エピローグ:もうちょっとだけ


ヒトは賢い生き物だ。

都合の良い事ばかり起きると、逆に不安になってしまう。



「よく桃、寂しいからって家に来るのよ」

「いやいや、俺男だけど……」


「? 関係あるかしら」

「(困惑)」



前から思ってたけど、如月さんってかなり鈍感というか。

男に本当に興味が無いんだろう。

全然そういう話も聞かないし――それでもな。



「貴方なら、別に良いと思ったの」

「……」



頼むからそんな勘違いするセリフを言わないで!

乙女ゲーの鈍感系主人公ですか?


間違いなく逆ハーレムつくれるよ(敬服)。

俺は多分やられ役の雑魚一号。


「ふふっ。かのんも貴方と遊べるし……」

「……あー」

「というか、家に来てほしいってのはかのんが言い出した事なの」


一気に納得した。

かのん王女(5)ならそう言うだろうなと。


嬉しい。率直に、そう思った。


「あ。でも……」

「?」


「カレー、得意なのよね?」

「ま、まぁ……(カレーなら俺を呼べ)」


「また、作って欲しいの。私の家に来るのなら」

「ナンも持っていきます(食い気味)」

「ふふっ。楽しみにしてるわ」



笑う彼女。

未だに、その表情は直視出来ない。


ただ――前よりも自然と口は開けるようになった。



「うん、任せて」




夜は21時。

辺りは真っ暗。



「それじゃ」


「いちにーばいばーい!」

「さようなら、東町君」



扉が閉まる。

暖かい光が、ゆっくりと消えていく。


――バタン。



「……帰るか」



呟くと、夜の空気にあっという間に消えていく。



「……」



そのまま夜道、一人で歩いていく。



「……はぁ」



ため息。

空を見て、今日の事を思い出す。


テスト発表一位。

柊さんと夢咲さんからの合コンと。

椛さんからのお誘い。


そして初音さん――うん、まだ思い出さないでおこう。恥ずかしい。

最後に、如月家での団欒だんらんと。



「充実し過ぎだろ」



嘆く。

本当に、幸運な事だらけ。


いつか――本当にひっくり返ってしまうんじゃないだろうか。

そう思ってしまう。



「……っ」



誰もいない道、唐突に走る。

たどり着いたはいつもの公園。


息が上がる。

でも、今日の思い出は全く消えない。


……ベンチに座った。




「――三連休、か」




テスト結果発表後の週、現れる土日月の休み。アレから日程は決まっていた。


土曜日は合コン。

日曜日は椛さんとの山。

そして月曜日だけはまだ埋まっていない。


手元――携帯を操作する。



900:名前:1

聞きたいんだけど


901:名前:1

今が幸せ過ぎるとして


902:名前:1

もしそれ以上を求めたら、どうなってしまうんだ?


903:名前:恋する名無しさん

急にどうした


904:名前:恋する名無しさん

別にそんなん勝手に不安になってるだけだろw


905:名前:恋する名無しさん

世の中の億万長者が、確実に落ちぶれてる事なんてないし?


906:名前:恋する名無しさん

人ってホント不安になりがちよな


907:名前:1

いやぁ どうしても考えちゃうんだよね


908:名前:恋する名無しさん

日本人に特に多い癖だな


909:名前:恋する名無しさん

イッチは今までロクな学校生活じゃなかったんだろ?


910:名前:1

うん


911:名前:恋する名無しさん

じゃあその分、今その幸運が来てると考えれば良い 


912:名前:1

なるほど……


913:名前:恋する名無しさん

せっかくキテんだから、その勢いのまま色々やった方が得だわな


914:名前:恋する名無しさん

良い事ばっか起きたからって、それが逆転することなんてないし


915:名前:恋する名無しさん

まあ調子に乗り過ぎたらダメだけどw





「……そう、か」



スレッドを眺める。

今この瞬間、決意が出来た。




916:名前:1

ありがとう

もうちょっとだけ、欲張よくばってみるよ




そのレスを一つ、掲示板を閉じて。

『連絡先』――電話のマークを押す。


宛先は、『初音桃』。



「……は、はい! もしもし……」

「あ、こんばんは……」



三コールして、電話口から響くその声。

喉がかわく。

目の前に彼女が居る気がした。



「いっちから電話なんて。どうしたの~?」

「……えっとですね」

「アレからそっとしてたのに」

「それは言わないで(恥)」


「冗談だよ~」

「良かった(安堵)」


「あはは。で、どうしたの?」



ああ、やっぱりダメだ。

いざとなると不安になってしまう。

足が竦んでしまう。



――でも。


きっとそれ以上に、楽しい未来を求めている。



「次の三連休の月曜日、どこかで一緒に遊びませんか」

「――へ?」

「嫌なら良いです(ビビリ)」

「そんなわけない!」

「!」



その否定を、受け取って良いのだろうか。

調子に乗ってしまわないだろうか。


――こんな自分が。


――こんな陰キャが。


――泣き虫野郎が。



本当に、誘ってよかったのだろうか。



……なんて。



「また一緒に帰りたいです」

「……うん!」

「その時、話そう」

「分かったぁ~!」


「……それじゃ」

「はーい!」


「……っ」

「あれ? 切らないの?」



その時。

不思議と、携帯が耳から離れなかった。

先ほど打ったあのレスが――俺の脳裏に現れていて。



「――“もうちょっとだけ”」

「え?」


「初音さんと、話していたい」

「! わ、わたしも……そう思ってた」


「……そっか」

「……うん。嬉しいっ」



自然と笑みが溢れていた。

携帯を手に、俺は我が家へ歩き出す。


遊びに行くのなら、こんな前髪じゃいけない。服も買おう。

また出費が増えてしまうな。



「とりあえず、美容院予約するかー!」


「あはは。その前髪は切らなきゃね〜」


「うん、流石に伸びすぎた――――」



――ああ、全く。


俺は愚かな生き物だ。

さっきまでの不安は、いつの間にか期待に代わってしまった。




















919:名前:恋する名無しさん

……なあ、なんかお前ら綺麗過ぎない?


920:名前:恋する名無しさん

……


921:名前:恋する名無しさん

贖罪しょくざい”——ですかね


922:名前:恋する名無しさん

流石にシャリ18貫はやり過ぎた感


923:名前:1

アレはむしろ感謝したいぐらい

ほんとありがとう!


924:名前:恋する名無しさん

(えっ何いってんのこいつ)


925:名前:恋する名無しさん

ど、どういたしまして(混乱)


926:名前:恋する名無しさん

怖いよもう!





▲作者あとがき

というわけで本章は終わり、作者のストックも終わりました。次の更新再開までお待ちください(土下座)。

カクヨムコン期間中になんとか投稿再開出来るよう頑張ります。


今更になりますが、本当に応援ありがとうございました。

大量のレビューにビビってかつ喜んでました。

次章は三連休で、あまり出番の無かった三人が出ると思います。


それではまた。

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