空き教室にて


「君が、とーまちの噂を広めたんだね」

「……だ、だから。そんな一気に広がるとは思わなくて」


「……」

「だってほら、事実じゃんか。アイツがクラブに入ってくのを見たわけで」

「彼が“そういうこと”してたの見たの?」

「それは……でも、実際そうだろ!? あんなとこ行く奴らなんて」


「リオもよく行くんだけど」

「え」

「君、リオの事も“そういう認識”で見てるってこと?」



星丘高校、昼休みの空き教室。

二人の少女に連れられた少年の顔は、次第に青めていった。


最初は美女二人からの誘いで期待に溢れていたが、今は真逆。

星丘高校、暗い空き教室。



「それは……その……」

「なあ言ってみなよ。リオの事、男遊びしてるビッチだって」

「ひ、柊さんは違——」

「なんだそれ」

「ひっ!?」



柊の、教室では決して出ない低い声に。

情けない音を出す彼は——既に自分の行動を悔いていた。



「おい莉緒。そろそろ良いだろ」

「……はぁ。んじゃ君、二度ととーまちの事で変な噂流さないでね」

「は、い……」

「噂も撤回する様に。じゃ行こ、苺」

「ああ」



次なる二人の目的地は、職員室。

その足取りは重い。





「アレから連絡は来てないわね。きっと寝てるわよ」


「……そうですけど」

「……」



職員室、彼女達の担任の声を聞く二人。



「ふふっ、この質問3回目なのよね。そんなに心配だったかしら」


「え」

「椛さんと、如月さんと初音さんからも聞かれたわ。ほんの軽い“頭痛”だけらしいから、そんなに心配しなくていいわよ」


「……そうですかね」

「……ありがとうございました」


「? ええ」


ほんの少し歯噛みをして、二人は職員室から出る。

莉緒はため息を吐いた。


担任との食い違いを感じたから。

その“頭痛”の理由が問題なのだ。



《——「俺に、話しかけないで」——》



彼女の耳から離れないのだ。

その、低い彼の声が。


——バタン。

職員室から出て、二人は歩く。



「アタシが東町と距離を置くなんて言わなければ、こうはならなかったよな」

「そうだね」

「……スマン」

「謝る相手が違うし、リオも甘く見過ぎてた。リオも悪い」



(水曜の時点で、彼に気付くべきだった)



思えばヒントは散らばっていたのだ。

何度も兆候はあった。

まさかここまで追い込まれているとは、予想出来なかった――その後悔は何度目か。



――ガララララ。


2-A教室。


彼女達がそこに戻った時、ほぼ男子全員は不機嫌そうな柊を見て怖気づいていた。

“次は自分じゃないか”、なんて。



「……はぁ」



(つまんない男ばっか)



また彼女はため息を吐いて――瞬間。


ピコン、と着信音。



「えっ」

「莉緒も来たか?」




リオ☆『とーまちー大丈夫?』


東町一『ありがとう 大丈夫だよ』




彼女がスマホを見れば、着いた返信。

彼からのそれ。

朝から、全く音沙汰なしだったが……。



「ど、どうしよ……なんて打つ?」

「普通に聞きゃ良いんじゃねーか」

「いやいや! 地雷踏んだらヤバいじゃん!」

「そうか?」

「そうだよ!」

「……ま、待ってるぞ……とかか?」

「それ逆に来づらくなるやつ!」

「どうしろってんだ……」

「わかんない!!」



キーンコーンカーン――



「って予鈴なった――ってもうアレだよね!?」

「ダンスの発表だな」

「わーもーまともに踊れないよ!」



慌ただしく、彼女達は鞄を手に更衣室まで走っていく。



(返信来たって事は、嫌われてないよね?)



その疑問は、未だに晴れる事は無いが。

彼女達の表情は――着信前より、ずいぶんと明るくなっていた。








▲作者あとがき


お察しの方もいるかもしれませんが

イッチが峠を越えたので、更新スピードはゆっくりになってます。

毎日更新は変わりませんが。一気に6話はやり過ぎた。


でも今日はもう一話投稿します!



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