いつもの朝


朝。

今日も豆からこだわったコーヒーをれ――昨晩の夜ご飯であるカレーを温める。

ナンはどこ行ったって? 今日は米で食います(日本人の鑑)。


五月の中旬、少しづつ温度は上がっていく。

というか暑いなもう。


「……っ、はぁ。いただきます」


ダンス練習を終えて、朝飯にありつく。

ちょっとだけ急いで。


その理由は二つある。

まず一つは――最近始めた創作活動をする為。



「テンション上がってきた(興奮)」



俺は、部屋の一角にある『箱』の中に入る。

詳しく言うと一人用テント。

腕を回せるぐらいの個室がそこにあるのだ。


「……よし」


落ち着く暗室の中、俺はペンを取る。

……ああ。ようやくこの部屋を有効活用出来るよ。


自分は親のおかげで、結構良いマンションに住まわせてもらっている。

比較的広い1LDK(11畳ある)の為、勿体無いぐらい。


《――「これならいっぱいお友達が来ても大丈夫ね」――》

《――「ママ、分かって言ってるの……? 一兄はじめにいだよ……?」――》


思い出す、この物件を紹介してくれた母親の言葉。

苦虫を嚙み潰したような妹の顔が今でも頭に残っている(トラウマ)。

俺はしっかりと狭い部屋で良いって言いましたけどもね。


しかし昨日! 届いたそれを組み立ててLDKの部屋に設置。

最高ですよコレは(惚)。大人の秘密基地って感じ。

とりあえず朝のお絵かき練習と行きますか……。





「集中し過ぎた……っ!」



個室は気が散らないが為、時間の感覚も馬鹿になっていた(恐怖)。

見れば予定時刻五分オーバー。

急いで着替えて学校へ。



――「うわすご、アレ」「あんな人居たっけ?」「でもアレ星丘でしょ」——



いつもと違う時間帯の電車の為、また目線集中。

駅から降りたらもっと集中。

学校が近くなったらもっとry以下略


良いぞ、更に俺を見ろ(不審者)。

……なんて冗談を心の中で言える程にはなった。


人間って、本当に“慣れる”生き物だと思いませんか(誰)。



「――あ! いっちだ~! おはよう~」



俺が、急いで家を出た理由。

その二つ目は――彼女、初音さんと朝に話す為である。

如月さんは遅めに登校するから、このホームルーム前15分ぐらいは彼女と話せる時間があるのだ。



「おはよう」


「? なんか嬉しそうだね」



そりゃそうだ。

友達と朝から話すなんて、コレまでなかったんだから。



「……今日は、珈琲が旨くれられたからかな」

「はえ~」



人間は、慣れる生き物だ。

でも朝のこの時間は――まだまだ慣れる事はないだろう。





「……」

「……?」



いやいや何話すの? 

ホームルーム前、友達と話す内容って何なの?

今日の天気とかですか(よりにもよって曇天模様)。


「あっそういえば昨日のDVD見ました」

「なんで敬語なの~?」


「あ、あー……」


思わず詰まる。

こうなると言葉が出てこなくなる。

おかしい、あんなに楽しみにしてたんだけど。というか前までは普通に話してたのに!


いや、だからこそか。

本当――こういうとこやぞ(一年間友達ゼロ)。



「なんかいっち今日変だね! いつも変だけど!」

「うん、そうだね(脊髄せきずい反射)」

「認めちゃったぁ~!」



あのギャル二人組からいじられまくられたせいか、その台詞だけはスッと出た。

何か凄い情けない気がする(今更)。

でも、彼女は笑ってくれた。


……ありがとう、夢咲さんと柊さん。

ちょっとだけ緊張が解れた気がする。



「それ……そういえばいっちって、あー、隣の二人と仲良いよね」

「え」



今度は彼女の声が震えていた。

でも、思えば奇妙きみょうな関係性だ。



「意外、だな~って」

「まあ確かに……」


「正直相容あいいれない存在的な~」

「……うーん」


そう言う初音さん。

それは少し違うと思うんだ。


彼女達は正真正銘陽キャで。一方はどうしようもない陰キャで。


でも――



「俺は彼女達の事、結構好きだよ」

「え」


「柊さんはいじくってくるし、夢咲さんはちょっと怖いけど。二人ってよく笑うから――」



柊さん、夢咲さんも。

こんな俺と話して笑ってくれるのは嬉しい。

疲れる時もあるけれども(飢え)。


魔王とかヤンキーとか心の中で言ってごめんなさい。

いざ思えば、仲間にしたら戦闘力高そうな二人だな(クソ失礼)。


「あ、あ……」

「?」


言い切って気付く。

初音さんが、何故か固まっていることに。



「……い、いっち。後ろ……」

「え゛」



その瞬間。

俺は、命の危機を感じた。



「やっほー☆」

「……」



背後、明るい声が一つとあつが一人。

怖かった。

ギギギと、首が油を切らした機械の様に後ろを向く。


そうだ――当たり前だろ。

同じクラスメイトなんだから、教室に入ってくるに決まってるのに。

なんで俺は、あんな事を!



「……お、おはよう」


「全部聞いちゃった~☆」

「……聞いてねぇよ。何も」



いや絶対聞いてる(絶望)。

柊さんはいつも通りだけど。むしろ凄い笑ってるんだけど(第六天魔王)。

夢咲さん、そっぽ向いちゃってる……。



《――「柊さんは弄ってくるし、夢咲さんはちょっと怖いけど」――》



“ちょっと怖いけど”。


“怖いけど”。


――すいません無かった事にできませんか(タイムリープ)。

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