ハリネズミ(5)



「はーい、それじゃ今日も各グループ振り付けを考えていきましょう」


「残り時間が5分になったら集まってね」


「進捗は“しっかり”確認しますので、遊んだりせず真面目に考えること!」



――「よっしゃー自由時間だ」「音源見せあおうぜ」「お前何持ってきたの?」――



準備運動の体操とランニングを終えて、持ってきた音源が入った学校支給のタブレットをグループに一つ配られて。

各々が散らばっていく。

タブレットは英語のリスニング、副教科の情報の授業で使ってたけど……体育で使うとは思わなかった。便利だね最新機器。



「……」



そして言うまでもないが、俺は一人。孤独である。

特に今の創作ダンスじゃ、思い思いにグループで練習するからね。

まあ逆に無理やり2人とか3人組まされるよりはマシかも。


あからさまに壁があって、気を使われるあの感じ。

やはり1人こそ至高なのではないだろうか。

と専門家は言うのではないだろうか。

悲しくなってきたではないか(陰キャ連盟論文より抜擢)。


そういうわけで、周囲が楽しく持ってきた音源を確認しあってる所で……俺は一人配布されたタブレットを眺める。

持ってきた曲は一つだけ。この前の三連休初日、夢咲さんから貰ったCDの曲だ。

アルバムじゃなくてシングルだから、迷う必要など無かった。



——「この曲良いな」「踊るの難しそー」「流石にこれは派手過ぎるって!」——



「……」



迷う必要など無かった(大事なことなのでry以下省略)。

ワイワイと楽しそうに悩む周囲のグループ達。だが、全員というわけではない。



——「……違うな」「どうっすかな……」「っ、とっ」——



ちらほらと一人で振り付けを考える者達。

明らかに、集中度合いが段違いだ……ダンス部だろう。多分部活で色々言われてるんだろうな。


でもこういう人たちが居るおかげで、真面目にやってても浮かないから良い。


さて、俺もちょっとやるか。

振り付け自体は結構知ってる。後はパズルをハメる様に組み立てていくだけだ。

それが難しいんですけども(素人並感)。


まあ終わったんですけど(ドヤ顔)。



「……やるかな」



立ち上がる。


こうして趣味のダンスを、学校でも出来るのは最高だ――そう考えよう。



「……」



ステップを踏む。

そんな風に、考えたけれど。

耳を防いでも――俺の第六感は敏感だ。


少しどころじゃない。

俺がちょっと踊り始めたら、じろじろと眺められるそれを感じる。


……やりにくい。そして恥ずかしい。

ダンス部でもないのに、本気でやっているのが変なのだろうか。

ああもう、考えない様にしよう。



―――「アイツ――……」「ど――け目立ちた……」「マ――過ぎ――……」――



そして、特に。

向こうから強くこちらを見つめる者からは、背を向けて踊った。


嫌な感覚が、浸される様で嫌だった。



キーンコーン——



昼休み。

午前は体育があったから、お腹が空いている。

だがそんなの関係ない。

俺はいつも通り売れ残りの菓子パンだ。

しかし今日は――



「うっま……(感動)」



時は1週間前、半額パン捜索隊(俺一人)がスーパー、おつとめ品コーナーに向かった時のこと。

半額のパンがコンテナに詰め込まれている中、最下層にそれはあった。


『グリーンカレーパン』。いやもう見た目最悪だろなんて思いながら、カレーを楽しむ者として手にせざるを得なかった。

ちなみにお値段200円。割り引いた後でコレである。400円の菓子パンはもう菓子パンじゃなくて本格パンなんですよね(?)。



「うっま……(5回目)」



ヤバい、こんな美味しいカレーパンがあったなんて。

趣味で売れ残り品収集初めて良かった。生きててよかった(言い過ぎ)。


今度見つけたら半額になる前に買おう。鮮度が大事だからね鮮度が。

ああ決めた。土日の内に買いにいこう。

いや1日寝かせたカレーが美味いという事実もある。もしかしたらコレは神的タイミングによって偶然生成された最高のカレーパンなんじゃ。

