寿司パ(二回目)
20時前。
いつもは家にいるけれど、今は如月さんの家。
「ってわけで、ダンス発表終了を祝ってかんぱーい!」
「かんぱーい!!」
「ふふっ」
「か、乾杯……(陰キャ)」
テーブルには、俺と如月姉妹が握った(載せただけ)のお寿司が並んでいる。
そしてガラスのコップを皆でカチッとぶつける。中にはキンキンのそれ。
さあ、グイっと行くぞ!
「麦茶だコレ!」
「東町君?」
「ご、ごめん。ついつい衝動的に(早口)」
「あはは~」
「おすし! おすし!」
かのんちゃんが我先にとサーモンを取った。
女の子はそれ好きなイメージだね。
「わーこれ崩れてる! いっちが握ったやつだ!」
「……」
「かのんちゃんより下手だ〜」
「うん、そうだね(五歳児に負ける男)」
魚に脂がのっていて、滑って上手く載せられなかったのだ。
よく回転寿司でシャリから転落してるネタを見るけど、その気持ちがよく分かる。
結局整えられたシャリ(単体)を崩して無理やりのせてこうなったわけで。
「変なとこで不器用だよね、いっち」
「カレーなら負けないんだけどね(ジャンル違い)」
「邦画とハリウッドぐらい違うと思うなぁ」
「うん、そうだね(完璧な例え過ぎて何も言えない)」
「ふふっ。その割には彼のばかり取ってるし」
「もも、へんなの」
「そ、そうかな〜」
「かのんもとる!!」
「わ〜!」
形の悪い俺のやつばかり消えていくから、机には綺麗なものばかり残る。
ああ……芸術点、高かったかな(ドヤ顔)。
如月さんの天国を味わえる味噌汁(褒め言葉)を味わいながら、テーブルを眺めた。
「サーモン率高いなぁ」
「マグロって意外と人気ないわよね」
「ぶり(゚∀゚)はまち!」
楽しそうな3人。
彼女達の本当の気持ちなんて、俺には分からない。
それでも——こんな顔をしてくれるのなら、きっと近くに居て良いんだろうか。
「うわぁいっちのやつ無くなっちゃった……」
「キュウリ巻きも食べなさいよ」
「やー!」
「野菜も食べなきゃ駄目だぞう〜」
「桃もホタテばっかり食べてるじゃない!」
お寿司を食べる事も忘れて、俺はただただ目の前を見て。
笑う彼女達を、今はただ視界に入れた。
あと俺の狙っていたカレイは、かのんちゃんによって食された(悲しくなんてない)。
☆
「美味しかったね〜」
「ねー!」
「お腹いっぱい〜」
「お
「あ、俺洗っとくね……(忍び歩き)」
前回もそうしたように、シンクに積まれた皿に向かっていった。
なんか落ち着かないし、これぐらいしか自分にはできなかったし。
「てれび!」
「あ〜かのんちゃんアニメ見るの〜?」
背後、聞こえる声に癒やされながらね(変態)。
スポンジを手に。洗剤をつけて泡立てていたら如月さんが寄ってきた。
「ちょっと、悪いわよ。前もやってもらったのに」
「心配掛けたお詫びということで……ご飯も食べさせてもらったし」
「酢飯は買ってもらったのに?」
「魚は買ってないからね」
「もう」
頬を膨らます如月さん。
破壊力が凄まじい。多分50mぐらい吹っ飛びそう。家壊れるからやりませんがね。
「喧嘩してる〜」
「
「ちょっ、そういうのじゃないわよ」
「ほらほら、わたし食器拭くから。あやのんはかのんちゃんの所行ってあげて〜」
「良いのかしら」
「うんうん〜わたしもお邪魔してるし」
「じゃあ……」
と思ったら初音さんも来た。
如月さんは、そう言って居間のテレビがある部屋へ。
姉妹の時間は尊いですからね(激キモ)。
「俺一人でも良いよ?」
「手伝いまーす!」
「そ、そうですか(陽オーラにより萎縮)」
タオルを広げ、彼女は笑う。
俺はそれに、洗った皿を渡していった。
――「あやの、いすになって!」「なんてこと言うの」――
――「いちにーはしてくれるのに」「なんてことしてるの」――
遠い如月姉妹の声。
テレビに紛れて聞こえない、なんてことは無い。
「……」
「そんなことしてたんだ」
冷汗が凄いよね。
別に悪い事はしてないんだけど(本当に)。
「……先週、かのんちゃんにお願いされて色々踊ってたんだけど。その中で空気椅子の体勢を保つ、みたいなのがあってね」
「ふーん?」
「それを見たかのんちゃんが、膝の上に乗ってきて……みたいな……」
「あはは~。想像できるね」
「崩れ落ちると思ったよ。何とか耐えたけど」
まあ、耐えたせいでそのまま人間椅子になったんだけど(地獄)。
かのんちゃんが楽しそうにしてたからね。崩壊するわけにはいかなかった。
東町一椅子(プライスレス)、品質と耐久性の高さが自慢だ。
「いっちはすごいね」
「あ、ありがとう(動揺)」
「でも、頑張り過ぎはだめだよ」
「え」
「いっちって、自分のこと結構蔑ろにするから」
「そ、そうかな……」
「うん!」
そんな自信ありげに頷かれると、多分そうなんだと思うね。
実感ないけど。
「小さい子供みたいに、気付いたら危ないところ行っちゃってる……みたいな」
「な、なるほど(見た目は大人心は子供)」
「こういう時、あんまり言い返さないし~」
「(答えは沈黙)」
「ジュース買ってこい! とか言われたら直ぐに買ってきそう……」
「それはそうだね(パシリ検定3級)」
当然。
言い返して……嫌われたら、嫌だからだ。
「そんな事できらいになったりしないから」
「(絶句)」
「そんなの……友達じゃないよ」
「か、かな」
「うん。はい——お疲れさま」
最後の皿を渡せば、初音さんはまた笑った。
大事な友達だからこそ――俺は、もう少し踏み出した方が良いのだろう。
嫌われたくない。
その思いのせいで、俺は先週……彼女達とすれ違っていた、と思う。
話したいのなら、もっと近付いて。
受け身じゃなくて、こっちから。
間違っている事は、間違っていると答えるんだ。
拒絶されたら怖いのは仕方がない。
嫌われていたら最悪なのは仕方がない。
でもそれも、確かめなければ分からない事。
そう。例えば——
「初音さん」
「へ? な、なに?」
シンクを洗い流し、手を拭いて向き直る。
その回答をしっかり彼女に伝える為に。
「あの噂について、話したいんだ」
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