Shall we Dance?
それは、少し前のこと。
「先輩ヤバいっす」
「え? 今度はなに~?」
バスケ部、部室。
創作ダンスの発表を終えて、“色々”あって。
今日の練習を終えた頃のこと。
「いや、ヤバかったんすよね?」
「何が……?」
「とぼけないでくださいよぅ! その、例の虹色先輩がすごかったんすよね?」
「え、うん……」
「いやーすごかったよ! 明!」
「ちょ、吹雪」
「マジっすかー!! 見たかったなー!」
「良いでしょう! もうキャーキャー言っちゃった!」
やけにテンションの高い明ちゃんが、吹雪と話す。
……なんで一年生の彼女まで?
「練習中にその話題出したら止まらなくなると思って我慢してたんですよ!」
「間違ってないね。多分顧問にどやされた!」
「そこはキャプテンが止めて下さいよ!!」
なんか盛り上がってるし……。
「――ね、ねぇ初音。東町君と仲良いんだよね?」
「ちょっと今度、一緒に遊ぶとか出来ない?」
「えっ」
と思ったら、同じクラスのバスケ部の二人から話しかけられた。
普段あまり話さない様な関係の彼女たち。
なんなら――
《――「……ねぇ初音。あんたアレと仲良いの?」――》
《――「“あんなの”やめときなよ」――》
少し前。
いっちの事、めちゃくちゃ言っていた二人なのに。
「……“あんなの”じゃなかったの?」
「い、いやー。実は結構カッコいいんじゃない? みたいな」
「ダンス凄かったしー。学年一位だし? なんならちょっとミステリアス……」
「……」
本当に、手のひら返しとはこういう事だと思った。
「……考えとく」
だから、あんまり乗り気になれない。
そんな返事をして――逃げる様に家に帰って。
「いっちって、実は……」
シャワーを浴びながら、うとうとと考える。
過った考えは消した。
だって――“あの”いっちだし。
挙動不審な時たくさんあるし、たまにちょっと意味の分からないこと言うし?
……でも。
《――「会いたかった」――》
保健室。
弱々しい、彼の声。
他でもない――“わたし”を求める声に、身体が勝手に動いていた。
……だから、いっちは。
わたしが居ないと駄目なんだから――
――ピコン!
「ひゃっ!?」
髪乾かしながら、そんな考え事。
遮断するように届いたメッセージ。
□
あやのん『今日、東町君とダンス発表終了祝いやるの』
あやのん『来る?』
もも『行く!!!』
あやのん『早すぎでしょ……』
あやのん『おさかないっぱい かってくるね!』
□
ノータイムで返事。
――というか、ナチュラルにあやのん、いっちを誘ってるよね。
しかも彼、行く事既に決まってるし。
……うん。
まさか、ね。
☆
そして、今。
「よくイジられるけど優しさも感じるし……一緒に居て楽しいよね。たまに怖いけど」
「夢咲さんはイメージと違って、柔らかくて優しいよ。意外と臆病だったりするし」
「詩織さんは……一緒に居て落ち着くね、詩織さんは。何というか癒やされるんだ」
尋問と言い訳した、いっちの身辺調査。
『噂について話したい』なんて言ってたから自然な流れのはず。
で、結果。わたしが思っているよりも――その三人とは仲良くなっていた。
「……ふーーん……」
なんなら一人は下の名前で呼び合ってる。
“いっち”呼びしてるのはわたしだけだけど。
……だよね?
「つ、つぎ! 我らが誇る美女、あやのん!」
そして。
この質問が、一番気になった。
《――「酢飯は買ってもらったのに?」――》
《――「魚は買ってないからね」――》
《――「もう」――》
さっき、台所の二人はすごく仲良く見えたから。
今回の寿司パ? にも誘ったのはあやのんだ。
もしかしたら――なんて。
控え目に口を開く彼を凝視。
「如月さんは凄いよね、あの美貌だけじゃなく色々な要素が凄いというか」
「料理も馬鹿上手いし、たまに抜けてる言動もあったりさ」
「魅力的過ぎて怖いよ。だからこそ……俺なんかと仲良くしてくれるのは奇跡に近いと思う。そういう目的で近付くなんて考えられないね」
そして、そんないっちの声。
ばか褒めだった。
顔を見ればわかる――まったく嘘をついていない。
……別に、だから、なんだっていうの。
当然のことだ。あやのんは可愛い。しかも料理上手。天然もたまに入ってる。
背伸びしたって敵わない。勝っているのは身長だけ。いやそれ逆に負けてない……?
