エスプレッソ


「モミジサンダ……(感涙)」

「だ、大丈夫ですか……!?」



電車に乗って、1駅2駅。

歩いて少し。その本屋の前で待っていたら——彼女が来た。


見慣れた制服に見を包み、静かに歩いて……俺を見つけたらトテトテ歩いてくる。

失礼かもしれないけどとっても癒やされますね(変態)。


特に、この本の香りとか凄いよね(現行犯)。



「椛さん、良い香りするね(最低最悪)」

「へっ!?」



あっ精神的な疲れで言葉が漏れた。

終わった……誰か俺を捕まえてくれ……。



「ごめんなさい(土下座)」

「くくっ、大丈夫ですよ。本の香りって良いですよね」


「(浄化)」

「と、東町君!」



会話していてどんどん綺麗になっていく。

さっきまでのクラブの空気は残っていない——



「と、東町君、何か大人な香りしませんか……?」



あっ残ってたみたいだ(前言撤回)。

そりゃまあ抱き締められたからね。軽くとはいえ。


……思い出すのはやめよう。

あの、ブラックホールの事は……。


光が、俺が、全てが吸い込まれて――――



「ぁ(精神崩壊)」

「と、東町君!?」

「大丈夫だよ(転生)」


「よ、よかったです。あっほんとごめんなさい、遅くなってしまって」

「いやいや。俺も用事があったから気にしなくて良いよ」

「ありがとうございます……」



正直全く気にしていない。

元はと言えばLIMEに気付かなかった自分が悪いし。



「このまま歩きながら話す?」

「あっ。じゃ、じゃ——ここでお茶いただきませんか」


「え」

 

そして。

椛さんがトテトテ早歩き、そして辿り着いたはお洒落そうな喫茶店。


……星がいっぱい見える看板。

星。星。黒い星——あ(30分前の記憶再生)。



「(東町一.exeは動作を停止しました)」

「と、東町君?」


「あ、ああ……行こうか」

「はい!」


目の前、覗き込む椛さんの顔。かわいい。

俺は正気を取り戻した。


……いやちょっと待て。自然に店に入ったけど——





「ご注文はどうなされますか?」

「あっ、えっ、と……(混乱)」


「(ニコニコ顔で俺を見つめる)」

「えっ、エスプレッソのショートで……」

「かしこまりました、お会計590円になります」



思えばこういうお洒落な店入るの初めてで。


ショート、トール、グランデにベンティ。

カフェ独特のサイズ表に混乱しながら、なんとか注文に成功。


前知識はあったからね。

Lサイズください!(大声)

ファ○チキください!! (?) 


……なんて醜態を晒すことはなく済んだね。

趣味のバリスタについて勉強してたら、自然と身についていて助かったよ。

まあこのメニュー表にしっかりサイズは書いてあるんだけど。



「これで……」

「丁度頂きます。カウンターの方でお待ちくださいませ」

「はい(雑魚)」



あー緊張した。

椛さんからこんな場所に誘われるなんて思わなかった。


まあでも彼女は読書好きだし、こういう喫茶店がよく似合うはずだよな——



「――こ、これのMサイズで……っ」



もっ、Mもみじさーん!!





「は、恥ずかしいです。サイズ表見てませんでした……」

「初見殺しだね」


手にしたエスプレッソ(590円)を手にテーブル席に付く。

つーか高いな。家ならコーヒー10杯は行けるぞ(厄介客一号)。


ただ問題は味だ。

さて——俺のバリスタ魂と勝負と行こう……!



