約束

100:名前:恋する名無しさん

男で髪染めるのって、年取っていくと躊躇する様になるよな


101:名前:恋する名無しさん

職場じゃ50でも全然染めてる人居るけど


102:名前:恋する名無しさん

うーんなんつうか

一回染めちゃったら、壁が無くなる

逆に一度も染めないまま大学卒業とかすると、もう一生黒とか多いかも


103:名前:恋する名無しさん

20後半でいきなり染め出したら周りの目がね


104:名前:恋する名無しさん

おっイメチェンしたかったんだ(笑)って思われそうで嫌


105:名前:恋する名無しさん

考えすぎ


106:名前:恋する名無しさん

実際、髪染められるのなんて学生のうちってのは多いと思うよ


107:名前:恋する名無しさん

職業にもよるけどね


108:名前:恋する名無しさん

ワイ大手商社勤務アラサー、髪を信号機にする事を決意

俺も髪染めれば、彼女が出来るはずや…・・


109:名前:恋する名無しさん

やめろww


110:名前:恋する名無しさん

俺 も ?


111:名前:恋する名無しさん

染めてるけど居ないよ(現実)


112:名前:恋する名無しさん


113:名前:恋する名無しさん

髪虹色にしてるやつが居ないんだし(笑い)


114:名前:恋する名無しさん

そうだったね


115:名前:恋する名無しさん

でも女友達は出来たんでしょ?


116:名前:恋する名無しさん

よっし染めるか!


117:名前:恋する名無しさん

お前ら イッチが家族が来るとか悩んでるのにw


118:名前:恋する名無しさん

まあでも来週だろ? まだまだ考える時間あるってww


119:名前:恋する名無しさん

なあ?ww


120:名前:恋する名無しさん

そうそう、何事も考え過ぎは良くないよ!w


121:名前:恋する名無しさん

……何か盛大なフラグ立ててる気がするんだけど







「大丈夫、なのかな」



進むのが遅い時計を見て呟いた。

アレから十分が経っている。

イヤーカフが片方ないだけで、そんなに手間取るわけがない。



「いっち……」



最悪の状況を想像してしまう。

すればするほど不安になる。


もしあの格好で家族に遭遇なんてすれば、印象は悪いなんてものじゃない。

不幸中の幸いと言えるのは、空がまだ明るいぐらい。


明るいといっても、19時は超えているんだけど——


——ピコン!


「!」



東町一『ごめんね、今日は一緒に帰れない』

東町一『俺の心配は要らないから。家族にはなんとか説明するからさ』

東町一『じゃあ、また明日』




羅列されるそのメッセージ。

わたしは、画面に目を向けたまま。



「ばか……」



心配なんて、出来ないわけがないのに。






「座りなさい、一」

「……はい。あっ携帯の通知が(棒読み)」



Z級映画のエクストラ並演技(ごめんなさい)で携帯を開き、初音さんにメッセージを送る。

きっと長くなる。待たせるわけにはいかない。

こんな状況だけど、変に冷静……だと思う。



「……」


「……」

「……」

「ぐぅ」



月曜、夜20時。

俺は今地獄に居る。


タワーマンションの一室、2人の家族が俺をじっと見ていた。


一人いないのは、そこで横になっているから。

俺と同じぐらいの身長、その茶髪は地毛のもの。

おっとりとした目は今は閉じられて、この状況にそぐわぬ寝息をたてていた。


東町花……俺の母親である。

蟻の巣型蟻育成キット(まだ蟻さん達は居ない)を見たら倒れてしまった。

……これは俺は悪くない! 勝手に押し入った母さんが悪いよ……!



