約束
100:名前:恋する名無しさん
男で髪染めるのって、年取っていくと躊躇する様になるよな
101:名前:恋する名無しさん
職場じゃ50でも全然染めてる人居るけど
102:名前:恋する名無しさん
うーんなんつうか
一回染めちゃったら、壁が無くなる
逆に一度も染めないまま大学卒業とかすると、もう一生黒とか多いかも
103:名前:恋する名無しさん
20後半でいきなり染め出したら周りの目がね
104:名前:恋する名無しさん
おっイメチェンしたかったんだ(笑)って思われそうで嫌
105:名前:恋する名無しさん
考えすぎ
106:名前:恋する名無しさん
実際、髪染められるのなんて学生のうちってのは多いと思うよ
107:名前:恋する名無しさん
職業にもよるけどね
108:名前:恋する名無しさん
ワイ大手商社勤務アラサー、髪を信号機にする事を決意
俺も髪染めれば、彼女が出来るはずや…・・
109:名前:恋する名無しさん
やめろww
110:名前:恋する名無しさん
俺 も ?
111:名前:恋する名無しさん
染めてるけど居ないよ(現実)
112:名前:恋する名無しさん
草
113:名前:恋する名無しさん
髪虹色にしてるやつが居ないんだし(笑い)
114:名前:恋する名無しさん
そうだったね
115:名前:恋する名無しさん
でも女友達は出来たんでしょ?
116:名前:恋する名無しさん
よっし染めるか!
117:名前:恋する名無しさん
お前ら イッチが家族が来るとか悩んでるのにw
118:名前:恋する名無しさん
まあでも来週だろ? まだまだ考える時間あるってww
119:名前:恋する名無しさん
なあ?ww
120:名前:恋する名無しさん
そうそう、何事も考え過ぎは良くないよ!w
121:名前:恋する名無しさん
……何か盛大なフラグ立ててる気がするんだけど
□
☆
☆
「大丈夫、なのかな」
進むのが遅い時計を見て呟いた。
アレから十分が経っている。
イヤーカフが片方ないだけで、そんなに手間取るわけがない。
「いっち……」
最悪の状況を想像してしまう。
すればするほど不安になる。
もしあの格好で家族に遭遇なんてすれば、印象は悪いなんてものじゃない。
不幸中の幸いと言えるのは、空がまだ明るいぐらい。
明るいといっても、19時は超えているんだけど——
——ピコン!
「!」
□
東町一『ごめんね、今日は一緒に帰れない』
東町一『俺の心配は要らないから。家族にはなんとか説明するからさ』
東町一『じゃあ、また明日』
□
羅列されるそのメッセージ。
わたしは、画面に目を向けたまま。
「ばか……」
心配なんて、出来ないわけがないのに。
☆
☆
「座りなさい、一」
「……はい。あっ携帯の通知が(棒読み)」
Z級映画のエクストラ並演技(ごめんなさい)で携帯を開き、初音さんにメッセージを送る。
きっと長くなる。待たせるわけにはいかない。
こんな状況だけど、変に冷静……だと思う。
「……」
「……」
「……」
「ぐぅ」
月曜、夜20時。
俺は今地獄に居る。
タワーマンションの一室、2人の家族が俺をじっと見ていた。
一人いないのは、そこで横になっているから。
俺と同じぐらいの身長、その茶髪は地毛のもの。
おっとりとした目は今は閉じられて、この状況にそぐわぬ寝息をたてていた。
東町花……俺の母親である。
蟻の巣型蟻育成キット(まだ蟻さん達は居ない)を見たら倒れてしまった。
……これは俺は悪くない! 勝手に押し入った母さんが悪いよ……!
