不穏
初音さんは、適当なところで帰って良いとは言ってたけど。
実際試合はもう終わってるし。星丘高校は二試合分。
「……何やってんだろ、俺」
もう既に13時は超えている。
既に星丘高校の生徒達はコートに居ない。
別の学校のチームが試合を始め、完全に俺は部外者だ。
出される事は無いが……ぶっちゃけ変な人である。
――「パース!!」
――「ナイッシュ!」
――「まだまだ終わってねぇぞ!!」
「……」
そんな熱気溢れる試合を、“青春”を感じれるこの場所が。
きっとコレまで、立った事の無い場所だろうから。
新鮮で、切なくて。いつまでも居たいと思わせるのだろうか。
不思議と。ペンを握りたくなってくる。その架空の世界に逃げたくなる。
自分はその中に居る訳もないのに。
きっとココから立てば、虚しくなるだけだってのに――
――ピコン!
□
もも『試合、見てくれてた! ありがと!』
東町一『うん。大活躍だったね』
もも『そ そんなことないよ~』
もも『(照れる猫のスタンプ)』
もも『じゃ! また15時に○○駅で~』
東町一『うん』
□
その返事と一緒に席を立つ。
何もしていないのに、お腹が減ってしまった。
……確か試合後はファミレス行くって言ってたよな、初音さん。
俺もある程度は腹に入れておくべきだろう。
家に帰りたい気分じゃないし、予定通り集合場所の駅近くで適当にすましておくか――
☆
「ほんと初音先輩のディフェンスのおかげで――」
「マジでエースです!」
「敵チームの頭上から放り込むのカッコ良かったっす!」
……なんで?
少し遠いが、向こうの席ではさっきまで見ていた人達が居る。
ただメンバーは減っていて、10人行かないぐらいだ。
俺から見て正反対側に居るから、顔は見えないが――
「あはは~……背高いからねわたし……」
「フィジカルですよ!」
「凄い人気だねーキャプテン変わろうか桃?」
「勘弁してよ~」
当然初音さんも居る。
……ここ、ファミレスじゃないんだけど。
誰でも入りやすいハンバーガー店なんですよ。
手に持ったハンバーガーが震えております。
ピクルス抜けそう。いやそれは良いか(最低最悪)。
――鬼気まずい。
持前の隠密スキルを発動中(ニット帽を限界深度まで被る)の為、初音さんからも気付かれていないけど。
アレだ、中学で運動会終わり……俺は親と焼肉に来て、クラスメイトの集団が同じ店に来たやつ。
……アア……ア……(精神破壊開始)。
「……」
いや、でも違うんだよ(虚空への言い訳)。
この後俺は彼女と遊ぶわけよ?
つまり――“あの時”の俺とは違うのだ。
これが、“友”を持つ者の強みか……!
強くなったよお父さんお母さん妹。あの時の気まずさはもう無い。
ちゃんとハンバーガー(170円)の味がする――
――「おっ居た居た!! お前らどこ居たんだよ!」
――「課題あり過ぎてヤバい試合だったぞー」
と思ったら。
聞こえる大きな声。メイクが濃くて語気の荒い、その二人。
その、明らかに大学生っぽい人物が現れた瞬間。
「……え、なんで」
「さっきファミレスに……」
空気が凍ったのを、俺すらも感じていた。
何とも言えないその空間。曇る彼女達の表情。
不穏、だった。
「あ、あー……」
「すいません、その反省会中で」
「ああ? その割には空気が緩いよな?」
「ったく、あたし達の時はそんなヌルくなかったんだけどな、柏木?」
「……すいません」
頭を下げっぱなしのキャプテンっぽい人。
迫る――会話からして、バスケ部OGの二人。
いや、ここハンバーガー店なんだけど。
何かヤバい状況に挟まってるんだけど(激ウマギャグ)。
とか言ってる場合じゃない!
「今日は特別だ。二年の奴らはあたしらと来な。反省会だ」
「準備しろ」
「えっ」
「あの、私達もこの後色々予定がありまして……」
「ああ!?」
「あたし達より大事な事があるって?」
そのテーブル席に詰め寄る、二人の大学生。
そして――その中。
一番に拒絶したのは。
「ご、ごめんなさいっ。本当に今日だけは駄目で――」
初音さんで。
背が高くて、試合でも結果を残した彼女は。
「あ? お前ムカつくんだよ、デカいだけの癖に態度もデカいってか?」
「どうせ大した用事じゃねーだろ」
「いや、その……」
「……おい。なんかコイツ」
「もしかして――男?」
場の雰囲気が。
どんどんと、怪しくなっていく。
「ち、違います……」
「……ちッ! その反応、完全にソレだろうが!」
「来なよ、すぐ終わらせてやるから。お前だけの特別指導だ」
……まずい。
その言葉が嘘だということは俺でも分かる。
「いや、本当に用事が……」
「良いから来いよ」
「元センターとして教えてやるから」
「ほ、本当にすぐなんですか」
「ハハハ、ああ!」
「そうそうすぐすぐ! じゃあ借りてくぞ初音!」
そのまま。
彼女一人と、大学生二人が――その階段に向かっていく。
「――っ」
きっとそれは、後のことなど考えず。
気付けば、俺の足が動いていた。
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