これからも


帰り道はあっという間だった。

ずっと今日の事を……三連休の事を思い出していたからだろう。


《――「好きだよ、初音さん」――》


その言葉も、俺は言って良かったと思う。

もちろん恥ずかしかったけど……それ以上に彼女の反応が大きかったから。


《――「今日は、ありがとう……っ」――》


あの時。扉が閉まる直前、見えた彼女のその表情。

潤んだ瞳。紅い頬。熱を帯びたあの視線は。


俺の人生で、一度も受けた事のないモノで。



「そんなに……嬉しかったのかな」



呟いても、誰も答えてくれないけれど。

胸の中が、ずっと熱くなっていた。



「……ただいま」



そうして歩けば、家に着いて。


疲れた声が、玄関で木霊こだまする。

まず足の痛みが主張した。



たた……」



シークレットブーツの反動が来たのだろう。

それを脱いで、リビングに上がって。

景色が元の高さに戻った。


後はイヤーカフも取って、シルバーリングも取って。

サングラスも置いて。黒のジャケットもハンガーに掛けて。


手を洗って――洗面台、鏡を見る。



「!」



その瞬間。


もしかしたら――いままでの事が全部夢の中で。



《――「もう持ってる。東町の為に買ったんだ」――》



棚にある、夢咲さんから貰ったCDも。



《――「こんなに、山から見る夕日は綺麗だったんですね」――》



あの、椛さんと見た綺麗な夕日も。



《――「いっちの事、ほんとうに大好き!」――》



さっきまでの初音さんとの会話も、全部無かったことで。

この足の痛みも全部消えて、この三連休。全部、何もかも無かった事になってしまうじゃないかって。



それは、まるで魔法の様に。

それほど、この三日間はあっという間で。



「……そんなわけ、ないのにな」



夜22時。

一人呟きながら、俺はパソコンの前に座った。




【>>5で俺は変わろうと思う Pert16】


108:名前:1

無事、友達を家に送り届けました


109:名前:1

今は自分の家 

皆さん本当にありがとうございました(土下座)


110:名前:恋する名無しさん


111:名前:恋する名無しさん

激動の一日だぁ……


112:名前:恋する名無しさん

でもあっという間だったよ


113:名前:恋する名無しさん

確かに


114:名前:1

……なあ、コレ夢じゃないよな


115:名前:恋する名無しさん

夢かもしれない


116:名前:恋する名無しさん

信じられないぐらい上手くいったからなw


117:名前:1

やめてくれ(絶望)


118:名前:1

正直怖いんだ

この三連休、怖いぐらい充実してて

合コンに山に今日の事で


119:名前:1

寝て起きたら全部無かった事になるんじゃないかって


120:名前:恋する名無しさん

夢だとしても色々あり過ぎw


121:名前:恋する名無しさん

ずいぶんと想像力がお高い事で 悪い癖が治ってないね


122:名前:恋する名無しさん

その足の痛みがあってもまだ夢だと思うかい


123:名前:1

……確かに


124:名前:恋する名無しさん

電車止まって走りまくって、おまけにズッコケたんだろw

都合の良い夢だったらそんな不幸起きねーよ


125:名前:恋する名無しさん

合コンだって、最初はめちゃくちゃ不安がってたじゃんw


126:名前:恋する名無しさん

山の時だってカヌーで溺れたんだっけ 

友達の前で

夢だったらそんなダッサい事起きないって


127:名前:1

お前らよく覚えてるね……(恥)


128:名前:恋する名無しさん

当たり前だろw


129:名前:恋する名無しさん

この三連休、どんだけイッチの相談と報告聞いたと思ってるの


130:名前:恋する名無しさん

それを踏まえて、これが夢だって言うんなら心外ですわね





「!」


その時。

漠然ばくぜんとした不安が、スッと晴れた。


この三連休は俺だけが過ごしたんじゃない。

如月さんも、夢咲さんも、柊さんも。椛さんも初音さんも――そして、画面の向こうに居る住人も。


当然の事なのに、勘違いしていた。

まるで俺だけのモノと感じてしまっていた。




131:名前:1

確かにそうだ

ごめん、これは紛れもなく現実だ

何言ってんだろ俺は


132:名前:恋する名無しさん

うむ


133:名前:恋する名無しさん

分かればいいよ

それにしても、本当に色々あったよな


134:名前:恋する名無しさん

ほんとイッチも変わったもんよ


135:名前:恋する名無しさん

大昔(1か月前)趣味決めた時なんて、土日の予定ゼロだったからなw


136:名前:1

……俺、アレから変われたの?