「花さんは後で起こすとして……とりあえず、なんで一は嘘を付いたんだ?」



開口したのは俺の父親。

東町聡……アメリカに出張中のサラリーマン。


黒髪のショートで、しっかりとワックスで固められたそれ。

休み中なのにキッチリとした服装。

低いが、安心出来る優しい声。


こんな俺を見ても、強い口調ではないのがありがたかった。



「きっと誤解されると思ったんだよ、父さん」

「それでも嘘は駄目だぞ」


「……ごめんなさい」

「……正直言うとな、まだ混乱してて現実味がないんだ。しばらく見ないうちに、その。こんな風になって」



こんな父さんの姿は初めて見た。

そんな深いため息なんて、俺の前で付くことなんて無かった。



「ちょっと良い。誤解ってなに?」

「え……っと」

「なに」



次に口を開いたのは妹だった。


茶髪のセミロング、父親に似た鋭い目つき。

成長して少し背も高くなった。


相変わらず……俺に似ない整った容姿。

この1年で、もはやオーラすら纏わせている様だ。



「背、高くなったね二奈」

「話逸らさないで」

「ごめんなさい(土下座)」



ちなみに兄の尊厳なんてものはない。

これまで数多くの醜態を晒してきたんだから。



「まっまぁいいじゃないか。一と会うのは久しぶりじゃないか二奈? アメリカじゃよく一の事を——」

「パパも話逸らさないで」

「……いや、はは。すまん……でも父さんな、実はカウンセラーの資格も」

「逸らさないで」

「……すまん」



父の尊厳なんてものもない。

この一家は母と妹が強いのだ。



「誤解ってなに?」

「……ちょ、ちょっとね。今日は別にコレで怪しい場所に行くつもりじゃなくて、ただ近くを友達と散歩、みたいな」


「意味分かんない。『散歩』だけでなんでそんな服に着替えるの?」

「えーと、そうかな……」


「何か隠してるよね、一兄」

「……そ、そんなことはないよ」



身長は俺より小さいのに、この威圧感。

アメリカに行ってより“強く”なった。



「もしかして友達って、あのマンションの前で待ってた人かしら」

「あ、ああ。多分そうだよ……もう帰るように伝えたけど」


「……そう。あの人が一兄を“そんな風”にしたのね」



まるで、全てを知った様な二奈の表情。

それが、俺には不愉快だった。



「——違う! あの服装も、この髪色も……全部、自分の判断でやったんだ」

「! 意味分かんない。ふざけないで」


「ふざけてないよ。今じゃコレも大分気に入ってる、してよかったと思ってる」

「……そう。見ない間に随分変わったのね、一兄は」



“変わった”……そうだ。変わったんだ。

でも二奈のその口調は、俺が欲しかったソレではない。



「信じれないかもしれないけど友達も出来たんだ。色々あったんだ、俺にも」

「その結果が“ソレ”って?」

「……っ」



彼女の目は、より一層冷たく俺を捉えていた。

虹色の髪。

片方しかないイヤーカフ。

似合わないサングラス。


分かっている。

何を言おうとも、事態が悪化する事は。

何を言おうとも、真実と捉えてくれない事は。


この雰囲気は、そういうものだ。



「……良いか、一。バイト用に渡した一の口座は、父さんからも見れるようになってる。で……最近、特にここ2ヶ月の減り方は“異常”だ」


「一年の時、一がアレだけ貯めていたお金が今はもう一割を切っている。一が稼いだものだ、使い道に口を出すなとも思うだろうが……父親としては心配なんだ」


「……なぁ、一。本当に——“大丈夫”なのか?」



父親も、優しくそう言うけれど。

その言葉は、俺が求めていたものじゃない。



「本当に一の言う、その友達は——」



その続きを。

俺は、聞きたくなくて。



「——大丈夫だから! そんな風に言わないで欲しい……大事な、友達だから」

 


遮った。

今はもう、何を言ってもどうせ無駄だ。


机の下のボトルシップも、家にある大量の天然水も。

増えた携帯の写真も。楽しかった思い出も。全部全部、話しても逆効果だ。


財布の中のクラブの会員証は……一層勘違いされるか。



「ごめん。“友達”の家行ってくる。約束……してたんだ。今日、散歩ついでに寄ろうかって」


「えっ」

「……そうか」



とにかく、今はこの場所から離れたかった。

逃げたかった。


事態が悪くなるのは分かっているけど。

また間違いの選択をしたのは分かるけれど。


きっと――もう、今、何をやってもダメなのなら。



「今週の休み。またココに来てよ、その時はちゃんと話すから」



先延ばしだ。

だからそう言って、俺は立ち上がった。



「待ちなさいよ、一兄!」

「二奈、いいから。一……本当に“約束”してたんだな?」

「……うん」


「ちょっパパ!」

「来週のところを、勝手に月曜日に転がり込んだのはこっちなんだ。一と待ち合わせている人がいるのなら、今は一とその人の約束が優先だろう」



キリキリと胃が痛む。

父さんがこの部屋の合鍵を取り出し……優しい目を止めて俺を見つめる。



「一。今日のところは母さんが起き次第ホテルに戻るが……日曜日にまたここに来る」

「!」


「それまでは……俺と母さんはここには来ない。落ち着いて勉強もできないだろうからな」

「い、良いの? 父さん」

「俺は一を信じてるよ。成績が良いって言ってたもんな。……だから、望み通り時間を与えてやる」

「!」

「日曜日の予定は?」

「……ない」


「決まりだ。“今週日曜15時――俺達と一で話をする”」




断る事など、決して許されない。

父さんが取り出した……年季の入った手帳ダイアリー


それに万年筆がすらすらと動く。




「――これも“約束”だ、良いな?」




そんな父さんの声に。



「分かった。待ってるよ」



そう言って、俺は靴を履きドアを開けた。

温い夜風に当たって、気持ちが悪い。


だから、走って駆け下りた。

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