一学期中間試験・結果発表
――キーンコーンカーン
その鐘は、全てのテストが終了した事を知らせるモノ。
10分前には見直しも終わって、それを待つだけだったが。
「はーい答案回収しまーす」
「「「……はぁ……」」」
クラスメイトのため息がこだます。
もちろん俺もそのうちの一人。
「……疲れたな」
思えばあっという間だった。
ひたすら部屋にこもって勉強するのも。
この机でテストを受けたのも。
気付けば一瞬で――
☆
一週間後。
久しぶりの土曜日は、ひたすらに寝た。
久しぶりの日曜日は、予約していた乗馬体験に行っていた。
未だに筋肉痛。
雑念があったせいで苦労した。
でも楽しかったな。
そして学校。
月曜、火曜、水曜。
テスト後の教室は、また静かだ。
結構な進学校とあって――成績には結構敏感だろうから。授業中もソワソワ。
もちろん俺もその一人。元々静かなんですがね。
して、今日。
――ガヤガヤ。
中庭。
普段はあまり人が居ないその場所も、今日は人がいっぱいだ。
理由は、テスト結果上位者20名がその掲示板に張り出されるから。
普通テスト結果は今日、これから答案を授業で返されて初めてわかるんだけど――上位者に限っては別。
朝一番、上位に食い込んだ者はココで優越感と安心感に浸れるというわけ。
結果発表という気になって仕方ないイベントを、先取りできるのだ。
「うわぁー今回も20位以内は無理だったかー!!」
「はぁ……」
「結構頑張ったのになぁ」
「いよっしゃー俺19位! 19位だ!!」
「マジかよスゲー」
「おい、あれ見ろよ――」
騒いでいる生徒達。
その人混みを見ているだけで胸騒ぎ。
《――「順位は、絶対に落とさない」――》
《――「俺を甘く見過ぎだよ。初音さん」――》
《――「俺の唯一の取柄は、“学力”なんだから」――》
刻まれた宣言がぶり返す。
震える足で、俺は人波へ突っ込んだ。
そして――目に映る。
その、順位が。
☆
☆
「……桃、大丈夫?」
「……うん」
テストから一週間。
東町君の教えもあって、私はかなり良い感じだわ。
いや、教えてくれた事もあるけれど――それ以上に。
《――「がんばろ、あやのん」――》
あの日、勉強会の後から桃が変わった。
《――「一緒に勉強しよ!」――》
家に帰ったと思ったら、鳴るインターホン。
必死な表情で、家に上がってそう彼女は言った。
かのんは帰ってきていた母親に任せ……深夜まで勉強。
結局泊まっていって、また翌日も同じように家に来て勉強。
普段お泊り会はよくするけれど、今回は別だった。
明らかに、勉強に熱が入っていた。
こんな事――ありえなかったのに。
《――「いっちも、頑張ってるから……」――》
《――「せっかく教えてくれたから」――》
《――「ね、あやのん。一緒にがんばろ?」――》
……その声と表情に、私は当然頷いた。
赤点回避すれば良いかしら……なんて思っていたけれど。
親友がそこまで頑張るのなら、私も頑張らなきゃ――そう思った。
そして迎えたテストの上位者発表会。
中庭には、人がごった返している。
でも私達は――朝、教室。
「……うぅ。準備出来てない……」
「心の?」
「うん……」
ずっとこんな感じね。
気になるのなら見に行けばいいのに。
「見に行って……あやのん……」
「もう。仕方ないわね」
見に行く気配がないので、私は教室を出て階段を下りる。
いつもとは違う学校の雰囲気。
私も桃も、普段と違う。なんせ今回は勉強をいつもより頑張ったから。
でも一番は。
“彼”の成績が気になるからだ。
――ガヤガヤ
その人込み。
掲示板に、群がる生徒達。
そしてその中――虹色の頭。
東町君。
その表情は、人の影で見えない。
――ガヤガヤ
近付いて——話しかける前に。
人の波の中、掲示板を眺める彼と同じ様に、私もそれを見た。
□
二位
三位
四位
五位
□
視界を上に、上にすると、出てくる知らない人の名前。
《——「いっち、学年五位なんだよ。頭良いのうらやまし〜」——》
そう言っていた桃。
そこに彼の名前は無かった。
……でも。その代わりに——
□
一位
□
まるで空に輝く星の様に。
頂上——彼の名前があった。
「……凄い」
思わず漏れる。
そして、そのまま彼の元に駆けていく。
「——あ」
「凄いじゃない! 一位なんて!」
未だに掲示板を眺める彼に声を掛けた。
……あら? 急に前髪伸びたわね、東町君。気のせいかしら?
ふふっ、それでも凄く驚いてるのは分かるけれど。
「——っ」
そしてすぐに掲示板に顔を戻した。
そんなに信じられないのかしら。
「まあ、運が良かったかな」
「それを生徒達に言ったらどうなるかしら」
「確かに。俺の実力……って言うとアレだよね」
「それ以外にないわよ」
「ありがとう。じゃあ——余裕だった」
「ふふ。急に態度変わりすぎだわ」
「実際そうだからね」
「最初からそう言えば良いのに。変な人ね……ふふっ」
《——「いっち、もしかしたら成績下がっちゃうかも……」——》
《——「わたし達の為に、色々準備してくれてたの」——》
《——「わたしが勉強会なんて誘ったから。貴重な土日なのに」——》
そんな桃の不安は、すぐに消し飛ぶことだろう。
本当に要らない心配だったみたいね。
「一位を取るなんて、どれだけ勉強したの?」
「はは、余裕って言ったでしょ。一年の頃より、ほんのちょっとだけ頑張ったけど」
「……そうなのね」
笑い飛ばす彼。
なんとなく、嘘だと分かった。
テスト期間中、彼の顔を見ていたら——このテストへの入れ込み具合が分かったから。
「ただの自己満足だから。中間テストで良い点取った所で、大学に受かる訳ではないし」
……きっとこれも。
「二年になったから。一年よりは頑張らないとなーなんて。軽い気持ちだよ」
……これも。
「だからまた勉強会誘って欲しいな、なんて」
……そしてこのセリフだけ、声に力が入っていた。きっと嘘じゃない。
「私はまた教えて欲しいわよ。あ、そうだ東町君。桃が心配してたけれど」
「……そうなんだ。なんでかな」
ふと過ぎった彼女の顔。
勉強会後、落ち込んだ様子の桃の事。
テスト前——チラチラと、心配そうに東町君を見ていた彼女。
「ねぇ、貴方は桃の為に……今回のテストを――」
それを見てきた私は。
つい、そんなことを聞いていて。
「違うよ」
返ってくる。
そんな、当たり前の台詞が。
「そう、よね」
「自分の為以外に、テストを頑張る理由なんてないから。俺が頑張ったら他が落ちる訳だし」
「……そうだけれど」
「うん」
それだけ言って彼は、その人並みへと消えていく――
「——でも」
前に。
「二人のおかげでもあるんだ。この結果は」
「……え?」
「だから――ありがとう」
その時。
彼は、静かに言った。
喜びを噛みしめる様に。
背中を向けていて表情は分からないけれど――その声で分かる。
「あの勉強会があったから、俺は一位になれたんだ」
気遣ってなどいない。嘘じゃない。
きっと本心からのそれに。
私は、すぐに声が出なかった。
「ど、どういたしまして」
「うん。それじゃ」
去っていく彼。
その声が心の中に残っている。
強く。強く。
「東町君」
一番上のその名。
私はもう一度、掲示板の彼を見て。
「本当に……不思議な人」
呟いた声は、すぐに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます