電話
《――「あ、あれ? 東町がいる……」――》
《――「苺寝ぼけすぎ!」――》
《――「つーかここ何処だ……? なんで寝間着じゃねーんだ……?」――》
《――「だーめだこりゃ☆」――》
アレから、彼女達はすぐに保健室から出ていった。
夢咲さんは寝起きだからか、かなり目がとろんとしてたけど。
《——「じゃ、リオ達お仕事いってくるね☆」——》
《——「安静にしろよ東町……あと今日のスゲー良かった、から」》
《——「もーいくよ苺!」——》
そんな感じに慌ただしく。
変わらない彼女達に、また安心した。
《——「今日のダンス凄かったらしいじゃない、体育の先生驚いてたわよ」——》
《——「ど、どうも……」——》
職員室で先生に報告して、土日はゆっくり休む様言われて。
校舎を出て——最寄り駅へ歩いていく。
「……」
慣れたこの通学路も、なぜだか今は愛おしい。
昨日はあんなにも嫌だったのに、人間ってのは不思議なもんだ。
——ピコン!
と思っていたら、携帯の通知音。
誰かななんて思ったら、そこには――
□
詩織『大丈夫ですか?』
詩織『大丈夫ですか……?』
詩織『大丈夫でしょうか』
東町一『ごめんごめん! さっき起きた! 大丈夫!』
□
……初めてだ、『ごめん起きた』メッセージを友達に送るのは。
これが陽キャか(違う)。
よく考えたら友達にLIME送ることも全然無かったわ(大ダメージ)。
ただなんというか……嬉しいな。
こう皆が心配してくれるのは。
本当に、昨日までの俺を殴ってやりたい。
□
詩織『い いま少し 良いですか』
東町一『うん』
□
って思ってたら、そんなメッセージ。
そして。
——プルルル!
「えっ、ちょ……」
不意打ち。まさかの通話だった。
前、椛さん電話はムリみたいな感じだったから余計に焦る。
「も、もしもし(陰キャ)」
「あっ、えっと、とっ——とまとくん!!」
「私の名前は東町一(冷静)」
「ああごめんなさいごめんなさ——」
——プツン!
「えぇ……」
横で焦ってる人が居ると、逆に冷静になるというのは本当みたいだ。
つまり陰キャと陰キャが並べば交互作用でお互い冷静になれるのでは……?
急いで陰キャ連盟に論文を提出しないと(しない)。
——プルルル!
「もしもし、椛さん?」
「ごめんなさい……名前、間違えちゃって、焦っちゃって」
「いやいや大丈夫だよ。どうかした?」
隣の魔王様はわざと改変してくるからね。
……まあともかく一度リセット出来たのか、ちょっと落ち着いたみたいだ。
電話越しに聞こえる彼女の声は、ほんの少しいつもより高く聞こえる。
「だ、ダンス凄く格好良かったです!」
「! あ、ありがとう」
「やっぱり東町君は凄いです!」
「どうも……(照れ)」
通話口から飛び出るその声。
いやぁ電話越しで助かったね。照れすぎて干乾びそう。
「僕なんてズレちゃって……お恥ずかしい所を……」
「椛さんも、カッコ良かったよ」
「へ?」
「俺だったら——あんな風に、軌道修正出来なかったかも」
「そ、そんな事ないです……」
謙遜から更に声が小さくなる彼女。
椛さんは、気付いているのだろうか。
アレがどれだけ凄い事なのか。
ズレを気付いた中、彼女自身の力で立ち直したんだ。
周りに助けられて何とかなった自分より、よっぽど凄い。
そして――きっとそれは、昔の彼女じゃ出来なかった事だろうから。
「凄いよ椛さんは。アレを見たから俺も頑張らなきゃって思ったんだ」
「! そんな」
照れ隠しに、通りすがりの花を眺めた。
珍しい緑色の
「だから、その。ありがとう」
「――ぼっ、僕もです! あ、そのっ」
「どうしたの?」
「あの、良ければなんですけど。東町君のこと、下の名前で呼んでも良いですか!」
「え」
「立夏さんとは下の名前で呼び合ってて。東町君も……そう呼びたくて」
「もちろん。嬉しいよ」
思わぬ提案だった。
まさか、椛さ――いや、詩織さんからそう言ってくれるなんて。
「じゃ……よ、よろしくです、
「よろしくね、詩織さん」
「くくっ……そ、それじゃぁバイト、戻ります」
「うん。頑張ってね」
「はい! 一君!」
プツン、と通話が終わる。
「『
それがずっと頭の中で反響して……気を抜いたら、きっと顔がにやけてしまう。
電車に乗るまでに直さないと。
不審者になってしまうからだ(今更)。
「……ん?」
そして。
俺はもう一人から届いたメッセージを見る。
「そうこなくっちゃな」
どうやら、今夜はアレをするしか無いらしい。
▲作者あとがき
もうちょっとだけ続きます。
今夜もう一話投稿すると思います。
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