そう、思うけれど。
「……ふーーーん……さいですか~〜」
心の中のもやもやが大きくなっていくのを感じる。
……“また”だ。
最近こんなのが多い。
彼は友達で、この気持ちは変なのに。
溢れる嫌な感情。
さっきまで、あんなに楽しい時間だったのに。
止めようと思っても、止められなくて――
☆
☆
「そうだよね~。ね~?」
「えぇ……」
「魅力たっぷりだもんね~」
「はい……」
さっきから初音さんがおかしい(失礼)。
狙ってない意図は伝わったと思うんだけど……。
「あやのんは凄いよね〜。ほんと」
「う、うん」
「ずっと居るとさ、色んな自信なくなっちゃうよね」
「え」
「中学の時はね、やけにわたしモテるな〜なんて思ってたの。でも結局、仲良くしてた男友達が全員あやのん目的でしたって。気付いた時はショックだったな〜」
「それは……」
「今でこそ、わたしに来る男の子に『あ、あやのん目的だ』って察せるようになったんだけど」
笑う彼女の表情は、どこか達観した様子だった。
それがどれだけ辛い事なんて、考えなくても分かるのにだ。
「でもあやのんも、多分それを本能的に分かってたんだと思う。結局全員あっけなくフッて、終始冷たい態度だった」
「そう、なんだ」
「『桃にそんな顔させる人、好きになるわけないじゃない』——だって。あやのんが男だったら、わたし惚れちゃってたね〜」
「はは……」
如月さん、思ってたより凄いのかもしれない。
初音さんが彼女と凄く仲が良い理由も分かった気がするな。
「まぁ基本鈍いんだけどね、あやのんは。でも凄い良い子なんだ〜」
「うん」
「性格も見た目も良すぎて、もう非の付け所がないというか……は〜」
「う、うん……」
でも。
それでも、ずっと隣に居る如月さんとは嫌でも比較してしまうんだろう。
その表情は複雑だ。
笑っているようで笑っていない。
ずっと一人だった自分には、きっと分からない辛さ。
……俺に。
一体何が、出来るんだろう。
「あはは、わたし何話して……ごめんね」
「いえいえ……」
「って、もうこんなとこまで来ちゃった!」
「確かに大分歩いたね」
「帰ろっか〜」
また無理に笑っているであろう彼女は、やっぱり元気が無いように見える。
でも、何を言えば良いのか分からない。
『そんなことないよ』——なんて言っても嫌味にしかならないだろう。
余計に彼女を傷付けるだけだ。
「……いっち?」
俺みたいな陰キャは、女の子を口説いた事なんて当然無い。
だから都合良く、初音さんを元気付ける台詞なんて思い浮かばない。
友達すら、一か月とちょっと前に出来たばっかりなんだから。
「ほら、帰るよ?」
でも。そんな俺に、光明が刺すように。
「――!」
瞬間、2週間近く。
ずっと耳に聴き込んだ——あの音楽が鮮明に蘇って。
それはまるで、魔法が掛かった様に。
目に映る光景が嘘みたいに輝いていく。
思わず立ち止まった。
その全てが、俺達の為にあるような気がして。
「いっち……?」
夜を照らす月明かり《ムーンライト》。
誰も居ない静かな公園。
“二人っきりの、ダンスフロア”——
「初音さん」
俺は手を差し出した。
生物には、脈打つダンスの血が流れている。
言葉など発さなくても、踊る事で通じ合う事が出来る。
変人なのは重々承知。
でも——発する言葉を迷うのならば、俺がやれることはソレのはずだ。
こんなにも、
「ちょっと、踊っていきませんか」
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