その仮説を確かめるためにも、やはり購入を。定価でも辞さない。


スーパー売れ残り捜索隊、明日も出動します——



「——なに食べてるの〜?」

「!?!?!? (ベンチから滑り落ちる)」



と思ったら後ろから掛かった声。思わず口の中のものを飲み込む。

最後の一口は————切ない(半泣)。


というか不意に頭上見たけど、校舎から何人かこちらを覗いていた。

確か七色に染めて登校した時も見られてたよな。もう1ヶ月経ったぞ慣れろよ(暴君)。

人気者は辛いね(虚無)。



「だ、大丈夫いっち!?」

「腰が……」


「まさかベンチからも滑り落ちるとは思わなかったわ」



ぼっち陰キャ精神の俺は、誰かから話しかけられるのに耐性が出来ていないんだ。

大変大変うれしいことに最近は結構話せる事が多いんだけど。

あと100年ぐらい経ったら耐性出来ると思う(死)。



「ごめんなさいね、お昼食べてるところに」

「良いよ(早口) でも普段は教室でご飯食べてるよね」


「いっちと話したいことがあってですね〜」

「?」


「かのんちゃん泣かしたんだって〜?」

「……」



……泣き真似だから! (最低)。





18時前。

学校が終わり、その家の前に。夕食はもう食べた。

意味もなく靴紐を結び直して――スマホを見る。



「……ふぅ」




東町一『家の前着きました』

彩乃『鍵開けたわよ』

東町一『了解です』




携帯の画面を五秒ほど見て、俺は足を前に進める。


玄関の前。石畳を抜けて――扉を開けた。

ガチャ、と重い音。



「……ど、どうも」

「ふふっ。身構え過ぎよ」



とりあえず会釈。

玄関、靴を脱いでスリッパを履く(持ってきた)。



「か……かのんちゃんは――」



出来るだけ足音を立てない様に。

そろそろと――



「――!?」



と、思ったら居た。

居間。でっかいブランケットに身を包んでいる彼女が。



「あ、あの膨らみが、だよね……?」

「ええ。貴方が家に来た瞬間被っちゃったの」



どうやら、初音さんの言う通り。

昼休み……その助言。



《――「かのんちゃん、いつもはあんなのだけど……」――》



そのブランケットから覗く目。



《――「たまにご機嫌ななめになると、ツンツンモードになっちゃうんだよ」――》



布からは、まるで針の様なオーラが見える。

近寄ったら刺すぞと言わんばかりの。



「…………ふしゅー……」


「は、ハリネズミ……?  (幻覚)」



その威嚇(?)に俺は成す術なし。

いやほんとどうすればいいのこれ……。



「ふふっ。もう……それじゃ、ごはん作ってくるわね」

「ええ……」



よくある風景と言わんばかりにそのまま歩いていく如月さん。

詰んだ(絶望)。



「ごろごろごろ!!」


「うおおお……」



と思ったら近付いてきたハリネズミさん(5)。

逃げるわけにもいかず、相対する。



「ふしゅー……ふしゅー……」


「あっ」



顔だけブランケットから出したと思ったら威嚇されて引っ込んだ。

どうすんだよこれ。とりあえず土下座か……?


いや――このために俺は色々用意してきたわけで。



「お、折り紙しようか」


「……」


「お絵描きする?」


「……ぅ」


「〇×キュアごっこでも――」


「……」

「あっ」



大量に鞄から取り出す度、化けの皮(ブランケット)から顔が出てきたけれど。

もう少しというところでまた引っ込んだ。



「……ん!」

「えっ」



と思ったら、その布は剥がれて――手にある教材。

未だにツンツンしてるけど、ようやく普通に話せそうで。



「べんきょう、おわらせてから!」

「承知いたしました(土下座)」



最近の幼稚園児は、こんな年から勉強するんですね(敬服)。

見習わないと……。


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