答えあわせ
「知らない天井だ……」
まさか、この台詞を放つ時が来るとは。
いや本当に知らない天井なんだけど。
え? (マジ焦り)。
ここどこ……?
というか、俺なんでココいるんだっけ?
腕時計を見れば16時。
「あ」
思い出した。
あのダンスの後、頭がパンク&息が出来なくてふらっとなって。
えっと。
確か、その後……先生に連れられて保健室に来た。一応ということで横になった。
朝3時からずっと起きてたからね。あっという間に天国ですよ(死)。
死ななくてよかった……!
「……夢だったのかな」
寝転んだまま背筋を伸ばせば——ギシっと、ベッドが軋む音。
あの歓声は。
本当に、俺の踊りで生まれたモノなのだろうか。
「夢じゃない、か」
そうだ。アレは現実だ。
あんな光景、忘れられるわけがない。
脳に焼き付いて離れない。
住民の手助けもあって……逃げずにココまで来れた。
そして踊りきった。最後まで。
……だから。
今なら、彼女達に向き直れる気がする——
「……ん?」
違和感。
それは、俺の伸ばした足。
「えっ」
ベッドの隅。
そこには——
「ぐが……」
「とー……とまと……」
金髪と茶髪の二人が居た。
椅子を二つ並べて、上半身だけベッドに倒れ伏す形で。
ぐっすり寝たまま。
「……ありがとう」
その光景だけで、じんわりと胸の中が暖かくなった。
住民が言っていた通りだった。
本当に、俺は馬鹿だった。
周りばかり気にして、本人と直接話す事を避けていた。
友達が友達じゃなくなっていたら、きっと今の光景は無い。
《——「オイ、来ねぇのか」——》
《——「とーまち絶対アレだけじゃ足りないでしょ☆」——》
あの、先週火曜日の昼休み。
その答えは、既に出ていたはずなのに。
「……はぁ」
息を吐く。
現実を噛み締めれば、抑えきれず視界が歪んだ。
勉強も、ダンスも。頑張ってきた事が間違ってないと分かって、安心してしまった。
……この瞬間、初めて。
俺はほんの少し——それでも確実に。
「変われた……のかな」
二人を起こさないよう、そっと呟く——
「いっち!!」
「あ」
と、思ったら。
シャっと、静かにカーテンが開かれる音。
初音さんがそこに居た。
部活途中なのだろう、体操服のままで。
彼女には、情けない所ばっかり見られちゃってるよな俺。
もう言い訳はできない。
今ぐらいは意固地を見せずに。
というか、抑えるのはもう無理だ。
「会いたかった」
涙は拭かないまま。
近付いてくる彼女に、自然と口から漏れていた。
「んっ——」
「!?」
と思ったら、視界が真っ暗になった。
彼女に抱き寄せられたと気付いたのは、一瞬の後で。
甘い匂いと、柔らかい感覚に包まれて。
「……ごめんね。わたし、気付けなくて」
「っ」
『それは言わなかった俺が悪い』——言おうとするけれど、この状況。
「っ、あは、くすぐったい」
そう笑う初音さんは、未だ俺を包む。
涙で服が濡れる事なんて、全く気にしていないようだった。
恥ずかしいけれど、落ち着いて。
不思議な感覚。
ずっと一人だったからだろうか。
もっと、もっと求めたくなる。
良いのかな。
でも、彼女からしてきた事だから。
《――「“なんでも”。いいよ」――》
俺には――アレがあるから。
もう止められない。
あんなこと言った、彼女が悪い。
「い……いっち?」
手持ち無沙汰だった両腕を、ゆっくりと前に回す。
手は初音さんの背中、体操服に触れて。
「へ? ぁ——うぅ」
彼女を抱き寄せた。
そのまま、数秒。
凍えていた何かは、完全に溶けきった。
「……っ」
力を緩めれば、簡単に彼女の身体は離れていく。
名残惜しいけれど——仕方ない。
「!」
「だ、だめっ」
そして、視界が開かれると思いきや——また真っ暗になった。
暖かい彼女の手が、俺の視界を抑えていて。
「わたし、部活戻るから……っ」
「うん。ありがとう」
「また連絡するから!」
それが外れた時、初音さんは背を向けていた。
俺が返すといそいそと帰っていく。
いったい彼女は、どんな表情をしていたのだろう。
そして俺も、どんな表情をしているのだろう。
……まあ今は考えないでおこう。
そう、今は——
「……みーちゃった☆ みーちゃった☆」
いつものように、悪戯に笑う柊さんがこちらを見ていたからだ(破滅)。
「じゃ、俺は先生に報告でも——」
「——リオが逃がすと思う?」
「(絶望)」
この感じも久しぶりだ。
頭の中でどんな言い訳をするのか考える一方で、どこかこの状況が愛おしい自分が居る。
決してドMではない。
そう、だよな俺? ね??
「心配して損しちゃった☆」
「はは、まさか二人が居てくれてるなんて思わなかったよ」
「とーまちと、早く話したかったからね」
「え」
「寝顔見てたら、ついつい苺と寝落ちしたけど☆」
「そ、そっか」
どうして、さらっとそんな事を言うんだろうか。
……さっき、泣いていて良かったかもしれない。
彼女に泣き顔なんて見られたら、それはもうとんでもない事になりそうで。
「?」
「いやなんでもないっす(早口)」
「教えろ☆」
「ヒェッ……」
「ぐぉ……(快眠中)」
未だに夢咲さんは寝てます。
寝る子は育つ!! (ヤケクソ)。
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