「ちょっ! も、もう! 勝手に打たないの」

「かのん、でんわないもん。かのんもいちにーと『でんわ』したい!」

「電話じゃなくてメッセージよ」

「むぅ!! かのん、おむかえする!」

「わっちょっと!」



時刻は21時前。

いつもはもうウトウトしはじめてもおかしくないのに……。



「おそとでまつ!!」

「えぇ……」



元気いっぱい。

いつの間にか、玄関のドアを開けている。


私もかのんもパジャマなのに!

……まあ、別に彼なら良いかしら。



「あれ?」



そういえば私の携帯、かのんに渡したまま――




『もしもしー! いちにーのおでんわですか!』

「かのん、返しなさい!」







家を出る前。

コレを見るのは今日何回目だろうか。



「……」



携帯の写真フォルダ。

それに映った、俺と詩織さんのツーショット。


不器用に笑う自分。

街灯の下、頬を染める彼女。


我ながら……撮ってよかったと思う。

きっと、良い思い出になるだろう。



「自分らしくないな」



写真は嫌いだった。

“だった”っていうのは、さっきはむしろ撮りたいと思ったからだ。


でも、今は違う。

もっと皆とこの髪色の記憶を残したい。


そう、思った。





「〜♪」



鼻歌(騒音)を口ずさみながら彼女の家へ。

甘えるとはいったものの、正直甘え過ぎな気もしてくるけど。


……今は、それが心地よくて——



「あっ!!!」

「あら」


「!?!?!?」



そして。

扉の外で出迎えたのは、二人の天使だった……(2度目の昇天)。


「は?(死)」


流石に脳が理解出来ない。

なんで外で待っている? なんで寝間着で待っている?



「いちにー! おそかった!」



と思ったら、飛んでくる天使が一人。

スルーなんて出来るわけもなく、しゃがんで彼女を受け止める。


「んふー♪」

「おぅふ……(おまわりさんこいつです)」


俺の常識がおかしいのか?

もしかしたら俺は、自分が陽キャとなったパラレルワールドに来たのかもしれない。



「かのんちゃんマジかわちぃ! レベチレベチ(陽)」

「それやめて」

「えっあっ(陰)」

「に ど と や ら な い で」

「ヒェ」



こ、怖い。

さっきまで天使だったのに!


まるで深淵が俺を覗いている様な――



「かのん様、二度とさっきのような事は致しません(ガチ反省)」

「いちにーだいすき♪」

「オ(セルフ110番)」



また抱き着いてくるかのんちゃん。

……一応、一応だけど。


ここ外っすよ!



「ふふ、ほんとに仲良いのね」



後方。

パジャマ姿のまま、笑ってこちらを見る如月さん。

薄い白、シルクのそれに身を包んだ彼女は。


THE無防備。

若い男(俺)が目の前にいるとは思えない恰好。



「ここ外っすよ(二回目)」



いや、ほんと、マジで。

如月さんって、どこか抜けてるというか。



「頼むから、如月さんはこれでも良いから羽織って……」

「あら」

「さっき着たばっかのやつなんで(先制攻撃)」

「気にしないのに……でも、夜は少しまだ寒いわね」

「でしょ? 次に雨が降ったら暖かくなるらしいけど」



最近は少し熱くなってきたけれど、夜中は涼しい。

陰キャ(国家承認)である俺は、肌を出す格好が嫌いというのもあるけど。



「ふふっ。あったかい――」

「あやのずるい!」

「ああちょっと、伸びるでしょう!?」


「えぇ……」



と思ったら、如月さんのそれを引っ張るかのんちゃん。

おいカーディガン俺と変われ(激寒)。



「かのんも!」

「いやよ、かのんは体温高いじゃない」

「やー!」



目の前、姉妹のやりとり。

それが、どこかおかしくて。



「ははっ。俺達、外で何やってるんだろ」



暖かいんだ。

どうしようもなく。


ずっとここに居たいと思えるぐらい。

この瞬間をどうしようもなく、一枚の画像に残しておきたい。


きっともう、来ることのないこの時間を。




「あのさ。写真、撮って良いかな」

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