一歩


何事も、踏み出せば一瞬だ。

虹色に髪を染めるのも、新たな趣味を始めるのも。


ああいや、ボトルシップだけはまだまだ完成しないが――



「おはよう初音さん」


友達に、朝話しかけるのも一瞬だ。


「……へ?」


驚いている初音さん。

いつもは視線が気になるから教室の後ろから入るんだけど。

今日は前から。

なぜかって、廊下側の一番前が彼女の席だから。



「如月さんはまだなんだね」

「えっあ、うん……」


「昨日はごめんね、俺友達とか居なかったからいつも電源切ってたんだ」

「そ、そうだったんだ」


「あのさ、初音さん」

「ななななんでしょう」



昨日の電話よりも輪をかけてワタワタしている彼女。

そんな初音さんを見て、少し戸惑ったが。


「今日の放課後空いてる?」

「!? えっと、部活終わったら……」


「“昨日”と同じ時間と場所で良い?」

「は、はい。大丈夫です……」


敬語になっちゃったよ。

流石に戸惑いが勝つな。


「嫌だったら良いよ」

「い――嫌じゃない!」


「ありがとう。それじゃ、待ってるから」



その否定が、嬉しかった。

そしてそのまま――俺は彼女の席から離れる。



「……」




あああああああ!!!


めちゃくちゃ緊張したー!!!


断られなくて良かった!!!



――「「「……」」」――



視線を教室全体に向ければ、

クラスの男子、女子。

喋った事のない者達が、何人か視線を向けていたけれど。


「――っ」


そのまま真っ直ぐ自席へ戻った。

ははは、そんなに俺の髪が美しいかい(無敵)。



「おはよーとーまち!」

「……おう」


「おはよう。二人ともいつも通りだね」


「あ? ……なんか今日雰囲気違うな」

「確かにー☆ キリッとしてる」


席に着けば、二人のギャルが話しかけてくる。

思えば彼女達のおかげで、変に度胸が手に入ったのかもしれない。


「ははっ、そうかな(無敵)」


「あ、寝癖付いてる! そのせいだー☆」

「お前まさか……」

「ホテル帰りだね☆」

「ッ……草食じゃなかったのかよ」


「え?」



勘違い起きちゃってるねコレ。


Just a minuteちょっとまった、二人とも」


とりあえずドヤ顔しとくか。


「キモ」

「……やっぱりいつも通りだった☆」


「……」


無敵時間終了のお知らせ(死)。





一限、二限三限。

四限、昼休み。五限六限。


帰宅。あっと言う間だった。

そして今――駅に居る。





【>>5で俺は変わろうと思う Pert8】


50:名前:1

どうも重い男です

今から言ってた友達と話してくる


51:名前:恋する名無しさん

がんばれ 暴走するんじゃないぞ


52:名前:1

……がんばります


53:名前:恋する名無しさん

重そう


54:名前:恋する名無しさん

ゾウより重そう


55:名前:恋する名無しさん

1乗せた原付とトラック衝突したら1が勝ちそう


56:名前:恋する名無しさん

何と闘ってるんだよWWW


57:名前:恋する名無しさん

世界で一番重いのは もう愛していない女性の身体(ヴォーヴナルグ並感)


58:名前:恋する名無しさん

>>57

強い

これは流石に1の負け


59:名前:1

なんで勝手に敗北してるんだ……?





「……そろそろ時間だな」



スマホの液晶には19:00。精神安定剤(掲示板)を閉じ――空を眺める。

初音さんとの待ち合わせ時間までもうすぐ。

だが不思議と昨日の様な不安は無い。


どこか、確信めいた答えがあったから。

吹っ切れたって感じかもしれない。



「……」



空を見る。

今日は快晴、踊りたくなる程に(不審者情報)。


……ん?



「あれ……如月さん?」



駅から真っ直ぐ。

その姿は見えた。


恐らくスーパー帰り、手には荷物。

そしてもう片方の手に小さな手。

かのんちゃんだ。


……今日は、すまないがこの髪はお役御免だな。


「……と」


用意していたニット帽を被る。

虹色の髪が隠れ――こうなった以上、俺は誰にも見つけられない(隠密レベル上限)。



「ポポ」

「お」



ベンチに座り、彼女を待っていると鳩が来た。どうやら俺が空気過ぎて存在に気付いていないらしい。


俺が捕食者だったらどうするんだ(草食系男子)。



「ポポッ」

「ポポ……」

「ポポポ」


「えっ(不穏)」


……来過ぎじゃね?

いや俺の足! つま先のってる!

スマホの上にはやめて!


意外と重量あるんだな鳥って。

まあ俺の方が重いから勝ちだけどね(鳥と張り合う男)。



「……」

「あ」



と思ったら、身長が高めの少女が見ていた。

部活帰りだろう――少し朝よりも髪が乱れている。



「どうも」

「ぅ……うん」



さあ、後は楽しく話して帰るだけだ。

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