不穏


初音さんは、適当なところで帰って良いとは言ってたけど。

実際試合はもう終わってるし。星丘高校は二試合分。



「……何やってんだろ、俺」



もう既に13時は超えている。

既に星丘高校の生徒達はコートに居ない。


別の学校のチームが試合を始め、完全に俺は部外者だ。

出される事は無いが……ぶっちゃけ変な人である。



――「パース!!」

――「ナイッシュ!」

――「まだまだ終わってねぇぞ!!」



「……」



そんな熱気溢れる試合を、“青春”を感じれるこの場所が。

きっとコレまで、立った事の無い場所だろうから。

新鮮で、切なくて。いつまでも居たいと思わせるのだろうか。


不思議と。ペンを握りたくなってくる。その架空の世界に逃げたくなる。

自分はその中に居る訳もないのに。

きっとココから立てば、虚しくなるだけだってのに――


――ピコン!




もも『試合、見てくれてた! ありがと!』

東町一『うん。大活躍だったね』

もも『そ そんなことないよ~』

もも『(照れる猫のスタンプ)』

もも『じゃ! また15時に○○駅で~』

東町一『うん』



その返事と一緒に席を立つ。

何もしていないのに、お腹が減ってしまった。


……確か試合後はファミレス行くって言ってたよな、初音さん。

俺もある程度は腹に入れておくべきだろう。


家に帰りたい気分じゃないし、予定通り集合場所の駅近くで適当にすましておくか――





「ほんと初音先輩のディフェンスのおかげで――」

「マジでエースです!」

「敵チームの頭上から放り込むのカッコ良かったっす!」



……なんで?

少し遠いが、向こうの席ではさっきまで見ていた人達が居る。


ただメンバーは減っていて、10人行かないぐらいだ。

俺から見て正反対側に居るから、顔は見えないが――



「あはは~……背高いからねわたし……」

「フィジカルですよ!」

「凄い人気だねーキャプテン変わろうか桃?」

「勘弁してよ~」



当然初音さんも居る。

……ここ、ファミレスじゃないんだけど。

誰でも入りやすいハンバーガー店なんですよ。


手に持ったハンバーガーが震えております。

ピクルス抜けそう。いやそれは良いか(最低最悪)。


――鬼気まずい。


持前の隠密スキルを発動中(ニット帽を限界深度まで被る)の為、初音さんからも気付かれていないけど。

アレだ、中学で運動会終わり……俺は親と焼肉に来て、クラスメイトの集団が同じ店に来たやつ。


……アア……ア……(精神破壊開始)。



「……」



いや、でも違うんだよ(虚空への言い訳)。

この後俺は彼女と遊ぶわけよ?

つまり――“あの時”の俺とは違うのだ。


これが、“友”を持つ者の強みか……!

強くなったよお父さんお母さん妹。あの時の気まずさはもう無い。


ちゃんとハンバーガー(170円)の味がする――




――「おっ居た居た!! お前らどこ居たんだよ!」

――「課題あり過ぎてヤバい試合だったぞー」




と思ったら。

聞こえる大きな声。メイクが濃くて語気の荒い、その二人。

その、明らかに大学生っぽい人物が現れた瞬間。



「……え、なんで」

「さっきファミレスに……」



空気が凍ったのを、俺すらも感じていた。

何とも言えないその空間。曇る彼女達の表情。

不穏、だった。



「あ、あー……」

「すいません、その反省会中で」


「ああ? その割には空気が緩いよな?」

「ったく、あたし達の時はそんなヌルくなかったんだけどな、柏木?」


「……すいません」



頭を下げっぱなしのキャプテンっぽい人。

迫る――会話からして、バスケ部OGの二人。

いや、ここハンバーガー店なんだけど。

何かヤバい状況に挟まってるんだけど(激ウマギャグ)。


とか言ってる場合じゃない!



「今日は特別だ。二年の奴らはあたしらと来な。反省会だ」

「準備しろ」


「えっ」

「あの、私達もこの後色々予定がありまして……」


「ああ!?」

「あたし達より大事な事があるって?」



そのテーブル席に詰め寄る、二人の大学生。

そして――その中。


一番に拒絶したのは。



「ご、ごめんなさいっ。本当に今日だけは駄目で――」



初音さんで。

背が高くて、試合でも結果を残した彼女は。



「あ? お前ムカつくんだよ、デカいだけの癖に態度もデカいってか?」

「どうせ大した用事じゃねーだろ」


「いや、その……」


「……おい。なんかコイツ」

「もしかして――男?」



場の雰囲気が。

どんどんと、怪しくなっていく。



「ち、違います……」


「……ちッ! その反応、完全にソレだろうが!」

「来なよ、すぐ終わらせてやるから。お前だけの特別指導だ」



……まずい。

その言葉が嘘だということは俺でも分かる。



「いや、本当に用事が……」


「良いから来いよ」

「元センターとして教えてやるから」


「ほ、本当にすぐなんですか」


「ハハハ、ああ!」

「そうそうすぐすぐ! じゃあ借りてくぞ初音!」



そのまま。

彼女一人と、大学生二人が――その階段に向かっていく。



「――っ」



きっとそれは、後のことなど考えず。

気付けば、俺の足が動いていた。



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