耳壊れた?
☆
月明かりに照らされて、三人で歩く。
「でも、えらく遅いんだね今日は」
「……ふふっ、それがね――」
「――きょうはおさかな!」
その時、俺の頭脳に電撃が走る。
スーパーの袋、夜20時。
ココからは徒歩10分ぐらい、計算すると19時半頃にそれを買ったことになる――
つまり。
「……確かに、刺身が半額の時間帯だったね(名推理)」
「ええ。そうなの」
「あやののテストしゅーりょーいわい!」
「ははは、かのんちゃんも頑張ってたよ」
「えへへー」
ああ、本当に癒される。
きっとかのんちゃんはものすんごい美人に育つんだろう。
でも――今は子供だ。ひたすらに可愛い(不審者)。
「……それは、一人で食べるの?」
「え、ああ……」
そうか。もう家に誰もいないの知ってるもんな。
その質問は当然かもしれない。
「いちにーはひとりなの……?」
「え」
と思ったら視線の下からも声がかかる。
今“いちにー”って言ったよな。にじいろのおにいちゃんからグレードアップした(感涙)。
「……いっしょにたべよ!」
そして。
そんな笑顔で言われたら、断れるはずもない。
「ええ。それが良いと思うわ」
……そして。
彼女も、なぜか乗り気だった。
こんなの断ったら地獄行きです。
☆
訪問したのは二回目の如月家。
そして今、俺の持ち寄った寿司(?)を見せている。
テーブルに広げるのは――18貫のシャリ。
すげぇ。輝いてるよこの米達……!
あとサラダ2つ。何もかも中途半端。せめて3つだろ(あてのない怒り)。
「……?」
「……?」
「……理由は聞かないで」
さすが姉妹。反応が同じだ。口を大きく開けて固まっている。
唖然とした顔も、コレだけ顔が整っていると凄い。絵画みたい。
タイトルは――『米の衝撃』。多分5億で売れる。
「おさしみのせて! おすしにしよ!」
「あ、いいわね」
「やはり天才か……(恐)」
多分IQ3兆ぐらいある。
これからはかのんさんと呼ばせていただきます……。
「お味噌汁温めるから、ちょっとだけ待っててくれるかしら」
「はい(裏声)」
「ふふっ。おかまいなく」
「あそぼ! あそぼ!」
急に現れた如月さんの手料理にキョドる。
というかさっきから、彼女が凄い優しい。
そしてかのん先輩(5)がそう言うので、俺は上着を脱いだ。
彼女はおもちゃ箱からいつものステッキ(紙製)を取り出す……と思いきや。
「!?」
そこにあるのはキラキラと輝くプラスチックのステッキ。
おいおい本物じゃねーか! 買ってもらったのかな。
……俺はナイフ二刀流(折り紙製)。
「けんをかまえろー!」
「さぁ、復讐の時だ……(激キモ陰キャ怪人二号)」
確実に武器のスペックが違い過ぎるが気にしてはいけない!
☆
「……(消滅)」
ナイフは折れた。
ステッキは本物だけあって、ピカピカと輝き美しい。
こんなん紙で勝てるわけねーだろ(そもそも勝つ気はない)。
「ぁ…………(死)」
「きゃっきゃっ」
ご満悦のかのん様(5)。
仕方ない。もっと“楽しませる”か……!
「オオオ……(仲間の復讐心により死を超越)」
「きゃっきゃっ!」
「ぐっ……オレは死なんぞ……」
「たー!」
「
「たー!!」
「ううっ……○×フラッシュじゃないと俺は死なん(必死)……」
「あ!」
ハッとするかのんちゃん。
さあ来い! そしてもう物理攻撃は止めてくれ(切実)。
「○×ふらーっしゅ!!(杖が光る)」
「ッ、ぐああああああ――――」
「……み、味噌汁温まったわよ」
「ごはん!!」
「あああ……(消滅不全)」
寸劇中に現れる如月さん。
恥ずかしさで消えてしまいそう。
まあ今更か(諦め)。
☆
「おいしかったー!! てれび!」
走り去るかのんちゃん。
食卓には俺と如月さんだけ。
アレから。
買ってきて貰った刺し身を、シャリの上に乗せて食べ尽くした。
美味しかった。
でも、一番美味しかったのは――
「……マジでうっま(衝撃)」
「もう。褒め過ぎよ」
彼女が作ったであろう味噌汁。
多分赤出汁だろう、お寿司によく合っていた。
それ以上に――なんというか、温かったのだ。
……その、アレだ。
お袋の味的な。
「……」
「そ、そんなにかしら」
「うん(大真面目)」
というか。
きっと俺はそれに飢えてたんだろう。
温かい、その味に。
「如月さんは、親は仕事で遅いんだね」
「ええ。だからずっとご飯は私が作ってるの」
なるほど、だからだろうな。
俺とは違って苦労してきたんだろう。
「如月さんは凄いね」
「料理好きなの。かのんの世話も好きでやってるのよ」
「そうなんだ」
「ええ。それに親の休みもあるし、貴方みたいに……その、ずっとじゃないから」
「はは、でも俺は一人だから」
「……そっちの方が私は大変だと思うわよ」
「そうかな」
「ええ。私なら耐えられない」
……世話好きならそうかもしれない。
俺は特にそうじゃないからな。
一人が好きな自分なら――いや、それは違う。だったらあの一人の帰り道、寂しくなんてなってない。
家庭の味に近いコレを飲んで、軽く感動したのも。
今、暖かい空間の居心地が愛しいのも。
全部、コレまでの悲しい一人の時間があるからだ。
ああ。
本当に贅沢な人間になってしまった。
「まぁ……確かに。ちょっと辛く感じるかも」
「!」
思わず呟く。
素直な声。
こんな暖かい空間だったからこそ、それはスッと現れた――
「――貴方なら」
「え?」
遠くの部屋、テレビから聞こえるアニメキャラの声。
湯気が立ち上る手元の味噌汁。
ちゃぶ台。足に伝わる畳の感触。
そんな如月さんの家で。
彼女が、俺の目を真っすぐ見て言う。
「辛くなったら、来ていいわよ」
「……今なんて?」
耳壊れた?
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