当然の事実


水曜、第二限。ひっさしぶりの体育である。

俺は無言で、冷たい床に座っていた。

総勢40名ちょっとの男子の中。



「…………」



まず事実として。

俺は、クラスで浮いている(絶望)。

さらに言えば、ここに集まるAクラス以外のB、Cクラスの男子からも浮いている。


……この髪色だし。

もともとずっとぼっちだったし。

というか、虹色になる前はひたすらに気配を殺していたから気が付かれもしなかっただろうけど。

虹色になった事で『何だコイツ近寄らんとこ……』みたいになってると思います(被害妄想)。


当然、あの五人以外と話す事はない。

それは『男子』と話す事がないということ。



「――ということで、今日から本格的に創作ダンスの振り付けを考えてもらいます」



そして、この体育は……基本男子は男子、女子は女子で別で行う。

その代わり三クラス合同。

サッカーなり器械体操なり。


つまり孤立する。

……まあ、基本的に強制で二人組とかグループが作られるから授業を受ける分には大丈夫なんだけど。

それもうちのクラスだけじゃなく、三クラス合同だからね。


ただもう明らかに壁がある。

学年一位になってから更にそれが分厚くなった気がする。

クラス内外問わず。なんで(絶望)。



「皆気合い入れて考えてね、卒業の時のDVDにもバッチリ残るよ!」



――「まじかー……」「ダンス苦手なんだよな」「恥っず」――



「酷過ぎたら先生が考えたやつになるぞー? ダンス部の子も居るんだから頼むよー」



――「それで良くないー?」「やるのとダンス自体考えるのは別だろ……」「ダンス部頼んだ!」――



「ははは、このために今まで振り付けの授業してきたでしょ? 当然成績にも影響あるからね!」



笑って先生が叱る。

体育は若い女の先生だけど、こんな感じだから授業の雰囲気は軽いのだ。


で……基本的に、体育は球技が人気。

跳び箱にマット運動とか、シャトルランに長距離走……ここ辺りが不人気。


そんな中昨今必修化された(先生談)、こういったダンスの授業。

たしか一年生の時は、決められた曲に決められた振り付けを練習して、体育祭でそれを踊った。


二年ではこの創作ダンス。

曲も振り付けも自分達で考えるって言うんだから凄い。



「じゃあ皆、決めたグループで集まって振り付けとか曲をどういう風にするか相談して下さい! グループメンバーの変更とかは今日までだからね。分かってると思うけど、ダンス部はグループ作るの禁止で! はい開始!」



――「不条理だ……」「まあ部活で言われたから知ってたけど」「俺らのグループと合体しない?」



ちなみに三年生は、体育祭ではスーツ着て社交ダンスをやる。

これも凄かったなぁ……(更なる現実逃避)。



「……」



どんどんとグループで集まり話し合っていく生徒達。


まあ、当然。

俺は一人なんですけどね(決定事項)。





「……とーまちの顔が死んでる!」


「ア、ア……(ゾンビ)」


「大丈夫か……?」



孤独という体験(超豪勢45分間コース)をみっちりと味わって、スライムの如く机と一体化する。

周りがキャッキャと曲とか振り付けを話し合っているのを横で聞いていると消え去りそうになるよね。


今も教室はその話題でもちきりだ。

皆、なんだかんだで楽しんでいるのだろう。

全部自分達で決められるこの創作ダンスという授業は、特に女子に人気らしい。男子は既におふざけグループみたいなのあるけどね。


ダンスは来週の金曜日に男女合同で発表。

今日の去年の先輩達のDVDを見る限り結構簡単な振り付けだったから気は軽い。


しかし簡単っていうのはダンス部以外だ。クオリティが別世界、かつグループじゃなく一人だったからよく分かった。

去年は先輩の見事なそれに感動した思い出がある。一人で(死亡)。



「絶対一人グループだよね、とーまちって」

「オオォ……(負のエネルギーにより狂暴化)」


「男女合同だったら東町と組むんだけどな」

「えっ本当? 俺実は結構ダンスって得意なんだよね今からでも先生に言って女子にしてもらおうかな俺(早口)」


「うわっキモ☆」

「シュコー……(暗黒面堕ち)」



また机になだれ込む。

……ま、分かっていた事だ。こうして話せる隣席(と隣隣席の魔王)が居るだけ幸せだろう。



「やっぱり二人は二人で組むの?」

「うん☆」

「まあな。曲とかはまだ決まってねぇけど……東町は?」


「俺はもう決まってるよ」

「えっはや☆」

「これでも趣味はダンスなんで(ドヤ顔)」

「なんの曲なんだ?」

「絶対アレだ! 苺が買ってあげたっていうCDの曲でしょ!」


「……」



だからなんで当てるの?

もはや怖いんだけど(恐怖)。



「人生で初めて貰ったCDだし。もっと言えば初めて聞いたCDだし……」



実を言えば――かなり聞き込んでいる。

それほど、俺の中じゃ大事な曲だ。



「とーまちって重いよね☆」

「ァ……ア……(言葉の重力により圧し潰される)」


「あ、アタシは嬉しいけどな……」

「えっ本当? いやぁあの曲ノリやすいし踊りやすくて良いんだよね丁度いいテンポだしパンチのあるキックが最高だとおも(超早口)」

「――うわキモッ☆」


「ウッ(死亡)」



引いている魔王様は置いておいて。

そう言ってもらえるだけで、心置きなく俺はダンスを創作できる。


一人で! 伸び伸びと!




「……」



昼休み。

何時もの様に、俺は図書室で勉強中。


今日はちょっとだけ授業に集中できなかったので、復習を念入りにやっている。

理由は言うまでもなく、ダンスのアレだけど。


思考のスミに追いやって、あまり考えない様にした。

体育という一科目に引き摺られて、他の科目も落としてしまってはよろしくない。

エンジン上げるぞ!



「……(ブースト中)」



自習机、壁に当たり反響する音。

カリカリと鳴るノートが、自然と頭をクリアにさせる。

染み付いた勉強という行動に安心する。


楽しいとまでは言わないけれど。

やはり俺は人目につかず、こうして一人で机に向かうのが安定だ――





「――ふぅ……」



一息付く。

いつもよりも集中出来た(現実逃避とは言わない)ので明日の予習分も終わってしまった。



「……」



天井を仰ぐ。

創作ダンスの事は、家に帰ったら考えよう。


学校では勉強。出来る限り切り替えるようにしないとな。



「……あれ」



早いもんだ。

マナーモードのスマホで時間を確認。見れば昼休みも残り10分。


しかし、そんなことよりも――そこにあったメッセージに汗が流れた。




詩織『今日のお昼休み空いてますか?』




「見てなかった……」



昼休みで初めて携帯を見ました(縄文人)。

まずいまずい! なんか無視したみたいになってるって!


俺は図書室を出た(早歩き)。






▲作者あとがき


5月になるまで駆け抜けます。

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