「花さんは後で起こすとして……とりあえず、なんで一は嘘を付いたんだ?」
開口したのは俺の父親。
東町聡……アメリカに出張中のサラリーマン。
黒髪のショートで、しっかりとワックスで固められたそれ。
休み中なのにキッチリとした服装。
低いが、安心出来る優しい声。
こんな俺を見ても、強い口調ではないのがありがたかった。
「きっと誤解されると思ったんだよ、父さん」
「それでも嘘は駄目だぞ」
「……ごめんなさい」
「……正直言うとな、まだ混乱してて現実味がないんだ。しばらく見ないうちに、その。こんな風になって」
こんな父さんの姿は初めて見た。
そんな深いため息なんて、俺の前で付くことなんて無かった。
「ちょっと良い。誤解ってなに?」
「え……っと」
「なに」
次に口を開いたのは妹だった。
茶髪のセミロング、父親に似た鋭い目つき。
成長して少し背も高くなった。
相変わらず……俺に似ない整った容姿。
この1年で、もはやオーラすら纏わせている様だ。
「背、高くなったね二奈」
「話逸らさないで」
「ごめんなさい(土下座)」
ちなみに兄の尊厳なんてものはない。
これまで数多くの醜態を晒してきたんだから。
「まっまぁいいじゃないか。一と会うのは久しぶりじゃないか二奈? アメリカじゃよく一の事を——」
「パパも話逸らさないで」
「……いや、はは。すまん……でも父さんな、実はカウンセラーの資格も」
「逸らさないで」
「……すまん」
父の尊厳なんてものもない。
この一家は母と妹が強いのだ。
「誤解ってなに?」
「……ちょ、ちょっとね。今日は別にコレで怪しい場所に行くつもりじゃなくて、ただ近くを友達と散歩、みたいな」
「意味分かんない。『散歩』だけでなんでそんな服に着替えるの?」
「えーと、そうかな……」
「何か隠してるよね、一兄」
「……そ、そんなことはないよ」
身長は俺より小さいのに、この威圧感。
アメリカに行ってより“強く”なった。
「もしかして友達って、あのマンションの前で待ってた人かしら」
「あ、ああ。多分そうだよ……もう帰るように伝えたけど」
「……そう。あの人が一兄を“そんな風”にしたのね」
まるで、全てを知った様な二奈の表情。
それが、俺には不愉快だった。
「——違う! あの服装も、この髪色も……全部、自分の判断でやったんだ」
「! 意味分かんない。ふざけないで」
「ふざけてないよ。今じゃコレも大分気に入ってる、してよかったと思ってる」
「……そう。見ない間に随分変わったのね、一兄は」
“変わった”……そうだ。変わったんだ。
でも二奈のその口調は、俺が欲しかったソレではない。
「信じれないかもしれないけど友達も出来たんだ。色々あったんだ、俺にも」
「その結果が“ソレ”って?」
「……っ」
彼女の目は、より一層冷たく俺を捉えていた。
虹色の髪。
片方しかないイヤーカフ。
似合わないサングラス。
分かっている。
何を言おうとも、事態が悪化する事は。
何を言おうとも、真実と捉えてくれない事は。
この雰囲気は、そういうものだ。
「……良いか、一。バイト用に渡した一の口座は、父さんからも見れるようになってる。で……最近、特にここ2ヶ月の減り方は“異常”だ」
「一年の時、一がアレだけ貯めていたお金が今はもう一割を切っている。一が稼いだものだ、使い道に口を出すなとも思うだろうが……父親としては心配なんだ」
「……なぁ、一。本当に——“大丈夫”なのか?」
父親も、優しくそう言うけれど。
その言葉は、俺が求めていたものじゃない。
「本当に一の言う、その友達は——」
その続きを。
俺は、聞きたくなくて。
「——大丈夫だから! そんな風に言わないで欲しい……大事な、友達だから」
遮った。
今はもう、何を言ってもどうせ無駄だ。
机の下のボトルシップも、家にある大量の天然水も。
増えた携帯の写真も。楽しかった思い出も。全部全部、話しても逆効果だ。
財布の中のクラブの会員証は……一層勘違いされるか。
「ごめん。“友達”の家行ってくる。約束……してたんだ。今日、散歩ついでに寄ろうかって」
「えっ」
「……そうか」
とにかく、今はこの場所から離れたかった。
逃げたかった。
事態が悪くなるのは分かっているけど。
また間違いの選択をしたのは分かるけれど。
きっと――もう、今、何をやってもダメなのなら。
「今週の休み。またココに来てよ、その時はちゃんと話すから」
先延ばしだ。
だからそう言って、俺は立ち上がった。
「待ちなさいよ、一兄!」
「二奈、いいから。一……本当に“約束”してたんだな?」
「……うん」
「ちょっパパ!」
「来週のところを、勝手に月曜日に転がり込んだのはこっちなんだ。一と待ち合わせている人がいるのなら、今は一とその人の約束が優先だろう」
キリキリと胃が痛む。
父さんがこの部屋の合鍵を取り出し……優しい目を止めて俺を見つめる。
「一。今日のところは母さんが起き次第ホテルに戻るが……日曜日にまたここに来る」
「!」
「それまでは……俺と母さんはここには来ない。落ち着いて勉強もできないだろうからな」
「い、良いの? 父さん」
「俺は一を信じてるよ。成績が良いって言ってたもんな。……だから、望み通り時間を与えてやる」
「!」
「日曜日の予定は?」
「……ない」
「決まりだ。“今週日曜15時――俺達と一で話をする”」
断る事など、決して許されない。
父さんが取り出した……年季の入った
それに万年筆がすらすらと動く。
「――これも“約束”だ、良いな?」
そんな父さんの声に。
「分かった。待ってるよ」
そう言って、俺は靴を履きドアを開けた。
温い夜風に当たって、気持ちが悪い。
だから、走って駆け下りた。
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