武闘派


「簡単に言うと、ポロは馬に乗りながらボールを棒で打ってゴールに入れるスポーツなんだ。俺達が着てるポロシャツの元は、そのポロのユニフォームから来てるんだよ。で……始まりは日本で言えば縄文時代、大昔のこと。動物性タンパク質がかなり貴重な頃、ヤギを一匹まるごと貰えるとしたら嬉しいなんてもんじゃないよね」


「「そうッスね」」


「でも大昔にはそんな行事があったんだ。十人程の騎手達は馬に乗って棒を構え、生きたヤギをボールとして決められた円の中に落とす。騎手同士の妨害行為は何でもアリ、落とした者はそのヤギを手に入れる――そんな過激な中東アジアの伝統行事――『ブスカシ』がポロの始まり。そこからインド、中国、イギリスと……スポーツの『ポロ』として洗練されていくのは、日本で言うと弥生時代ぐらいからの事で――」






「凄いッスね、思い立ったが吉日さんは乗馬出来るんスね!」

「北海道まで行くつもりなんてパネーッス!」


「あ、ああ……」



なんで盛り上がってんだよ(混乱)。


この子達良い子過ぎない?

ぶっちゃけ話し始めた瞬間寝始めてもおかしくないぐらい面白くないと思ったんだけど。

もしくは明らかに俺のほうが年上だからか……。


ポロについてはあと2時間ぐらい話せるけど流石にやめておこう。



「え、えーと。俺の事は良いから、君達二人の事も聞きたいな……なんて。趣味はなんなのかな」


「「!」」



正直申し訳なくなってきた。

ビクンと反応する彼女達。



「……あ、あたしはー、料理をやってるッス……」

「へぇ、そうなんだ。俺もやってるよ。ちなみにどんなの作ってるの?」


「あー、あー。えっと、お、オムライスとか……ッスかね……」



なんか急に勢い無くなった。

あんまり話したくないのか……?



「えっと、それじゃ君は?」

「あッえ、読書して、まス……」


「! 俺も結構本読むんだよね。どんな人の読むの?」

「あー、えっと、何だっけっスかね……忘れちゃったカモ……」


「本のタイトルはどんなの?」

「あー、えっと、ロミジュリ的な……」


「それじゃシェイクスピアだ。気が合うね、俺も好きなんだ。ハムレットとか……あれ」

「……ッス……」



……なんとなく、分かってしまう。

きっとこの子達の趣味は――料理でも読書でも無いな。


俺だって安価で20の趣味を決めたわけだけど、自分なりにソレに取り組んでいるつもりだ。

でも彼女達にはそれが無い。

なんというか、熱気がないんだ。


お説教みたいになるけど……年上として、ちょっと言ってあげないと。



「――ね、二人共」

「「は、はい!」」


「別に、俺に受けが良い趣味とかムリに言わなくて良いよ」

「「え……」」



図星だった。

目を丸くする彼女達。



「趣味って本当に大事なモノだから。その時の会話の為だけに取り繕うなんて、もったいないと思うんだ」

「「……ごめんなさい」」


「いやいやいや謝らないで良いから! あー、今ハマってる事とかないの?」



頭を下げられると申し訳ない。

むしろ頭を下げるのは偉そうに説教垂れてるこっちなんで(陰キャ)。



「……あ、合気道ッス……」

「……グラウマガ(イスラエルの戦闘技術)ッス……」


「そうなんだ(困惑)。た、楽しい?」


「めちゃくちゃ楽しいッス! 最近はプロの方と手合わせしてまス!」

「あと週に一度、チームの皆で集まって闘ってるんスよ!」



やっぱり武闘派じゃないか(困惑)。

ただ、さっきの料理とか読書とかの話をしているときよりはずっと楽しそうだ。



「良い趣味持ってるね、二人共」


「……! う、嬉しいッス」

「えへへ……」



彼女達は、ようやく笑顔になってくれた。

やはり趣味っていいものだ。カレー作りたくなってきたね! 横断歩道渡りたい!



「実際夢咲さんより強かったりするの?」


「いやいやいや! 苺姉さんに比べたら全然ッス!」

「そッスよ!」


「そうなんだ」


「はい! 姉さんは凄いんすよ!」

「ぱねーッスよ! 強くなろうと思ったのも姉さんの影響で……」



……そういえば、何だかんだで夢咲さんの事あんまり知らないよな。

隣席だけど、いっつも大体柊さんと話してるし。



「聞かせてくれない? 彼女の事。俺席隣だけど、あんまり話しないから」


「「え」」


「え」



あれ。なんで急に固まったんだ?

また時止めしちゃったか……(時空間魔法:クウキヨ・メナイ)。



「だ、大学生の方だと思ってたッス……」

「髪の色で勝手に判断してたッス。まさか姉さんとタメだったとは……」


「……」



うん。

今更ながら、この髪色の異常性を身に染みた。





「それから、姉さんが隣町の中学に乗り込んでっすね。あたし達を助けてくれて――」



語る事十数分。

さっきの彼女達の話と同じぐらいソレは楽しく話されていて。


……ぶっちゃけ、舐めてた。

夢咲さんの見た目からして、まあまあ中学の頃も凄かったんだろうと思ってたんだけど。



「二十人相手に一人で闘って、全員倒したんすよ!」


「しかも無傷っす!」



多分、彼女と俺は違う世界に生きている。


ヤンキー漫画の世界なんだけど、完全に。

おかしいな、同じ県内だよね?



「……あ、あとあと。学校に野良犬が十匹ぐらい入ってきたときも――」


「一睨みで全部山に帰ったッスよ! もう伝説ッス!」



俺、よく生きてたな。

こんな凄い人が隣に居たのか――あ。



「地元じゃもう負け知らずで――」

「あ、あとあと――」


「……あ、あの、後ろ……」


「――オイ」


「「!?」」



と思ったら、いつの間にか夢咲さんが居た。

ドスの効いた低い声。



「あ、ね、姉さん……」

「し、失礼しましたー!!」


「……あ」


「チッ……昔の話はするなって言ってんのに」



逃げていく二人。

ドスンと、俺の隣に座る彼女。


……俺死んだ?

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