エピローグ:虹色の日常



作業は最終段階。

これをミスれば、全て終わり。


木の棒に両面テープを張り、瓶の中に入れて接着。

そしてまた瓶の中にその船を差し込み――針金でマストを引き上げる。


ゆっくり、慎重に――



「……出来た」



火曜日の朝。

目の前にあるのは、瓶の中の帆船ボトルシップ

思わず目を奪われる。



「最高だ……」



しばらく眺めて、絶対に割らないよう引き出しの中に仕舞う。

今度また設置場所は考えよう……って。


時刻は7:00。

学校に行く時間。


鞄の中に教材を入れて、水筒と弁当も入れて。

20羽の折り鶴達(増殖ぞうしょくバグではない)に見送られ。

壁に掛けた、昨日のコワモテコーデを一目見てから。


俺は――扉を開けた。





――「あっいつもの虹色の人だ」「なんか色増えてない?」「アレで学年一位だからな……」――



通学路、同じ星丘の生徒から浴びる言葉。

おうおうよく見ろよ俺の虹色を(自慢)。

最近はこの視線に慣れを通り越して気持ち良くなってきたの通り越して虚無になった(ゼロ)。



「と、東町君。おはようございます」

「! 椛さんおはよう」



そして校門に入って、廊下……掛かる声。

あれ?



「髪、切った?」

「……はい」


「ちょっと、すいたんだ」

「はい。まだ落ち着かないです」



見れば、前髪の密度が減って……薄っすらと彼女の目が見えるようになった。

これだけでも大分印象違うね。


というか―――声もちょっと大きくなった?



「何かあったの? 椛さん」

「……はい。僕も、もっと頑張らなきゃって」

「え」

「東町君みたいに、なりたくて」

「おいおいなんだいそれはキミ(困惑によりキャラ崩壊)」



いきなりなんだよ全く(照れ)。



「……じゃ、僕図書室寄るので」

「お。今日は何借りるの?」

「『驚く程声が出る! 声トレーニング』です」

「おおう……」

「行ってきます!」



図書室でそれを読むのは中々にシュールだけど。

椛さん、良い意味で変わったな。





――ガララララ。



教室。

俺の席に着けば――



「――おはよ、とーまち!」

「おう」



ギャル二人が既に居た。

合コンぶりである。


おかしいな。いつもだったらこの時間にはまだ居ないんだけど。



「渡したCD聞いたか?」

「もちろん。携帯にも入れちゃったよ」

「……そうか。また他のCDも貸してやるよ」

「え、本当? ありがとう」

「おう」



……あれ? 夢咲さんこんな話しかけてくる人だっけ?


