友達のその先
「――好きって、言って」
月明かりが灯す中。
そんな事を、真っ直ぐ目を見て言われた。
「……っ」
接近する彼女に、思わず目を背けてしまう。
ただでさえ可愛いのにここまで近付かれたらもう色々と(混乱)。
「言えないんだ」
顔を背ける初音さん。
まずいまずい!
え、でも友達同士ってそんな好き好き言いあう感じなの? 友達全然出来た事ないから分かんないんだけど。
……めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。
「LIMEでなら……」
「わたし、ずっと口で言ってた」
「……(返す言葉もない)」
いや、好きなんて家族にも言った事ないし。
そりゃ――初音さんの事は、大切な初めての友達だし。一緒に居て楽しいし。ずっと友達で居たいと思うし。
……でも、だからって。
それを対面で、言葉にして言うのは凄く恥ずかしい。
「……」
「……」
さっきの会話からは一転。
急に、静かになってしまった。
彼女と俺の足は、自然と帰路へ動き出す。
☆
「いっち、大好き」
「……」
「好き!」
「……うっ」
「大大好き!」
「や、やめてください……(半泣)」
そしてその後はずっと無言で――だったらまだマシだった。
ひたすらその言葉を言われ続けて、数分か。
数え切れない『好き』が俺を襲っている。
……多分一生分受け取った。
この先もう、言われる事なんて無くなるだろう。
「大好き!」
……そんな事なかった(前言撤回)。
ああ、今の俺どんな顔してるんだろ。
考えるだけで恐ろしい。
「その新しい髪色って、わたしの色?」
「えっ」
「図星だ~」
「……あーいや。色を決めるときに、チラッと携帯みたら初音さんの名前があって、本当に」
「ふーん」
……そしてようやく、好きの連撃が終わった。
助かったぞ俺の髪。ありがとう(虹の加護)。
「それでも、普通わたしの名前の色なんて使うかなぁ」
「あ……不快だった?」
「ううん」
「そ、そっか」
「嬉しかったよ。すごくすっごく」
「そうですか……(照れ)」
「全部ピンクにしちゃえ」
「……それは流石に勘弁して下さい(桜の擬人化)」
「わたしもやだ!」
「だよね」
「あはは~。いっちはやっぱり虹色だよ」
隣を見ると、いつもの様に笑う彼女が居た。
好き好き言われてからずっと見れてなかったけど――こうして見ると実感する。
初音さんは、本当に大事な友達だ。
失いたくない。
悲しい顔をしてほしくない。
友達で、ずっと居てほしい。
……そして、それは思っているだけでは意味なんて無いわけで。
こんな俺が、彼女とその関係でいるためには。
言葉にしないと。
繋ぎ止めるために。
「……ぁ、えっと――」
「ん~? あ、家着いちゃった。このイヤーカフ? 返すね!」
「あ、はい……」
でも、その声は最後まで出ない。
何時もの様に、彼女の家まで見送って。
このまま夜は終わるんだ――
――『記憶は無いが、今貴方は人生をやり直す為に未来からやってきた』――
――なんて。
また。
……ああもう。
今日は、最後までその言葉が響いている。
一体俺は、何度過去へと戻るのだろう?
