趣向
土曜、朝6時、最寄り駅から三駅程離れた駅前。
動きやすいジャージ姿で俺はそこに立っていた。
ここも思えば結構久しぶり。
アレだ。一年生の春休みからだから……三か月以上か。
身体動くか心配だ。
「君、東町一さん?」
「あ……はい」
「はい、んじゃバス乗って下さいね――はい君、〇×さん?」
人の少ないこの時間帯、俺以外に待機している人達に声を掛けていくスタッフさん。
バスの中に入れば、知っている人も居た。
声を掛ける事も掛けられる事もない。
お互い赤の他人、話すなんて事はない。気まずさも無く……案外居心地の良いもんだ。
「それじゃ出発しますー」
「「「……」」」
この独特の雰囲気も懐かしいな。
一日限定、食料品の調理・検品の工場バイト。
作業8時間、休憩45分で日給9000円……今日は頑張って働きます。
☆
「……」
全身白ずくめ人間(作業服)に変身後、全身をエアーシャワーに晒す。
そこからはひたすらに作業。
「君ちょっとこっち手伝ってもらえる?」
「あっはい」
目の前の、パイナップルを。
ひたすらに、カットし続け一時間(陰キャ心の俳句)。
そして今度は出来上がった果物詰め合わせの検品。
多すぎ、少なすぎの製品は容赦なく不良品エリアへ。
異常は排除。基準をクリアしたもののみ無事出荷されるのだ。
心を鬼にしながら(そんなでもない)、はみ出し者達を不良品エリアへ仕分け。
「……」
言うまでもないが単調な作業だ。
食品工場だから基本会話とかもないし、やりがい? とかもないし、人にとっては苦痛だろう。
でも、俺は居心地が良い。話さなくて良いし。
陰キャの中でも特に陰に振り切ってますからね俺は(開き直り)。
……だがそれでも、単調かつ、ミスは許されない作業となると精神的に来る。
そういう時は――ひたすら効率化、効率化である。
俺は精密機械俺は精密機械(自己暗示)。
……と思ってたら、全く不良品が流れてこなくなった。
前工程の人が慣れてきたんだろうか。
ちょっと楽出来そうだ。あっ異常発見、パイナポッーの皮がめっちゃ残っている。
油断はいけない。
「……」
壁の時計を見れば、まだこの作業に従事して20分しか経っていなかった。
辛い!
昔の俺は、こういう時どうしてたっけ?
確か――好きだった如月さんの事考えてたっけな(激キモ)。
あの時は頭がピンクだったからね。
本当にどうかしていた。でも、彼女のおかげで……あまり辛くなかったかも。
隣席に如月さんが来たときは、毎日が希望に溢れていた。全くチャンスなんて無かったのに。
「……恋、か」
また流れてきた異常品を仕分けながら、そう呟く。
マスク越しに聞こえた自分の声はどこか冷めている。
“変わりたい”――そう願ったあの日、俺は同時に失恋した。
こんな自分が、誰かに好かれるわけもない。
その気持ちは今も変わらない。
髪を虹色に染めて、趣味を沢山見つけて。スレ民のおかげで、客観的に見れば俺は変われたらしいんだけれど。
やっぱり自信が持てない。ちょっとづつ持ててる様な気もするけど、まだまだ。
ふとした瞬間、全てが崩れ落ちてしまうんじゃないかと――そんな不安は、未だに付き纏っている。
「……」
異常品を排除しながら、考えてしまう。
同性の友達はゼロ。髪色は虹色。その他いろいろ。
普通じゃない俺から――“彼女達”が、ふっと離れて行くんじゃないかと。
「……ああ、もう」
そんなネガティブ思考が嫌になる。
ああそうだ、バイトが終わったらどこか行こう。
せっかくお金も手に入るし!
土日、両方とも用事ないし!! (クソデカ大声)。
☆
「終わった……」
朝7時から昼の15時。みっちり働いて、送迎のバスを降りれば16時前。
来た時と違って今は土曜の昼。
人が多い……ニット帽被っとこう。
なんというか、今は人目につきたくない。自意識過剰かもしれないけど。
「……どうしようか」
遊びに行こうなんて思ったけど、時間も時間だ。体力も二割切ってる(大体)。
クラブとか図書館とかはキツイ。
となれば? 派遣バイトの“久しぶり”繋がりでゲーセンにでも行こう。
☆
「……お、あった」
俺が初めて携帯を持ったのは、高校一年入学前、中学三年の時。
とにかく初スマホだ。興味本位で入るだけの無駄アプリを入れて、ストレージを食うだけ食っていたっけ。
タワーディフェンス系とかアクション系のソシャゲも入っていたわけだけども……今ではほぼ死滅した。
中学も友達居なかったからね(半泣)。SNSとかは親からあんまりやらない様言われてたし、やっていて虚しさが勝ってしまった。
課金せず、中途半端な所でやめて……そんな中で、最後まで残ったゲームが音ゲーである。
キャラを集めたりとかじゃないし。
勉強のリフレッシュに丁度良かったんだよな。
《GAME START!》
そして、ハマった音ゲーのメーカーが、ゲーセンにも同じような音ゲーを置いていて。
ちょくちょくバイト帰りに遊んでいたのだ。
高二になって、バイトをしなくなってからは自然としなくなって……そもそもゲーム自体しなくなったけど。
《SUPER GREAT!
!》
「……意外と覚えてるな」
とりあえずワンクレ100円、3曲やってみたけど……前よりちょっと落ちたぐらいだった。
《PERFECT!
!》
でも、なんというか。
昔みたいな熱が無くなってしまっている。
フルコンとか理論値最高とか取るために
……家で踊ってる方が楽しいかも。ゲームメーカーの方々ごめんなさい(土下座)。
《また遊んでね!》
行けたら行くよ(来ない確率90%)。
まあ誘われる事が無いから、そんな台詞言うこと無いんですけどね(号泣)。
ゲーセンの
「……!」
同じゲームとは思えない、横で凄い動き(褒め言葉)をしているガチ勢さんから逃げて。
トイレ行こう——そう思った時。
隅、壁際。
こことは真逆の、人気のなさ。
その、さっきとは全く違う音ゲーの筐体に——俺の目は自然と向けられていた。
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