一度とったら止まらない
――ピコン
「!」
「あやの~?」
「あ、ちょっと東町君から連絡が」
「――いちにー!!」
「わっ。もう……ふふ」
笑ってしまう。
膝に潜りこんで画面を覗くかのんに。
□
東町一『ちょっと寂しくて。今日も家行って良いかな?』
彩乃『もちろんいいわよ』
東町一『ごめん、昨日も来たのに』
彩乃『はやくー!』
彩乃『うさぎのスタンプ』
東町一『あ かのんちゃんかな』
□
と思ったら、いつの間にかかのんが携帯を握っていた。
「ちょっ! も、もう! 勝手に打たないの」
「かのん、でんわないもん。かのんもいちにーと『でんわ』したい!」
「電話じゃなくてメッセージよ」
「むぅ!! かのん、おむかえする!」
「わっちょっと!」
時刻は21時前。
いつもはもうウトウトしはじめてもおかしくないのに……。
「おそとでまつ!!」
「えぇ……」
元気いっぱい。
いつの間にか、玄関のドアを開けている。
私もかのんもパジャマなのに!
……まあ、別に彼なら良いかしら。
「あれ?」
そういえば私の携帯、かのんに渡したまま――
『もしもしー! いちにーのおでんわですか!』
「かのん、返しなさい!」
☆
☆
家を出る前。
コレを見るのは今日何回目だろうか。
「……」
携帯の写真フォルダ。
それに映った、俺と詩織さんのツーショット。
不器用に笑う自分。
街灯の下、頬を染める彼女。
我ながら……撮ってよかったと思う。
きっと、良い思い出になるだろう。
「自分らしくないな」
写真は嫌いだった。
“だった”っていうのは、さっきはむしろ撮りたいと思ったからだ。
でも、今は違う。
もっと皆とこの髪色の記憶を残したい。
そう、思った。
☆
「〜♪」
鼻歌(騒音)を口ずさみながら彼女の家へ。
甘えるとはいったものの、正直甘え過ぎな気もしてくるけど。
……今は、それが心地よくて——
「あっ!!!」
「あら」
「!?!?!?」
そして。
扉の外で出迎えたのは、二人の天使だった……(2度目の昇天)。
「は?(死)」
流石に脳が理解出来ない。
なんで外で待っている? なんで寝間着で待っている?
「いちにー! おそかった!」
と思ったら、飛んでくる天使が一人。
スルーなんて出来るわけもなく、しゃがんで彼女を受け止める。
「んふー♪」
「おぅふ……(おまわりさんこいつです)」
俺の常識がおかしいのか?
もしかしたら俺は、自分が陽キャとなったパラレルワールドに来たのかもしれない。
「かのんちゃんマジかわちぃ! レベチレベチ(陽)」
「それやめて」
「えっあっ(陰)」
「に ど と や ら な い で」
「ヒェ」
こ、怖い。
さっきまで天使だったのに!
まるで深淵が俺を覗いている様な――
「かのん様、二度とさっきのような事は致しません(ガチ反省)」
「いちにーだいすき♪」
「オ(セルフ110番)」
また抱き着いてくるかのんちゃん。
……一応、一応だけど。
ここ外っすよ!
「ふふ、ほんとに仲良いのね」
後方。
パジャマ姿のまま、笑ってこちらを見る如月さん。
薄い白、シルクのそれに身を包んだ彼女は。
THE無防備。
若い男(俺)が目の前にいるとは思えない恰好。
「ここ外っすよ(二回目)」
いや、ほんと、マジで。
如月さんって、どこか抜けてるというか。
「頼むから、如月さんはこれでも良いから羽織って……」
「あら」
「さっき着たばっかのやつなんで(先制攻撃)」
「気にしないのに……でも、夜は少しまだ寒いわね」
「でしょ? 次に雨が降ったら暖かくなるらしいけど」
最近は少し熱くなってきたけれど、夜中は涼しい。
陰キャ(国家承認)である俺は、肌を出す格好が嫌いというのもあるけど。
「ふふっ。あったかい――」
「あやのずるい!」
「ああちょっと、伸びるでしょう!?」
「えぇ……」
と思ったら、如月さんのそれを引っ張るかのんちゃん。
おいカーディガン俺と変われ(激寒)。
「かのんも!」
「いやよ、かのんは体温高いじゃない」
「やー!」
目の前、姉妹のやりとり。
それが、どこかおかしくて。
「ははっ。俺達、外で何やってるんだろ」
暖かいんだ。
どうしようもなく。
ずっとここに居たいと思えるぐらい。
この瞬間をどうしようもなく、一枚の画像に残しておきたい。
きっともう、来ることのないこの時間を。
「あのさ。写真、撮って良いかな」
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