「ばいば~い! また明日に服は洗って返すから」
「――は、初音さん!」
「!? な、なに?」
気付けば、彼女の手を掴んでいた。
そのまま俺は口を開ける。
「今の俺が居るのは、初音さんが居るからなんだ」
「……へ?」
「職質から助けてくれた事も、映画を一緒に見た事も、勉強会に誘ってくれた事も」
「い、いきなりなにっ」
「ごめん、でも、だからさ――」
コレまでを思い出しながら。
過去に彼女からどれだけ助けられたか実感する。
初音さんが居たから、俺は色んな人と仲良くなれた。
初音さんのおかげで、初めてテストで一位を取れた。
初音さんが初めて、俺の友達になってくれた。
そうだ。
これは曇り一つない、彼女への気持ち。
大事な、その友達への。
だからそれは、自然と口から現れるんだ。
「――好きだよ、初音さん」
☆
☆
『東町一』。
虹色の髪色のクラスメイト。
思い返せば、いろいろあった。
初めて会った時は一年の始業式。
初めて話したのは、彼が公園で職質を受けていた時。
《――「あの~、その人クラスメイトなんですけど~」――》
人から話しかけるのも、話すのも慣れていない。
おどおどしてて、でもたまにキリッとする。
……変なクラスメイト。
《――「わたし、いっちと友達になりたい!」――》
公園、彼に掛けた言葉。
……変だけど、友達になった。
《――「わたしも、いっちともっと仲良くなりたい!」――》
部活終わり。
帰り道、素直になった時の言葉。
……変だけど、一緒にいるとすごく楽しい友達になった。
《――「いっぱい頑張ってくれて、ありがとう」――》
テスト、一位。
わたし達の為に、頑張って頑張って、頑張って……その結果を掴んだ時。
居ても立っても居られなくて、彼に掛けた言葉。
……変だけど。
ほっとけなくて、大切で。
《――「わ、わたしも……そう思ってた」――》
金曜日、電話口――こぼれた言葉。
……変だけど。
ずっと、一緒に居たくって。
《――「好きって言って」――》
三連休、最後の月曜日。
抑えきれなくなったその言葉。
……わからない。
その先は一体、なんなのだろう。
わからないまま――
「――好きだよ、初音さん」
振り返る。わたしの手が引かれて、彼が言う。
真っ直ぐな目。
本心から放たれたもの。
「――!」
パリン、と。
彼の声が、ふわふわと夢心地だったわたしを覚まして。
あの時、助けてくれた彼の姿が。
その後、笑ってくれる彼の顔が。
鮮明に、頭の中に流れていって。
「……」
「あ、あの。言ったけど……」
「……っ」
「は、初音さん?」
その手を握ったまま。
彼の事を見つめたまま。
口を開いて固まったまま。
「ぁ……あれ……?」
言えない。
『わたしも大好き』――そう、返そうと思ったのに。
……恥ずかしい。
なぜか恥ずかし過ぎて、何も出ない。
ずっと言っていたのに。
ずっとソレを言って彼を困らせていたのに。
「……ぁ……うぅ」
分からない。
頬が、どんどんと熱くなっていく。
顔が紅くなっているのが分かる。
うるさい。
心臓の音が、彼に聞こえてしまうぐらいに鳴っている。
「初音さん……?」
その声が。
その目が。
向けられるたび、怖いぐらいにどきどきする。
これは、なに?
初めての事ばかりで、分からない。
「その、あっ明日に、学校で!」
「え」
「今日はありがとう……っ」
「う、うん。また明日」
精一杯の笑顔を見せて。
そのまま逃げるように走って、扉を開けて玄関に入る。
手を振る彼が最後に見えた。
――バタン。
靴を脱がずに、玄関に座り込む。
外の空気から家の空気に。
視界が眩しくて、腕を組んで顔を埋めて。
「ぁ……」
ニットの柔らかい感覚。
彼の服。
彼の匂い。
それは。
まるで、彼がこの胸の中に居るように。
「……っ」
それが、引き金となって。
《――「好きだよ、初音さん」――》
もう一度、記憶が再生する。
「……なに、これ……っ」
鼓動が、うそみたいに高鳴っている。
身体が熱い。息が荒い。
《――「好きだよ、初音さん」――》
その声が、耳から離れない。
嬉しいを通り越した何か。
これは、もう――
「だめ……っ」
その感情は、きっと良くないものだ。
いっちと、ずっと友達で居たいから。離れたくないから。距離を取られたくないから。
だから、無理矢理それを抑えつける。
気付いてはならない。
明日からは、元通りだ。
「……よしっ」
息を吐く。
……うん、大丈夫。
ほら。今なら言えるから――
「す、好きだよ……いっち」
――絶対に。
恋してなんて、いないから。
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