「——大好き!」



朝。

冷蔵庫、五本並べた天然水のペットボトル。

ラベルは剥がされたそれを、目を閉じながらランダムサンプリング(言いたいだけ)、グイっと飲む。


「……これはクリス○ルガ○ザー」


底を見る。張られた付箋を捲ると、言った名前の文字が書かれてある。

当たり。

最近はかなり的中率が高くなってきたね。



「よっし、行くか」



俺は飾った九人兄弟の鶴達(またまた増えた)に見守られ、玄関から飛び出す。

今では少し楽しみになった、学校へ行く為に。




――「……」「……」「……」――



未だに俺の髪色に慣れてない者は結構多い(何様)。

校門でも廊下でも。教室に向かうまで、何度も視線を向けられてきた。


ぶっちゃけ虹色の髪が高校生で許されるとは思わなかったが、そこは現代の風紀概念に感謝。

あとはここの校風。流石に俺の影響で生徒達が一気に髪を染める事はないだろう。

実際9割は黒髪だし。

全生徒がレインボーとかになったら流石に責任取ります(悪夢)。


時刻は8時15分。

俺はそんな視線を浴びながら、教室へと入った。

昨日と同じ――“前”の扉から。



「――あ! いっちだ~!」



思わず口元が緩む。

女の子の元気な声が、扉をくぐれば掛かってくる。


そのおかげで――今なお向けられる他者の視線は気にならない。


「おはよう」

「おはよ~!」


初音さんの席の前に行き、立ったまま話す。


「そういえば、如月さんとは一緒に来ないんだ」

「わたしバスケ部の朝練あるからね~」

「なるほど」

「……というか、あやのんって結構時間にルーズだし。多分一緒に登校はムリ~」


意外だ。

と思ったけど、そういえばいつも来るの始業時間ギリギリだったな。


「そこはまあ、かのんちゃんに色々と手を焼いて……」

「かのんちゃんの方が多分しっかりしてるよ」

「そうなんだ……」

「うん。あはは、反面教師的な~?」

「な、なるほど」


彼女の事が好きだった時の俺は、勝手に如月さんを神格化していたのだろう。

愚かである。


「……あやのんの事が気になるのですか~?」

「どう答えても変な感じになるよねそれ」

「……ふーん」


ジト目になる彼女。


《――「……俺、初音さんともっと仲良くなりたい」――》


あの台詞を言う前と。

彼女のそれは、ほんの少し同じ様な表情に見えた。

 

「話題を変えよう(完璧な話題転換)」

「答えて」


「う」

「じ~」


俺が蛆虫うじむしだと言いたいのだろうか(被害妄想)。

はい!(肯定)。


プランC。もう正直に話そう。


「俺……ちょっとした夢だったんだ、“友達”と一緒に登校するの」

「へ」

「如月さんと来ないか尋ねたのは、その……たまには、初音さんと時間合わせて行けないかって……思って」

「!」

「淡い期待で聞いた。ごめん、変な勘違いさせて」


超恥ずかしい。

でも勘違いが起きるよりはマシ――


「――いっ、行ける!!」

「え」

「毎週水曜は朝練お休みだから。わたしも、いっちと一緒に行きたい……」

「マジっすか(衝撃により語尾変更)」

「……うん」


あの、友達との登校イベントが俺なんかに発生するだと?

信じられない――


なんて思ったら、ふとももをツネって現実を実感。

痛い!!!

俺は死んでない(生存確認)。


「……ね。いっち」

「?」

「あやのんって、映画とか、漫画とか見なくて」

「うん」

「お昼にわたしといっちで盛り上がったら、あやのんが可哀想でね」

「そうだね」


初音さんは優しい。

昼休みには、親友である如月さんとの時間を尊重したいということだろう。


当然だ。俺は、そんな二人の邪魔をしたいと思わない。


「だから……その~そういう話は、二人の時だけでしたいなって」

「もちろん良いよ」

「……でもわたし部活あるし、あんまりいっちと話せなくて」

「うん」

「どうしようかなって……悩んでた」


一瞬分からなかった。

どうして、俺なんかにそこまで考えてくれていたのか。


きっとその理解不能の訳は、己への『卑下ひげ』だ。

ずっと友達が居なかったから。

面白くない人間だったから。


変われなかった自分が、酷く醜いものだったから。


――でも今、この教室で。

安価行動を続けて。スレの住民に相談して――この瞬間。

目の前には、俺とここまで話したいと思ってくれる人が居る。




「っ」

「どうしたの? いっち」



前を見ろ。その目を見て、口を開くんだ。



自信を持てよ、東町一とうまちはじめ

今のお前には――『会いたい』と思ってくれる人が居るんだから。




「放課後」

「……へ?」

「昨日と同じ様に待ってるから」


「それって、どういう」

「初音さんが俺と話したい時は、連絡くれたら俺が駅まで行って一緒に帰る」

「い~いやいや! 都合良すぎて悪いよ。凄く嬉しいけど」

「気にしないで」

「で、でも」


……違うんだ。

ここまでしたい程、自分は――



「俺が、初音さんと話したいから」



キーンコーンカーン――――


そんな、思わず出た言葉をかき消す様にホームルーム開始五分前の予鈴が鳴る。



「……もう時間か、それじゃ。そういうことでよろしく……」

「――待って!」

「な、何?」


頼む行かせてくれ(恥ずかしい)。

重い男を腕を持って引き留める彼女。



「……ありがと、いっち!」



そんな台詞と、満面の笑み。

それは、まるで。

季節外れの向日葵ひまわりが咲いた様な。


それが、己の言葉で引き起こされたモノだとは思えない程。

それは元気が出て、可愛くて、魅力的な表情で。




「――大好き!」




その声が、教室に響き渡った。





▼作者あとがき


今日はもう一話投稿します。

夜九時頃予定。

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