え?
「……」
座った夢咲さんは。
まるで、俺の言葉を待っているようだった。
……なんかいつもと雰囲気違う?
「あー、夢咲さんって凄かったんだね」
「あ? ……何もアタシはしてない。中学の時は必死だっただけだ」
「それが凄いんじゃ」
「昔っからそうだったんだ。ダチがさらわれたり、他校の奴らが迷惑掛けてきたりな」
「……(困惑中)」
「アタシからは何もやってねぇ、気付けば色々増えてた――それだけだ」
「それが凄いんじゃないかな(二度目)」
というか、本当に俺と同じ世界に生きてるのかな(二度目)。
「アタシは井の中の蛙で、どうしようもなくガキだったんだ。何も知らないから怖いモノなんて無かった」
「今は違うの?」
「……ああ。怖いモノばっかりだ」
悲しそうに笑う夢咲さん。
似合わない――そう思った。口には出来ないが。
「……なぁ」
「な、なに?」
「愚痴って良いか」
小さい声。
夢咲さんには珍しいそれに、俺は黙って頷く。
「テメーは凄ぇよ。クラブの時も――自分から向かって、真正面からぶつかってたろ?」
「(照れ)」
「アタシは――自分から行動を起こすのが怖い」
「……そうなんだ」
「ああ。高校生になって環境が変わって、リオと出会って、一気に自分がちっぽけに感じるようになった。大人も怖いし、未知の世界も怖い……中学の頃とは真逆だ」
ため息を吐く彼女。
……多分勘違いをしていたのは、この俺だ。
何も悩みなんて無い、自由に生きてる――そう思っていたけれど。
「意外と夢咲さんも抱えてるんだね」
「単純にチキンなだけだ。今もこうして昔の仲間に縋って楽になってる」
「昔の?」
「……ああ。ココなら居心地も良いし、怖がられる事も無い。高校の“普通”の奴らは全員、“普通じゃない”アタシを避けていく……リオとテメーは別だが」
「うん」
「避ける奴にアタシから話しかける勇気も無い。どうせ怖がられて余計に距離をとられるだけだ。そんで今みてぇに昔の仲間に縋って……だせぇだろ」
多分、壮絶な過去があるからこその苦労なんだろう。その威圧感も目つきの悪さも。
そしてかつ、その過去が彼女の拠り所になっている。だからずっとそのまま。
何もかも存在感がない、昔の俺のよりもタチが悪いかもしれないが――
「夢咲さんは、その“普通”になりたいの?」
「……当たり前だろ。高校からはそうなりたいと思ってた。なれるもんならなってる――とっくの昔に諦めたが」
「ちょっと変えるだけで、人って印象大分変わるよ。諦めるのはまだ早いんじゃないかな」
「そう思うのはテメーだけで……」
塩らしい彼女。
今なら多分俺でも勝てる(そんなことはない)。
でも。
ココまで来たら、とことんやってやろう。
「まず、その『テメー』っての抑えてみようか」
「……あ? なんだよそれ――」
「『テメー』じゃなくて『君』、『貴方』、もしくは『名前』で。あとそんな俯きながら話すんじゃなくて、ゆっくり視線を合わせて喋ってみようか」
「は?」
「怖がられたくないのなら、そこからやってみようよ」
「……ッ」
そもそも彼女は普通を知らない。
これを機にレッスンタイムです(何様)。
チキンでビビリ野郎の俺が怖くないと感じれば――もうそれはほぼ全人類怖くない!
……多分。
「ほら。俺に今日雨降るか話しかけてみてよ」
「……ッ、こんなん何の意味が――」
「出来ないの? 怖がられたくないんでしょ」
「ぐッ……」
でもまさか、立場が逆転する事になるとは。
興奮してきたな(変態)。
「と、東町君。き、今日は……雨降るのか?」
「! それだよそれ! 次は俺に血液型について聞いてみて」
紅に染めた頬。開かれる小さな口。
彼女の威圧感が無い。
鋭い目だけが――俺を見つめていて。
「と、東町君は……血液型は、何なんだ?」
「A型だよ。夢咲さんは?」
「え、えっと……同じ……」
オイオイオイ。
やっべぇいつもと全然違うぞ夢咲さん。
楽しくなってきたな(不審者)。
「奇遇だね、A型はマイナス思考に行きがちなんだけど心当たりとかある?」
「……ある、かも。東町君も……?」
「うん、前のテストも不安しかなくて。気が合うね――あ」
「……な、なに――!?」
そのレッスン中。
気付けなかった、その夢咲さんの背中に――
「ふっ、つ、続けて良いよ☆ ふはっ、ふはははははは!」
笑顔(魔王)の彼女が居た。
これまでに無いほどの笑い声。
「……テメーいつから居た?」
「チキンなところ、からかな☆」
「ッ――アタシが背を取られるなんて……忘れろ。リオ」
「ふははははは! やだ! いやぁあの感じだと絶対モテるよ苺は!」
「……忘れろ。マジで」
「いやー☆ 可愛かったなぁ!」
「……ッ!!」
普段通りの夢咲さんに戻り、威圧感を出す彼女。
そして一切動じない柊さん。
いつもの二人だ。
……さて。
このまま帰るか!
「――オイ、どこ行くんだよ東町は」
「ひ、人を呼ぶ時は君付けで……(逃避)」
「あ?」
「すんません(土下座)」
「……にやにや☆」
「「ね、姉さんのあんな顔初めて見た……」」
性格の悪そうな笑みを浮かべる柊さん。
更に、さっきの格闘少女二人が物陰から眺めている。
誰か助けてくれ(祈祷)。
「――ッ。ああクソ。こんなとこ抜け出すぞ東町」
「えっ」
「……え」
「「え?」」
△作者あとがき
正月休み最後ということで、今日は二話投稿です。
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