心なしか雰囲気も柔らかい。

まるで、あの合コンの時みたいに――



「ふは☆」



というか。

さっきから、柊さんが凄い見てくるんだけど。

もう絶対悪い予感しかしない。



「にやにや☆」

「あー……東町、案外“そういう”服も着るんだな」


「はい?」


「じゃーん!」

「はい?(二回目)」



柊さんが、自信満々にその携帯の画像を見せてくる。

……昨日の俺じゃないか(困惑)。



「なんで?」

「なんででしょう☆」


「……あ。まさか」

「実はユーカちゃんから遠隔でアドバイスしておりました!」


「……だからあんなに携帯見てたのか」

「正解☆」



色々突っ込みどころはあるけど、彼女のおかげで昨日はうまく行ったわけで。



「ありがとう、柊さんのおかげで助かったよ」

「どういたしまして☆」

「ユーカがアタシのとこにも言って来たぞ、『ハジメさんが“なんでも”お願い聞いてくれるらしいッス』って」


「俺、サンドバッグになるのかな(死)」

「ふははは! 今度の合コンはあの服装で来てみてよ!」

「はい?」


「ユーカちゃんにそう頼んでって伝えとこーかな☆」

「やめて(土下座)」

「間違いなく前よりは食いつき良いだろうな」


夢咲さんまで乗ったら終わりだよ(絶望)。


「に、逃げます(失敬)」

「あー! 待てー!」

「お前のせいだぞ莉緒」


このままだとマズいので、俺は席を立つ。

そして、教室の正反対のその位置へ――



教室、一番前、一番右。

掛かる視線を浴びながら――その場所に辿り着く。



「おはよう、如月さん」

「あら。おはよう東町君、また色増えたのね」


「また増えました(九色の輝き)。そういえば今日は早いんだね」

「ふふ、実はこの時間に登校すると猫の集会に遭遇出来るの」


「え、そんなのあるの? 俺達の最寄り駅で?」

「そうそう。場所で言うと、公園の少し近くの影で――」



楽しそうに話す如月さん。

なぜか分からないけど、今は全く動じず彼女と話せるようになった。


なんなら目も合わせられる。

……まじまじと見ると、本当に美人だな。



「あれ――桃!」

「あはは、バレちゃった……おはよ~あやのん」



そして。

如月さんの目線の先に、彼女が居た。

教室、前の扉から覗く様に。



「お、おはよっ。いっち」


「あ……おはよう。初音さん」



そして。

歩いてくる。

どこか、顔が紅い。



「……? 桃、何かあった?」

「なっなっなにもないよ~」



席に座る初音さん。

……昨日のことがあってから、何か。



「……早起きすると眠いわ……」

「あ、あやのん?」

「……すぅ」

「ねちゃった」

「……こう見てると、かのんちゃんに寝顔似てるね」



まじまじと如月さんに視線を移す。

それは、まるで逃げるように。



「じろじろ見過ぎ~」

「いやいやいや(現行犯)」

「あっそういえば」

「?」

「これ――ありがとう」

「あ」



その袋。

中を覗くと、俺の服があった。


そういえば貸してたね。

洗ってくれたみたいだけど……ちょっと、彼女の匂いがする。

甘い香り。鼓動が高鳴る。


いやダメだろコレ完全に変態だぞ(不審者)。



「あの白のブラウスは……」

「洗濯したら汚れ取れたよ~」

「そっか。良かった」



あのクソOG(俺命名)のせいで、もう着られないとかだったら最悪だからね。

またその彼女の服を見れる日が来るんだろうか。


見れたら、良いな。



「あと……朝、学校の最寄り駅であのOGに会ったの」

「えっ」

「びっくりしちゃった。凄い勢いで謝られて、弁償代って言って一万円渡されて」

「そう、なんだ」

「バスケ部にも、わたしにも二度と関わらないって。土下座までしようとしてたから流石に止めて逃げてきたの」

「……そっか」



まさか直接謝罪しに行かれるとは思っていなかった。

まあ、危害は加えてないなら良いか。あの“5000円”が大分効いたかな。


あのOGには、俺も彼女ももう会わない事だろう。



「ね……いっち」

「どうもいっちですが……(自己紹介)」

「……わ。わたしも」

「な、何?」

「昨日のお礼に、わたし、なんでもする」

「はい?」



はい?


突如そんなことを言う彼女。

安心したと思えば、また鼓動が爆上がり。



「“なんでも”。いいよ――それぐらいのこと、いっちはしてくれたから」

「……っ」



その目を直視できない。

やっぱり朝から変だ。


おかしいだろ。


魔法の靴は、もうとっくに脱いだのに。

なんで――まだ、彼女がこんなに可愛く見えるんだよ。




「……考えて、おきます……」

「あはは。わたしいっちに何されちゃうんだろ~」


「買い物付き合ってもらうとか……」

「え~そんなので良いの?」


「い、一緒に服見るとか」

「それさっきのと一緒だよ~!」




――キーンコーンカーン



「じゃ、じゃぁ……」

「うんっ」



また、逃げるように俺はそこから離れる。


また、日常が始まっていく。



「……なんでもって、なんなんだよ……」



呟いても誰も答えてくれないが。

窓を見れば、今日も朝日が俺を照らす。

いつも通り――いや、少し違う。


世界は、虹色(+二色)に輝き始めた。


それはもう。昨日よりもずっと強く。


ずっと、ずっと――



まぶしい……」



しかしながら。

少し、明るすぎる気がしないでもない?


























▲作者あとがき

と、いうわけでお付き合いいただきありがとうございました!

これにてコンテスト用の投稿がすべて終わり、連続更新も終了となります。

本当にたくさんの応援ありがとうございました。

まさか20万文字まで行くと思ってなかったですが、皆さんの応援あってこそです。

期間中はずっとラブコメ100位以内にはいっており、驚くばかり。

あとはコンテスト結果を待つのみ……(祈願)。


続きはゆっくり、ゆっくりと書いていくので、思い出した時に覗いてもらえると幸いです。


それでは!

読んで頂いて、本当にありがとうございました。

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