137:名前:恋する名無しさん

当たり前

お前生まれた時から髪色虹色だったんか??


138:名前:恋する名無しさん


139:名前:恋する名無しさん

↓過去ログから引っ張って来たわ↓


1:名前:1


とりあえずスペック

黒髪

中肉中背

高校二年生 一応進学校

フツメン(だと思いたいブサメン)

趣味なし特技なし



140:名前:恋する名無しさん

うわっなつかし!

この時の1本当ダメだな~w


141:名前:恋する名無しさん

今の1に書き換えようぜ


142:名前:恋する名無しさん

とりあえずスペック


虹色髪(九色)

中肉高背(シークレットブーツ装備状態)

高校二年生 一応進学校

フツメン(だと思いたいブサメン)

趣味23個 特技は勉強(学 年 一 位 !)とダンスとカレー


143:名前:恋する名無しさん

高校二年生、顔に関してはもう無理だし痩せても太っても駄目だし

実質全部変わったな!


144:名前:恋する名無しさん

(身長変えるのも普通無理だろ)


145:名前:恋する名無しさん

色々あったねー


146:名前:1

俺、マジで変われたの……?


147:名前:恋する名無しさん

今更過ぎ!




「変わった、か……」



キーボードから手を放す。


俺は――変われたんだろうか。


そもそも、変わるってなんだ?

変わってどうなりたかったんだ?



《――「ごめんなさい、貴方誰?」――》



忘れもしない、駅のホーム。

あの時、如月さんに名前すら憶えられていなくて。



「……」



何もない自分が嫌で。

何も出来ない自分が嫌で。


誰にも認知されず、友達も居ないまま終わるのが。

何もないまま。何もできないまま終わるのが嫌で。


そう思って――このスレを立ち上げたんだっけ。



148:名前:恋する名無しさん

で、変われた感想は?


149:名前:1

……あんまり、実感がないんだよ

認めたくないというか……


150:名前:恋する名無しさん


151:名前:1

大事な趣味もいっぱい見つかった

ダンスもカレー作りも、普通の人よりは上手くできると思ってる


友達も出来た

学年一位にもなれた 

今日は皆のおかげでOGから大事な友達を連れ出せた


152:名前:1

間違いなく、俺は変われたと思う


153:名前:恋する名無しさん

答え出てるじゃん


154:名前:恋する名無しさん

何が納得いかないんだよw


155:名前:1

……まだ、嫌なんだ


156:名前:1

いま“変われた”と思ってしまえば、ここで終わってしまうから


157:名前:恋する名無しさん

何だそれ


158:名前:恋する名無しさん

結局何がいいたいの??


159:名前:恋する名無しさん

まどろっこしいぞ~


160:名前:1

まだまだ変わりたいんだよ、俺は

今以上にもっと変わりたい

ここで終わりたくない


161:名前:1

……あのー、えっと、つまりですね


162:名前:1

その、お前らに、まだ付き合ってもらいたくて……駄目かな






「……」




そのレスを打ち込んでから、『更新リロード』するのが怖かった。


俺が“変わった”のなら、もうこのスレもお終いかもしれないから。


この三連休の間、ずっと相談して貰ったし。今日に至っては頼りっきりで。大分迷惑かけたと思うし。


もしかしたら――なんて。


そう思って、重い『F5』を押す――





163:名前:恋する名無しさん

駄目な訳ないじゃん(笑)


164:名前:恋する名無しさん

おいおいスレ終わるんじゃないかって心配しちゃった

まだまだ付き合うよ


165:名前:恋する名無しさん

次は何決めるよ 特技追加するか


166:名前:恋する名無しさん

1が満足行くまでやってくれww


167:名前:恋する名無しさん

この三連休楽しくて仕方なかったからな


168:名前:恋する名無しさん

すごい一体感を感じる 今までにない何か熱い一体感を


169:名前:100

安価カレーもやってないし まだまだ終わってほしくないぞ


170:名前:恋する名無しさん

1は一生変わったなんて思わなくていいよ


171:名前:恋する名無しさん

100年後の1さん「安価で閻魔えんまに言い訳する」


172:名前:恋する名無しさん

イッチを勝手に地獄に落とすなw


173:名前:恋する名無しさん

こんな便所の落書きでよければ、いくらでも頼ってくれよ





「……要らない心配だったな」



笑い、呟く。

どうやらまだこのスレッドは終わらないらしい。


明日からは、また学校が始まる。

最後に一レス打ち込んで終わりにしようかな。




174:名前:1

皆、ありがとう


これからもよろしく







……と思ったけど、一つだけ聞いて落ちよう。



175:名前:1

そういえば、友達同士でお互い好きとか大好きとかって言い合うのは普通なの?


