逃亡先



「アレ、確実に嘘ついてる! 約束なんてしてない!!」

「知ってるさ」

「じゃあ……なんでよパパ!」

「パパ達もサプライズで、一の家に行っただろ?」

「……ッ。でも!! それとこれとは話が違うじゃない!」



タワーマンションの一室。

二人の家族が言い争っていた。



「落ち着け二奈。その前、“友達の家に行く”……ってのは本当だ。見てたら分かる。あんな風に追い詰めても、お互い辛いだけだろう」

「でも」

「きっと、コレから一はその友達に俺達の事を相談する。その相談先がどんな人物、というのは置いておいて」

「悪人じゃないと良いわね」

「それは次会う時にハッキリするさ」



聡の言葉に、二奈は黙る。



「一にも辛い時に頼れるような人が出来てる。見ないうちにな」

「家族よりも?」

「二奈。比べるモノじゃない」

「っ」

「だとしたら、寂しいけどなぁ……」

「はっ。なによそれ」



二人してため息を。

その答えは預けられる。



「まあ、とりあえずは良いじゃないか。日曜には一が話してくれる」

「ママが居たら、一兄はきっとココに居たままでしょうね」



そんな彼女の言葉に、彼は苦く笑った。



「花さんが起きたら、めいっぱい怒られる事にするよ」

「……バカなパパ。知らないわよ」



そして大きな声で話していた二人に、そのもう一人は目を覚まさない訳が無く。



「あ。あれえ……? 私~、寝ちゃってた……?」


「あ」

「あ……」


「あれ、あの虹色男は……? はじめ! あっそうだ、一は!? 一はどこ!!」

「じゃ、じゃあ俺はちょっと『公認サンタクロース』の資格勉強しないとだから……」

「待ちなさいよ。サンタクロースは体重120キロ以上ないと無理でしょ」



息子に似た顔で逃げようとする聡。



「!? なんでそれを! まさか二奈も興味があるのか?」

「ママ、パパが一兄勝手に帰しちゃったよ」


「――え゛?」

「(土下座)」


「……ほんと、ママには弱いんだから……」







「……良かった。帰ってた」



駆け足でマンションから飛び出す。

万が一、初音さんが待ってたら申し訳ないと思ったから急いだけど。


……申し訳ないというか、今の顔見られたら察せられそうだし。



《――「辛くなったら、来ていいわよ」――》



あの時のそんな声が、今聞こえた気がした。

だから俺は、ほんの少しだけ迷ってから……LIMEを開いた。




東町一『突然ごめん お邪魔して良いかな』

彩乃『え? どうしたのかし』

彩乃『いいよ!!!!!!!!!』

彩乃『ウサギのスタンプ』

彩乃『ウサギのスタンプ』

彩乃『ウサギのスタンプ』

彩乃『ウサギのスタンプ』

彩乃『ウサギのスタンプ』




「……これが友達から来るスタンプ爆撃ってやつね(感動)」





時刻は既に21過ぎ。

出してくれたお茶をずずっと飲んで。



「……と、いうわけで家族が帰ってきててさ。流石に居たたまれなくて」

「それは大変だったわね」


「ごめんね、逃げ場所みたいに使っちゃって」

「ふふ、別に良いのよ……かのんも喜んでたし」



《――「ぐるぐるどっかーんやって!」――》


《――「もういっかい!」――》


《――「もういっかい!」――》


《――「もういっか」――》


《――「もういっ」――》


《――「も」――》



「a……(蘇る記憶)」

「お疲れ様。かのん、あれ大好きだから」

「良いよ(即効)」



家族の尋問は精神的に辛かったけど。


さっきのかのんちゃんへの地獄のぐるぐるどっかん(かのんちゃんを布団で巻いて転がすアレ)は身体的に辛かった。

多分明日は筋肉痛。


この心にも筋肉痛というものが有るなら、もっと人は強いのに(は?)。



「でも、東町君ってそういう格好もするのね」

「……え? ああ、これ?」

「それしかないじゃない。ピアスするなんて驚きよ、校則ダメじゃなかったかしら?」

「あっこれはピアスじゃなくてイヤーカフっていって穴開けなくても大丈夫なやつで(早口)」

「そ、そう……そういうのもあるのね」



ピアス穴なんて一生開けることないだろう。

怖いし(チキン)。


というか、かのんちゃん全く今の俺でも反応変わらなかったな。

子供は純粋なんだろう。サングラスとかイヤーカフとかで露骨に見る目が変わるわけではない。


……虹色の髪にだけは釣られたみたいだけど。



「凄く似合ってるわ。普段の東町君と違って、なんというかこう……危ない感じ」

「はは、ありがとう(この顔見たら110番)」


「あ。って事はそれ、私も付けられるのかしら?」

「え、うん」

「……」

「……?」



そんなマジマジと俺の耳見てどうしたんだ。

えっ変? 着けるのやめます(雑魚)。



「……付けていいかしら? そういうのあまり買わないのよ」

「えっ。べ、別にいいけど、俺付けたやつだよ」

「?」



いやこんなカス陰キャ君(自己紹介)が着けたやつ……ってのは全く気にしてないみたいだ。

美人は懐も凄いらしい。



「ど、どうぞ(焦)」



彼女にソレを渡す。

片方だけだったイヤーカフは、ついにどちらも無くなってしまった。

……そんなことある?



「これで、どうかしら?」

「! 似合ってるよ、イメージも変わるかも」

「どういう風に?」

「なんというか……こう、危ない感じ」

「ふふふっ! それ、私の感想と同じじゃない」

「ははっ(俺今日死ぬの?)」



なんだこの空間。

一年の俺に見せたら多分気絶するぞ――



――ガタッ



「!?」

「あっ」



と思ったら、何かが落ちたような音が聞こえた。

今居る居間から……ちょっと離れた部屋から。



「な、何の音?」

「か、かのんの寝返りかしらね?」



にしてはデカすぎませんかね……。

というか二階だろ寝室。



「まっまあ良いじゃない。とにかく落ち着くまでココに居ていいわよ」

「? ごめん、ありがとう。流石に戻るよ……家族も、もう帰ったと思うし」



かのんちゃんにも癒された。

如月さんにも癒された。


やはり俺は恵まれている。



「もう行くの?」

「うん、大丈夫。聞いてくれてちょっと落ち着いたよ」


「これからどうするかは?」

「決まってない……けど」


「じゃあ、また来てね。一人で抱え込むよりは良いでしょう」

「え」

「日曜日にどうするか考えるのよ。桃も一緒に」

「あ、ありがとう」



そう言ってくれる彼女に、戸惑うばかりで。



「また明日ね、東町君」

「うん。また学校で」



普段通り、というわけにもいかないけれど。

俺のメンタルは回復した――と思う。


そう、思いたい。




――ガタッ



「……?」

「気のせいよ」



えっこの家大丈夫? 

ご先祖様、わたくしは不審者ではありません(危ない男)。






「で、そろそろ出てきていいわよ桃」

「……ごめんなさい」


「なんで隠れたのよ」

「わたしのせいで、いっちが。もう、どんな顔して会ったら良いか分からないもん……」


「もう。東町君は大丈夫って言ってたんでしょう?」

「いっちの大丈夫は大丈夫じゃないの」


「? じゃあ『大丈夫じゃない』って言ったら?」

「……多分すんごく大丈夫じゃない……」


「?」

「と、とにかく、大丈夫じゃないの!」


「そう。ならなおさら、明日学校で会ったら話しかけるのよ」

「分かったぁ……」


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