尋問


「○✕キュアがんばえー!!」

「このままだと負けちゃうわね」


「……じゃ、わたし達ちょっと食後の散歩してくるから……」

「ええ。気を付けてね——あっ本当に負けちゃうわよこれ!」

「がんばえー!!」



居間に居る二人に声を掛けて、俺達は外に出た。

姉妹共に画面の前の魔法少女の戦い(録画)に目を奪われてたから、サッと出れたね。



「合鍵持ってるんだ……」

「あはは〜。親友だから!」



そのまま初音さんは鍵を閉めて。

外はもう、真っ暗で。


電灯と自販機のほのかな明るみが、俺達の道を照らしていた。

俺に身体を向けながら歩く彼女。

後ろに回した両手、近い距離。


……そういうの心臓に悪いからやめてほしいね(言うまでもなく童貞)。



「で、改まってどうしたの〜?」

「あ……その、えっと」

「噂のことでしょ? だったら——」

「——すっストップ!」

「へっ!?」

「あ、ああごめん……」



このまま、彼女の優しさに甘えていたら駄目だと思った。

だから止めた。


……本当に、駄目だな。踊っていた時は大丈夫だったのに。


踊りながら言うか(不審者)。

しませんけど。



「えっと、ですね」

「うん」

「女遊びは……してないです」

「知ってた〜」

「あー……でもクラブには結構行ってます」

「そうなんだ」

「ただ、女遊び目的とかそういうのじゃなくて……踊りに行ってるというか」

「うん。やっぱりそうなんだ」



……すんなり過ぎて肩透かし感が。



「ダンスも好きでやってて、モテたいとかは本当に全く思ってなくて。クラスメイトにアピールしたいとかじゃなくて……」

「うん」

「……」

「おわり?」



いやいや。俺がアレだけ悩んでた噂なのに。

こんな簡単に解決したのか。



「……は、話すまでも無かったかな」



全て分かってる感じの初音さんだと、そう思ってしまう。


「そんなことないよ」

「え?」

「いっちの口から言うからこそ、もっと安心出来るから」

「……そっか」

「うん」


じゃあ言っていて良かった。

勇気を出した甲斐があったかな。



「ほんと、よかった〜。まあそもそも、いっちがどんな目で見ようが何も悪くないんだけどね〜」

「はは……」


「でも、いっちは本当にそういう目で見てないの? 仲良くしてる人、あんな美人揃いなのに」

「まあ、うん」


「ほんとかな〜」

「本当です(潔白)」



何度も思ってることだけど。

彼女が欲しいとかは、今は本当に考えられない。


きっと五人が仲良くしてくれるのも、俺がこういう意思だからだ。

肉じゃなくて草食って生きてますから。



「証明できるの〜?」

「それは……」


「あはは、尋問じんもんしちゃおうかな」

「お手柔らかに……」



悪戯に笑う彼女。

こういう表情、珍しいかも……なんて思っている余裕などない!



「じゃあまず、柊さんのことはどう思ってるのですか〜?」


「えっと……」



思い返す。



《――「とーまち!」――》



彼女は、思えば最初から俺に優しかった。

しかし仲良くなってからは……そのSっぷりに驚かされた気がする。


ただそれも、こう言うと怪しいけど心地良いんだ。



「よくイジられるけど優しさも感じるし……一緒に居て楽しいよね。たまに怖いけど」

「ふーん……夢咲さんも?」


「夢咲さんはイメージと違って、柔らかくて優しいよ。意外と臆病だったりするし……その、見た目とは真逆で可愛らしい性格というか」



《――「よろしくな、東町」――》



最初、クラブで出会ってから仲良くなった彼女は……柊さんとはかなり違った性格だった。

最近は名前で呼んでくれる様になったり、CDをくれたり。大分仲良くなれた気がする。


一番最近の彼女は、寝ぼけながら保健室を後にする姿だから……ちょっと申し訳ないけど。

たまに抜けるのも夢咲さんらしい。これも仲良くなって知った事だ。



「……ふーん……」

「な、なに?」


「じゃあ、椛さんは?」

「えー……詩織さんは――」



《――「一君!」――》



一番変化があったのは彼女だろう。

最初は文字のやり取りで、ついさっきは電話。

時代の進化を感じるね。そのうちテレパシーとかやっちゃったりね(人外)。


過去に引っ込み思案だった彼女は、今や別人だ。

友達も新しく出来て、表情も見えるようになった。


その小動物を思わせる振る舞いとか、愛くるしい見た目とか、山とか(?)。

本の香りもあって――



「一緒に居て落ち着くね、詩織さんは。何というか癒やされるんだ、見た目とか性格とか香りとか……浄化されるとも言うね」

「ふーん……というか下の名前で呼んでるんだ」


「あ、うん。お互いそう呼びませんかって」

「……ふーーん……」


「?」

「つ、つぎ! 我らが誇る美女、あやのん!」

「えぇ……」



我らって俺も入ってるのだろうか?

というか、テンションがおかしい気がするよ初音さん。


……どうする? ただ嘘付いたら多分バレるんだろうな。彼女鋭いし!


ここは正直ベースで行こう。



「如月さんは凄いよね、あの美貌だけじゃなく色々な要素が凄いというか」


「料理も馬鹿上手いし(褒め言葉)、たまに抜けてる言動もあったりさ」


「魅力的過ぎて怖いよ。だからこそ……俺なんかと仲良くしてくれるのは奇跡に近いと思う。そういう目的で近付くなんて考えられないね」



本当に、どれだけ奇跡な日常なのかは分かっているつもりだ。

これまで羅列した彼女達と仲良くしていられる今がどれだけ貴重なのか。


だからこそ大事にしたいと思ってるわけで——



「……ふーーーん……さいですか~〜」

「は、はい」



さっきから、初音さんが怖いです(恐怖)。

これが尋問か……!

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