年上力とプロローグ



「……ぁ」



僕は、読んでいた本を閉じて。

揺れる電車の中、ドアの上の液晶を見る。

乗り換えの駅だった。



《ドア開きます》



数人の人に流されるように降りて、乗り換える電車を待つ。


どうやら後20分程掛かるようで、結構並んでいる。

ここは大きな駅だから人が多い。僕も最初は迷いましたね……。




「……」



一人、そこに並んで思い出す。



《――「実はさ、もうすぐ帰ってくるんだ。俺の妹が」――》



彼はそう言っていました。

だから、部屋の掃除とか頑張ってるみたいです。


……一君の部屋、見てみたいですね。

たくさんの趣味? もあるみたいですし。


どんな風に過ごしているのか、気になりますし……。



「―― Woopsやっちゃった……」



「!」



なんて、電車を待ちながら考えていたら聞きなれない英語。


見れば、綺麗な“茶髪”。

背は僕と同じぐらいで小さいですが、青いデニムジャケットに身を包んだお洒落な感じの少女。

中学生? 高校生? それとも大学生もあり得るかも……?


顔は日本人っぽいですけど、日系アメリカ人? の方でしょうか。



「…… uhhh!あーー もう……」



み、見るからに困っている。

どうしよう。


英語なんて分からない。


でも……こんな時。

一君だったら。

迷いなく、彼女に声を掛けているはず。



「……」



はず、なんですけど。

僕、英語全く話せない……どうしましょう。


あっ。



「……ぁ、あった」



もう使う事なんて無いと思っていましたけど。

ポケットから、取り出した手のひらサイズのメモ用紙。


翻訳アプリで調べて、携帯を下敷きに『What's happen?どうかしましたか』……できました。

携帯そのまま見せるよりこっちの方が伝わりそう、ですよね。

一君と話した? 時もこれで、やりましたし。



「――あ、あの! これ……」

「!? え……あ」



あれ?

なんというか、やっぱり日本人っぽいような……。



「……貴方、日本人よね?」

「そ、そうです!」


「ごめんなさい、日本語で大丈夫よ」



……力が抜けました。

でも、良かったです……。





「……ご家族と離れたなんて、気の毒でしたね」

「ふふっ。こんなことならホテルに先に行って、なんて言わなければ良かったわ」


「そ、そうですね」

「でも助かった。日本の駅は本当に迷路ね」


「くくっ。本当です」



歩きながら、不思議な彼女と話す。


どこが、と言えば……色々だ。

話していて、初対面と思えない程に人当たりが良い。


会話が途切れる事が無い。

それに、この笑顔。見ているだけで明るくなるような。



「ここで待っていたら良さそうね」

「はい。乗り換えとかは分かりますか?」

「ええもう大丈夫」

「それなら良かったです」


「えーと、案内して貰って悪いのだけど……時間大丈夫だった?」

「! 全然平気ですよ、まだ10分程あるので」



こういう気配りも、なんというか僕とは全然違うタイプに思える。



「そう、良かった。貴方名前は?」

「も、椛詩織です」

「良い名前ね。貴方にそっくり」

「へぇ?」

「頬っぺた、紅くなってて凄く可愛いもの」

「わ……」

「ふふっ。いきなり貴方みたいな人に会えて光栄だわ」

「ど、どうもです……」



やっぱり人との距離の詰め方が……自分とは違い過ぎます。

僕より年上の方でしょうか。そうに違いないです。


じゃないと恥ずかしい……!



「あ、あなたは?」

「私は“二奈”。ニーナって呼んで♪」

「に、ニーナさん。は、どうして日本に……?」

「あら、これインタビュー? もしかしてカメラとか仕掛けられてる?」

「え、え……」

「ふふっ! ごめんなさい。貴方面白いわね」

「えぇ……」


そんな慌てる僕をなだめてから。



「私は、日本に居る兄に会いに来たのよ」



楽しそうに笑いながら、最後に彼女はそう言いました。

……兄。


《――「実はさ、もうすぐ帰ってくるんだ。俺の妹が」――》


奇遇にも、彼と重なるけれど。


《――「来週だけどね。それでもかなり部屋汚いから、間に合うか微妙で……」――》


流石に、そこまでの偶然は無いようだ。


「お兄さん、ですか」

「ええ。どうしようもない兄だから心配でね」

「……そ、そうなんですか?」

「ふふっ。貴方に会わせてあげたいわね」

「え」

「詩織が可愛過ぎて、きっと会ったら何も話せずに私の方に逃げてくるわ、きっと」

「そ、そんな」

「女の子に対する免疫なんてゼロ。というか他人と話すのがとっても苦手なの。私と違ってね! 連絡先は私とママ、パパしか居ないわよきっと。髪も服装もダメダメ。That Hajime is so lame!(あのハジメってやつマジでイケてない!)――絶対あっちの友達が会ったらそういうわね!」


「そ、そうですか……」


急にじょうぜつになっちゃってびっくりしました。



「あっ、話してたら電車来たみたい。ありがとね詩織!」

「は、はい」


「バイバーイ!」



手を振りながら電車に乗る彼女。


まるで嵐。

それでいて、太陽の様な。




「……あれ?」




さっきなにか、聞き覚えのある名前を聞いたような。


……まあ気のせいですよね。

帰ったらまた、ボイストレーニングでもやりましょう!










▲作者あとがき


とりあえず妹登場まで。

もう結構な話数書き上げてるんですけど、もう少々お待ちを! 

ある程度話が完成してから投稿するようにしてますので。


期待せず待っててもらえると幸いです。

もう10月……(絶望)

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