二人の探偵
「駅前――拾ったパスケース。あれ映画のグッズだよね」
「グッズ買う人は少ない。結構筋金入りの映画ファン。それにそのスマホケースも前やってた違う映画のやつだよね」
「ここまでの映画通なら――しっかりレビューも書いてそう」
実際、彼女はすごかった。
電車で定期ケースを落とした俺の忘れてほしい黒歴史すらも推理に盛り込んで。
「つまり映画鑑賞はもちろん、評価も楽しみそうなタイプ。それが趣味。違う?」
「あ、当たってる……そこまでわかるんだね」
「もちろん会話だけじゃない。君の“反応”からも読み取ってるから」
「はえー……(感動)」
「凄いです!」
さっきから、凄いですBot(バカ失礼)になってる詩織さんがいるぐらい凄い。
「これで、全部じゃないかな?」
「……ぁ」
「えっ違うの? …にまだまだヒントはあるから何も言わないで――あ、ダンス」
「そうだね」
「凄いです!」
「……え、まだあるの?」
「よ、よく分かるね」
ただ、少しづつ雲行きは怪しくなってきた。
☆
「あーーキャンプ! キャンプだ、確か詩織と山行ってた」
「……別にそれは詩織さんに付いて行っていっただけで」
「じゃあカレー! 料理だね。詩織が褒めてた!」
「そ、そうです……」
「えっまだあるの」
「あぁ……(絶望)」
そんなこんな、大体三分の一は当てられたから終わりたかったんだけど。
この立花立夏さん……俺の顔で察してしまうせいで、まだまだ趣味があるとバレてしまう。
だから誤魔化せない。
思えば、俺の顔が分かりやすすぎると初音さんからよく言われていた。
それを――考慮すべきだったんだ――
☆
「は? 横断歩道?」
「いやぁ趣味って言えるかわからないけど、かれこれ一か月はやってます(自信家)」
「は?」
「はは……」
「なんで?」
「まぁ子供心的な、ね……(目逸らし)」
結果、俺から答えを出すしかなくなって。
「えっまだあるの」
「いやもう良いんじゃないっすかね(恐怖)」
「やだ」
「えぇ……」
「あぁもう言いたくなかったけどクラブ! ごめんね!」
「はい、合ってます……」
「アレ本当だったんだ……ってまだあんの……? その顔!」
「はは(殺してくれ)」
「もう教えて……」
「ポロ(真顔)」
「??????」
「一君、凄いです!」
☆
「……論理的じゃない。何もかも関連がない……」
「……」
結局、趣味が23個ある俺を推理する事は出来なかった。
ポロって言った時の彼女の顔が忘れられない。
半身浴なんて分かるわけないし仕方ない。
なんとか創作活動の三つは隠し通した!
「は、一君って沢山趣味があるんですね! 通りで色々知っていると思いました!」
「ありがとう。でもまだまだ薄いよ、知識付けてるだけなのもあるし(ポロ)」
「そんなことないです! あんなに半身浴について語っている方見たことありません!」
「(喜んで良いのか?)」
「今日からやります!」
「そりゃあ良いね」
……役立てた事に喜んでおこう。
さっきから詩織さんが嬉しそうだ。
「……っ……」
対して立花さんはアレだけど。
ひたすら落ち込んでるけど。
「東町一君、だっけ。本当に変わってるんだねー」
「……そうかな」
さっきの趣味の事も、この髪色の事も。
全ては——掲示板の住民達の、“安価”から始まった事だ。
「一君は、凄いんです!」
「そんなことないよ(照れ)」
……そしてそれは、誰にも言う事はないだろう。
この二人にも。
言った所で、余計に混乱するだろうし。
俺自身が言いたくないからね。
なんなら——家族にすらも。
あの、二奈にも——
「じゃあ、僕もちょっと推理しちゃって良いですか!」
「え゛」
「詩織?」
その時。
ふと、記憶が蘇る。
《――「実はネットの影響で染めたんだよ。この髪色」――》
あの山で遊んだ日。
俺は確か、彼女にそう言った。
ネット――掲示板――安価――繋がる。繋がってしまう。
まさか彼女は、ずっと俺が掲示板で変わろうとしていたことを知って?
ありえる。
小動物には、自然界で生き抜く為に鋭い感覚が備わっている。
食物連鎖の下の、か弱い生き物がここまで生き長らえてきた理由がそれだ。
もしかしたら、この詩織さんにも――
「一君は、今食後のコーヒーが飲みたいです! 違いますか?」
「……見破られたッッッ!!!!! (仰け反る)」
「……」
「やりました!」
「(温かい笑顔)」
「……やっぱり何か隠してるよね」
「そんなことないよ(目逸らし)」
危なかった。
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