ブルー・スクリーン


「ぱ、パン買ってきましょうか」

「は?」

「ふはははは! とーまちが下っ端みたいになってる!」


アレから結局、ビビリながら席に戻った。

とりあえずパシられようと(意味不明)夢咲さんにそう言った所だ。


「ほんとすんません……」

「うっせぇんだよ、何も聞いてねぇって言ってるだろうが」

「嘘だよ☆ ほんとは立ち止まってコソコソ最初から聞いてたよ☆」

「オイ!!」

「(死)」


やっべぇどうすんだよこれ(絶望)。


「……ちょっとってのは、本当にカスみたいにちょっとって意味で……」

「アタシがカス?」

「えぇ……(涙目)」

「ふははははは! (魔王)」


そこだけ切り取らないで。

あと後ろで柊さんが笑う度不機嫌になってるんだよ! 黙ってくれ(土下座)。


「……アタシが怖いのなんて理解してんだよ。だからその態度は止めろ、不愉快」

「す、すいません」

「ソレを止めろっつってんだ」


……えっと、つまり。

敬語を止めろと。


「これで、良いかな……」

「……フンッ」


あ、ちょっと機嫌治った。

でもまだいつもの感じじゃない。


これは——もっと行けって事か。

もっと踏み込めと。


俺の雑談力で、この場を盛り上げるとするか……(覚醒)。


「夢咲さんは趣味ってあるの(唐突)」

「男遊び☆」

「はぁ!? ざけんなよリオ!」

「そうなんだ(引)」

「いや違ぇよ!!」


キーンコーン——


夢咲産突っ込み(希少品)が入った所で鐘が鳴る。


教室の片隅。

そこは恐らく、かなりうるさかっただろう。

そしてその大元である柊さんがやっと帰っていった(安堵)。


「……」


頬杖を付いてHLを待つ夢咲さん。

でも彼女とこんなに話したのは初めてかもな。

実際に言葉を交してみたら、案外怖さは感じない。


「——オイ」

「はい(恐怖)」

「……アタシは音楽が好きだから。男は……興味ねぇ」

「え」

「おかしいかよ」

「あ、いや俺も好きだよ。良いよね音楽」

「てめーはどういうのが……好きなんだよ」

「えっと。歌詞が無いドラムンベースとか最近好きかも……ダンスに合うからってのもあるけど」


びっくりした。

彼女から話しかけてきたのなんてクラブぶりじゃないか……?


「……おう」


そう言って、彼女はまた前を向く。

会話はそこで終わったが——不思議と気まずい雰囲気では全く無かった。


よし、楽しく話せたな!(多分)。





「えー、来週から中間テストですが」


「「「……」」」


「もーみんなそんな嫌がらないでよ」


……。

そう、テストである。


HL開始直後、そう言った先生に黙り込む生徒達。

そうだ、偏差値が高いからといって勉強が好きな人はほとんど居ない。

いって俺も好きかと言われると微妙だ。

でも取柄があるのが学力ぐらいだからね俺は、今回も頑張らなくては。



キーンコーンカーン——


「「「……」」」


既に三限が終わり、休憩。

テストが近いクラスメイト達は、一気に静かになる。

普通なら雑談を始めたり賑やかになる教室は、この時だけは別だ。


というかこの中で騒げば、間違いなく嫌な目で見られる事になる。

見ろ……魔王ですら静かだぞ。

平穏だ! 世界に平和が訪れた!!


テストは勇者だった? (最有力説)。

さて、この“静寂”を楽しみますかね――――



「いっちー!」

「!?!?!? (椅子から滑り落ちる)」


唐突に感じる感触。甘い匂い。

後ろから肩を持たれ、驚きすぎて落ちてしまった。



「「「……」」」



迫る『静かにしろよ』的な目線。

おおおおおあああああああ!(悶絶)



「……だ、大丈夫!?」

「死にそう(うん、大丈夫だよ)」

「どっち……?」


座り直して、初音さんに向き直る。

見れば後ろに如月さんも居た。


「ごめんなさいね、桃って悪戯好きで……」

「良いよ(食い気味)」

「……なんかいっちって、あやのんに弱いよね」

「そんなことは……ないよ(大嘘)」


ジト目に思わず目を背ける。

そりゃ弱い。仕方ないね(諦め)。


「で、どうしたの(完璧過ぎる話題転換)」

「……まあいっか。えっと、日曜日空いてないかなって」


「え」

「学年五位のいっちに教えてもらおう、って!」

「ごめんなさいね、嫌なら断って良いのよ」


頭が追いつかない。

つまりどういうことだ?

唸れ俺のCPU——


「???(放熱不能・動作停止)」

「ついでにいっちの家も行きたいし、そこで勉強会しよう〜! って!」

「……や、やっぱり駄目よ桃。東町君にも悪いし——」


「良いよ(脊髄反射)」

「やった~!」


いや何言ってんだ俺。

彼女の申し訳なさそうな顔に思わず返事したけど。


家に来るって? 俺以外が? 家族じゃなくて?


「……(ブルースクリーン)」


「いっちが壊れちゃった」

「あっ休憩終わるわよ桃。それじゃ東町君、また予定とか決めましょう」


フェードアウトしていく声。

……未だに、現実味がない。


この世界は夢か……?




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