176:名前:恋する名無しさん

は?


177:名前:恋する名無しさん

えっ何言ってんの


178:名前:恋する名無しさん

どういう事だよ


179:名前:恋する名無しさん

そう思った状況をまず説明しろwww





「えぇ……」



加速するスレッドを眺める。


人生で、一番短い三日間は――もう少しだけ続くようだ。
























890:名前:恋する名無しさん

深夜2時となりました(時報)


イッチ君が寝た後のトーク会と行きますか


891:名前:恋する名無しさん

いやぁ昨日は本当にすごかったね


892:名前:恋する名無しさん

リアルタイムでこのスレに出会えた事に感謝


893:名前:恋する名無しさん

まさかイッチがあそこまで頑張るとは思ってなかった


894:名前:恋する名無しさん

学生なのにお小遣い大丈夫かな


895:名前:恋する名無しさん

まあバイトしてる言ってたし


896:名前:恋する名無し様

……なあ、ぶっちゃけイッチの『友達』視点で見るとどう思う?


897:名前:恋する名無しさん

いやぁ そりゃもう……///


898:名前:恋する名無しさん

ちょっと申し訳なくなるかも もちろん感謝はするけどね


899:名前:恋する名無しさん

俺はまー嬉しいけどな~ 


900:名前:恋する名無しさん

好きになっちゃうね///


901:名前:恋する名無しさん

自分の為にあそこまでされちゃうとなぁ 

イッチの友達が羨ましいな


902:名前:恋する名無しさん

ねー 初めての友達って言ってたけど


しかもその、好き好き言ってるらしいし……これは……


903:名前:┌(┌^o^)┐

ホモォ……?


904:名前:恋する名無しさん

腐女子様はお帰り下さい


905:名前:恋する名無しさん

え なぁ、イッチって友達の性別言ってたっけ


906:名前:恋する名無しさん

……そういえば言ってない

なんでお前ら聞いてねーんだよ(超絶怒涛ちょうぜつどとうのブーメラン)


907:名前:恋する名無しさん

いや同性だろ流石に 


908:名前:恋する名無しさん

だよな


909:名前:恋する名無しさん

普通女の子だったらそう言うよな

いやお前女の子から好きってお前、お前美味しいパスタ作ったお前(錯乱)


910:名前:恋する名無しさん

『友達』としか言ってないんだよな~


911:名前:恋する名無しさん

おいちょっと待てよ

そういやOGって言ってなかった?


912:名前:恋する名無しさん

いやいやいや

女の先輩ってだけだから! 

確定ではない


913:名前:恋する名無しさん

おいwwwww

もしイッチの友達ってのが女の子だったらヤバくね


914:名前:恋する名無しさん

ま、私だったら惚れるかナ///


915:名前:恋する名無しさん

おっさん出て行ってくれる?


916:名前:恋する名無しさん

まあでも好きになっちゃうよね もちろんLIKEではない方で


917:名前:恋する名無しさん

もう友達では居られないな……


918:名前:恋する名無しさん

このスレ、落とすか


なんか1に見られたら良くない気がする


919:名前:恋する名無しさん

だな 

きっとコレは俺達がどうこう言うもんじゃない


920:名前:恋する名無しさん

イッチに気付かれない様に……書き込み厳禁!!


921:名前:恋する名無しさん

ノシ


922:名前:恋する名無しさん

良い夜を


923:名前:恋する名無しさん

ばいばーい


924:名前:恋する名無しさん

色々コレから“来る”ね……そんな気がする


925:名前:恋する名無しさん

俺達は晴れ渡る青空でいつまでも見守ってるぞ……


926:名前:恋する名無しさん

だから勝手に殺すなってw


927:名前:恋する名無しさん

それでは皆さんさようなら〜


928:名前:恋する名無しさん

イッチ、色々頑張れよー!





▲作者あとがき 


今日は夜にもう一話投稿です

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