「おいしいですか?」

「うん。ココのエスプレッソすっごく美味しいよ(完全敗北)」



同じ土台に居ると思っていた自分が恥ずかしい。

俺のバリスタ道はまだまだ続く。



「……こういうの、楽しいです」

「そうだね(浄化)」



敗北感は消え去った。

美味しそうに抹茶ラテを飲む彼女は、さながらドングリ頬張るハムスターか(失礼)。



「それで……なんですけど」

「うん」



コップを置いて、彼女はうつむきながら話し出す。



「その、創作ダンスの授業が今日ありましたよね」

「あったね」


「そこで、僕、隣のクラスの方から誘われて……一緒に踊ることになったんです」

「おー」


「それで、その組んだ方と本の話で盛り上がって……」

「おお……」


「友達に、なりませんかって……」



絞り出す様に話す椛さん。

きっと嬉しいはずなのに、どこかそれは怖がっている様に見えた。



「怖いんです……うまく行き過ぎというか」

「えーと。他にも何かあったの?」


「あの、バイトで褒められたりもしました……」

「なるほど」


「変ですよね。でも、どうしても不安で——」

「気のせいだよ、椛さん」

「!」

「大丈夫、ただの思い込みだから安心して。人ってそういう時不安になりがちだからね」



声を大にしてそう言った。

先週の自分も、全く同じ感情を持っていたから。


スレ住民で教えてくれた通り。

きっと、そう言うべきだと思ったから。



「そう……ですね!」

「うむ(何様)」


「お休みに遊んだりしても大丈夫、ですよね」

「もちろん。というか誘われたの?」


「はい、一緒に服見に行こう、みたいな、です」

「おお……」

「僕、私服あんまり持ってなくて。その話の流れで……」



なんか凄い進展してるな。

でも、思えば当然かもしれない。


こんな愛くるしい見た目だし。女の子から好かれるのは凄く分かる。

言葉遣いも丁寧だしな。

発声練習? のおかげか——随分と話せるようになってるし。



「そっか。良いね」

「が、頑張ります」

「はは」



良い方向へどんどんと変わっていく彼女。

最初の、俺と文通をしていた頃とは最早別人。


きっと同性の友達が、これから増えることだろう。

憧れなんて言ってくれるけれど――きっと俺なんかすぐに超えていく。


……本当に。本当に、自分勝手だけれど。

離れてく彼女にほんの少しだけ——寂しくなった。

素直に心から喜べていない自分が嫌になる。



「ありがとうございます。凄く楽になりました」

「いえいえ。解決してよかったね」

「今の僕がいるのは、絶対に東町君のおかげで。本当にありがとうございます」


「……言い過ぎだよ」



エスプレッソ。

いつもより濃いそのコーヒー。

己の感情をかき消す様、俺は喉をうるおした。



「そんなことないです! あっ、そういえば東町君はさっきまで何してらしたんですか?」

「あー。秘密で……」


「そう言われると……気になります!」

「ははは、俺のことなんかよりその友達のこと教えてよ」


「あっ、えっと……た、立花立夏たちばなりっかさん。彼女の趣味は本を読む事だったけれど、周りは小説になんて興味がない。そんな時、隣の教室の真ん中。一日中本を読む少女を彼女は見つけ……」


「(なんか始まったぞ)」



少し遅い夕方。

楽しげに話す彼女に、俺は笑って耳を傾ける。

貴重な友達との時間を、舌の苦みに溶け込ませる様に――









300:名前:恋する名無しさん

と、いうわけで深夜一時


イッチすやすやタイム


301:名前:恋する名無しさん

待ってたよ


302:名前:恋する名無しさん

ますますあの説が濃厚になったな


303:名前:恋する名無しさん

今日、ダンスは一人って言ってたし……もうそういう事だよね


304:名前:恋する名無しさん

同性の友達が居るのなら絶対グループ組むもんな


305:名前:恋する名無しさん

聞いてる限りスゲー仲良いし……それでグループ組まないって事はもう


306:名前:恋する名無しさん

まだ100%じゃない

別クラスの可能性だってある はず


307:名前:恋する名無しさん

そうだけどさ……


308:名前:恋する名無しさん

なんか凄い羨ましいようで羨ましくない不思議な感じw


309:名前:恋する名無しさん

友達全員異性って、周囲の目が凄そう


310:名前:恋する名無しさん

うーん


311:名前:恋する名無しさん

1、大丈夫かな……


312:名前:恋する名無しさん

まあまだ確定じゃないから(震え声)

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