思わぬ目撃者


予鈴がなり、昼休みの終わりを告げる。

慌ただしい廊下を歩きながら、後輩先輩同級生の視線を浴びて回って教室に。



「……」



ダンス発表からは余計に感じる。


……恥ずかしい(乙女)。

虚無超えて逆に、ね?


やっと教室着いた……。

椅子を引いて、ようやく座れた。

うん、いつもの光景だ。



「あ、夢咲さん……」

「ん?」


「ごめんなんでもない(早口)」

「あぁ? 何だよ」



そういえば、彼女と席が隣になって早3ヶ月か。

あんまりウチって席替えとかないんだよな。


出来れば、このままが良い。

彼女達の隣のこの席が落ち着くんだ。

絶対二学期になったらあるだろうけどね。


その時は受け入れるけれども。

……あんまり考えたくないな。



「いやぁ。このまま、一番後ろの窓際席が良いなって……」

「……アタシもココが良いな。先生に当てられねーし」


「それは俺がデコイになってるからじゃないかな(虹色並感)」

「ハッ、言えてんな」

「――あーもー聞いてるこっちが恥ずかしいわい! ☆」

「!? 何だよリオ……」



こうして柊さんが突っ込んでくるのもどこか愛おしい。

二学期。二学期か……無事にそれを俺は迎えられるんだろうか?


……ま、流石に家族でもアメリカに連れて帰る? なんてことはしないだろうHAHAHA(アメリカ人並の感想)。



「おい東町……大丈夫か?」

「あ、ああ。ごめん、大丈夫」


「すんごい遠い目してたけど☆」

「大、丈夫……」


「ば ん ! ☆」

「うわあ(目が覚める)」

「おい何やってんだリオ」



彼女が机を叩いた衝撃で身体が。

魔王の喝ってやつか……。



「これ苺がやったらとーまち死ぬよ」

「ヒェ」

「リオ!! んなわけねえだろうが!」

「うわぁ(椅子から転げ落ちる)」

「ふははははは!」

 


夢咲さんの覇気だけで俺の身体が吹っ飛びそうになったよ。

……ああ、もういっそ目が覚めたら夏休みになってないかな。


広大な大地北海道が……俺を待ってるんだ……。



「もー悩めば悩むだけハゲるぞ☆」

「あっ……(髪染めによる頭皮へのダメージへの心配)」

「今日放課後遊びに行こっか☆」

「え」

「良いんじゃねーの。息抜きも大事だぜ」

「こういう時は、歌って忘れるのに限るよね☆」



……まだ月曜日っすよ姐さん(三下並感)。

というかカラオケとか、全然歌ったことないんだって。


あっ最近歌ったわ。喉潰す為だけにな!






「私、見ちゃったんです」



部室。

部活が始まる前、ポイントガードの明ちゃんがわたしにそう言った。


誰にも聞こえないようなひそひそ声で。



「急になに?」

「……んー? 心当たりあるんじゃないですかぁ?」


「え……」

「実はずっと、桃先輩から言ってくれるの待ってたんですよ。でもずっと隠すから……」


「な、なにが?」



明ちゃんは悪い顔だ。

小さい身長で、1年生。

それでも尚ウチのレギュラーに位置しているのは、身体能力もあるけれど——



「だから、見ちゃったんですって。あの時のこと!」



ボールへの嗅覚。

そして、それはバスケ以外でも発揮される……って本人が言っていた。


……まさか見られちゃった?

一昨日、いっちとあやのんの家に入るところ……!



「ち、違うよ。アレは全然そういうのじゃなくて、というかあやのんも居たし……」

「はい?」

「え?」


「あのクソOG達の事なんですけど……」

「えっ」


「そ、その話もめちゃくちゃ気になりますけど! 今は良いです!」

「う、うん……」



分からない。

でも、見たって……あ。



「あの、OGを追い払った男の方は誰なんですか!」



もっとまずいかもしれない。





「見たんですよ、私。桃先輩が大丈夫って連絡してくれた後もずっとあそこをウロチョロしてたんです」


「で……なんとなく、あのカラオケ店が“匂って”。そしたら、滅茶苦茶イカツい人が入っていって」


「そのあと、しばらくしたら……その人と桃先輩が出てきたじゃありませんか」



明ちゃんは、それはもうバッチリ見ていた。



「それでその後は例のクソOGが死にそうな顔で出てくるし……なんか五千円? 握って。異様でしたよ」



ただ……わたし達の“その後”は見られなかったみたい。



「……桃先輩とは仲良さそうだからその人に任せたんです。なんか入りにくい感じでしたし……はい、そんな感じです」



いっちには感謝だ。

あの格好じゃなかったら、マズかったかも。


……でも。どうしよう……。



「――で、どうせその人には“誰にも言うな”なんて言われてるんですよね? ね? 知ってますよ私は」



い、言われてないけど。

それでも、あの人の正体がいっちとは言えない。


……あんな格好するって、マイナスイメージだし。

シークレットブーツとかサングラスとか。ただでさえいっちの評判は良いのか悪いのか分からないのに。


でも、一番の理由は――。



「でも! 我慢なりません! やっぱりお礼言わなきゃムズムズして授業中に寝れません!」

「……」

「と、いうわけで会わせて下さい! バスケ部の救世主として!」

「だ、だめ……って、その人に、言われてるから」



言われていないけれど。

ついつい、そう言ってしまった。



「……じゃあ東町先輩に聞いちゃおうかなー!」

「!?」


「? だってあの“髪色”、絶対東町先輩の知り合いですよね」

「あ……」


「身長高いし! お洒落だし! きっとモデルさんか、俳優さんだったりして……」



なんか、明ちゃんの表情が怪しい。

これは本当にマズイかも……!



「いっちも……多分、言わないから無意味だよ」

「……うー」


「――二人とも、もう練習始まるよ!」


「あっ吹雪」

「わーもー、絶対いつか吐かせますからね!」

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