踊る男



「……疲れた」

「おつかれちゃん☆」



騒々そうぞうしいゲームセンターの一角。

そこでは、二人の少女が話していた。



「初オーディション終了祝いだね☆」

「アタシこれ苦手なんだよ……」


「良いじゃーん! 青春青春!」

「ッたく」



プリクラを撮って、機械の外に出る。

柊莉緒と夢咲苺……並ぶ彼女達は、街行く男の視線を集めさせる。


しかし一人は慣れない初仕事の後。そんな視線に構っている余裕もない。



「というか、これからバンバン撮られるんだから慣れとかないと!」

「それもそうか……って仕事とプライベートは違うんだって」

「へー、随分“言う”ね☆ まだオーディション一回も受かってないのに☆」


「お前なァ……手加減しろ、こっちは疲れてんだ」

「えー☆」

「というか莉緒は、仕事2件やった後でなんでそんな元気なんだよ……」

「趣味だからね☆」

「……そうだったな」

「うん」



諦めた様に笑う夢咲。

元気に話す柊……いつも通りの二人の光景。


そんな中――聞き覚えのある音楽が、一人の耳の中に入り込む。



「……あ?」

「どうかしたー?」


「ッ、いや――ちょっとアタシの知ってる曲が」

「へ? まあ音ゲーじゃないかな、あっちにあるし。というかよく聞き分けたね……戦闘民族は耳も良いのか!!」


「最後のは無視してやる……でも、音楽ゲームか」

「えっ興味ある? リオ結構網羅もーらしてるよ☆」

「知ってる曲があるならやってみたい」

「おー☆ チキン苺にしては珍しく乗り気だねー」

「うっせぇ! 行くぞ」

「ふはは」



夢咲は、その音の鳴る方へ。

どんどんと近付いていく音楽が、自然と彼女の鼓動を高鳴らせる。

多種多様な音が流れるこの場所――その曲を聞き分けたのは、それが“彼”に渡したCDのモノだったからだ。



「あっ」



そして、その音の元から十数メートルのところ。


彼女達は――踊る男の影を見つけた。

光る床の上、音に合わせてステップを踏む……ダンスゲームを遊ぶ彼の姿を。



「ん、もしかしてあのゲーム? アレ難しいからおすすめしないよー☆」

「……」


「?」

「東町……」

「え」



ニット帽を深く被り、ラフなジャージに身を包んだその男。


見た目ではハッキリ区別出来ない。

でも――その踊る姿で、夢咲は確信が持てたのだ。



「よく見たら確かに東町だ☆ ガチ勢ほどじゃないけど結構うまーい!」

「ああ……だよな」

「ダンスゲーの踊り方じゃないね☆ リオはあっちのが好きだなぁ」

「アイツ、ダンススゲー上手いからな」

「意外ー☆」



ステップを踏む彼に、二人は近付く事無く遠くから眺める。

なんとなくそれを邪魔したくなかったから――彼女達は、自覚こそ無いが見惚れていたのだ。


普段はいじられる事ばかりの一しか見ていなかった、柊は特に。



(ギャップってやつかな?)



「ほんと面白いね、とーまちは☆」

「ああ。男のダチが居ないのが不思議なもんだ」

「まっ、“あの”お姫様と仲良い時点で、ね?」


「……それもあるが。アタシ達のせいでもあるぜ、多分」

「え」

「ずっと授業の休みとか話してんだろ? 入る隙ねーって」

「あー、そうかな? 関係ないと思うけど☆」

「あるかもだろ、アタシ達のせいでダチが居ねーなら……アイツに悪い」

「……うーん?」



(関係ないと思う……けど、苺がそう思うなら良いか)



「ま、そこまで言うなら! 今週はちょっと遠くから観察しよ☆ あの不審者っぷりを堪能させて頂こう!」

「趣味悪ぃな、ほんとお前……」

「えー。苺が提案したことじゃん」

「……確かにそうか」




(まー絶対あっちから話しかけてくるか、如月さんの方に行くでしょ☆ 男友達はゼロなの確定だし!)



苺の疑問を晴らすのもあるが。



(寂しがるとーまちも、ちょっと見てみたいし)



困りながらも嬉し気な彼の表情が、どういう風に変わるのか。

Sっ気の強い彼女は、心の中でそう思う。



「来週はダンスのお披露目もあるし、楽しみだねー☆」

「アタシ達も考えねーとな……」

「だねー。とーまちの踊り楽しみだなぁ――あっダンス終わったみたい! 気付かれる前に逃げるゾイ!」

「おいちょっと待て――」



踊る彼。

そんな彼女達の会話は、知るよしもなく。






「……ほんとにこんなやって良いのか……?」



気付けば五回目。

一回終わる度に、周囲をぐるっと回って誰か待機していないか確認してたんだけど(陰キャ)。

三回目ぐらいから、わざと一分ぐらい外に出たりしたりね。


挙動不審。傍から見れば不審者である。いや元から不審者だったね(笑い泣き)。



「……もっかいやるか」



《START!》



誰も来ないのなら、誰も俺も止められない(??)。

ちょっと憂鬱な気分だったけど、踊ってたら元気出てきた。


コツも掴んできたし。しかも例のCDの曲も収録されてた……結構有名な曲だったんだなコレ。

知ってる曲あるとテンション上がる。

もっと言えば――これはかなりセコいかもだけど――体育の創作ダンスのヒントが詰まっているのだ。


《CLEAR!》


足のステップだけとはいえ、かなり参考になる。

いやぁ良いもの見つけちゃったね。

帰ったら、速攻で改良振り付けを考えなくては。



《シーユーネクストタイム!》



ありがとう、また来るよ。あと一分後ぐらいに(ストーカー)。

さっきの音ゲーが悲しそうに見ている気が……しないね。


人の趣向は変わるものなのだ。

そう、ふっとした瞬間に。


もしかしたら。この人間関係すらも――




「――あれ?」




ふと。

ゲームが終わったその時、感じた視線。

思わず振り返る――金髪と茶髪の少女の背中。



「気のせい、だよな」



偶然だ。きっと――そうに決まってる。

まさか、見られてないよな?


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