二人の探偵



「駅前――拾ったパスケース。あれ映画のグッズだよね」


「グッズ買う人は少ない。結構筋金入りの映画ファン。それにそのスマホケースも前やってた違う映画のやつだよね」


「ここまでの映画通なら――しっかりレビューも書いてそう」



実際、彼女はすごかった。

電車で定期ケースを落とした俺の忘れてほしい黒歴史すらも推理に盛り込んで。



「つまり映画鑑賞はもちろん、評価も楽しみそうなタイプ。それが趣味。違う?」

「あ、当たってる……そこまでわかるんだね」

「もちろん会話だけじゃない。君の“反応”からも読み取ってるから」

「はえー……(感動)」

「凄いです!」



さっきから、凄いですBot(バカ失礼)になってる詩織さんがいるぐらい凄い。



「これで、全部じゃないかな?」

「……ぁ」

「えっ違うの? …にまだまだヒントはあるから何も言わないで――あ、ダンス」


「そうだね」

「凄いです!」


「……え、まだあるの?」

「よ、よく分かるね」



ただ、少しづつ雲行きは怪しくなってきた。




「あーーキャンプ! キャンプだ、確か詩織と山行ってた」

「……別にそれは詩織さんに付いて行っていっただけで」


「じゃあカレー! 料理だね。詩織が褒めてた!」

「そ、そうです……」


「えっまだあるの」

「あぁ……(絶望)」



そんなこんな、大体三分の一は当てられたから終わりたかったんだけど。


この立花立夏さん……俺の顔で察してしまうせいで、まだまだ趣味があるとバレてしまう。

だから誤魔化せない。


思えば、俺の顔が分かりやすすぎると初音さんからよく言われていた。

それを――考慮すべきだったんだ――





「は? 横断歩道?」

「いやぁ趣味って言えるかわからないけど、かれこれ一か月はやってます(自信家)」

「は?」

「はは……」


「なんで?」

「まぁ子供心的な、ね……(目逸らし)」



結果、俺から答えを出すしかなくなって。



「えっまだあるの」

「いやもう良いんじゃないっすかね(恐怖)」


「やだ」

「えぇ……」


「あぁもう言いたくなかったけどクラブ! ごめんね!」

「はい、合ってます……」


「アレ本当だったんだ……ってまだあんの……? その顔!」

「はは(殺してくれ)」


「もう教えて……」

「ポロ(真顔)」


「??????」

「一君、凄いです!」





「……論理的じゃない。何もかも関連がない……」

「……」



結局、趣味が23個ある俺を推理する事は出来なかった。

ポロって言った時の彼女の顔が忘れられない。

半身浴なんて分かるわけないし仕方ない。

なんとか創作活動の三つは隠し通した!



「は、一君って沢山趣味があるんですね! 通りで色々知っていると思いました!」

「ありがとう。でもまだまだ薄いよ、知識付けてるだけなのもあるし(ポロ)」


「そんなことないです! あんなに半身浴について語っている方見たことありません!」

「(喜んで良いのか?)」

「今日からやります!」

「そりゃあ良いね」



……役立てた事に喜んでおこう。

さっきから詩織さんが嬉しそうだ。


「……っ……」


対して立花さんはアレだけど。

ひたすら落ち込んでるけど。



「東町一君、だっけ。本当に変わってるんだねー」

「……そうかな」



さっきの趣味の事も、この髪色の事も。

全ては——掲示板の住民達の、“安価”から始まった事だ。



「一君は、凄いんです!」

「そんなことないよ(照れ)」



……そしてそれは、誰にも言う事はないだろう。

この二人にも。

言った所で、余計に混乱するだろうし。

俺自身が言いたくないからね。


なんなら——家族にすらも。

あの、二奈にも——



「じゃあ、僕もちょっと推理しちゃって良いですか!」

「え゛」

「詩織?」



その時。

ふと、記憶が蘇る。


《――「実はネットの影響で染めたんだよ。この髪色」――》


あの山で遊んだ日。

俺は確か、彼女にそう言った。


ネット――掲示板――安価――繋がる。繋がってしまう。

まさか彼女は、ずっと俺が掲示板で変わろうとしていたことを知って?


ありえる。

小動物には、自然界で生き抜く為に鋭い感覚が備わっている。

食物連鎖の下の、か弱い生き物がここまで生き長らえてきた理由がそれだ。

もしかしたら、この詩織さんにも――



「一君は、今食後のコーヒーが飲みたいです! 違いますか?」

「……見破られたッッッ!!!!! (仰け反る)」

「……」

「やりました!」

「(温かい笑顔)」


「……やっぱり何か隠してるよね」

「そんなことないよ(目逸らし)」



危なかった。


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