AM7:00


夜中、時刻は既に23時。

読書に勉強……夜ご飯も作って、珈琲を淹れて。

食後しばらくしたらダンスで身体を動かしてから(下の階に迷惑にならない様に)、半身浴。


今は机で作業中。


「……ふぅ」


完成まで恐らく70%となったボトルシップ。

帆のパーツである小さい木片を、すりすりと磨いて微調整。

それだけで時間はかなり経ってしまう。だが、それのおかげで大分精神は落ち着いた。

趣味ってのは良いものである(再確認)。



「……今日の分は終わり、と」



大事に机の奥にそれを仕舞って、息を付く。


重い男であることは後悔したが、今はある意味開き直れた。

そもそも会話が苦手なんだ。仕方ない仕方ない。

なにより過ぎた事はどうにもならない……そうスレで励まされた。

やっぱりアイツらが居てよかった(クソ重い男)。


元々友達なんてゼロ。スタート地点から転がり落ちる事はない。

むしろマイナスって何? 負けた数と書いて負数マイナス。なんか親近感湧いてきた(数字は友達!)――



「――あれ?」



スマートフォン。ソシャゲとかは飽きて今やってるものも無い。

友達が居ない俺は、基本通知なんて来ないので、電源も勿体ないからいつも切っていた。

掲示板とか調べものとかは持ってるパソコンで出来るし。


しかし一応寝る前に、親からの連絡の確認の為電源を付けている。

すると――見慣れない表示が一つ。



《不在着信:2件》


「……え」


《伝言:1件》

《TEL――》



『あ、もしもし……』

「!」



伝言の再生なんてしたことが無かった。

操作に手こずりながらも――なんとか再生。


すると、初音さんの声。



『……ごめんなさい』

「……(理解)(即死)」



初音さんからそう声が掛かった。背筋がぞっとして、頭が冷える。

もうその言葉が死刑宣告の様に思えた。

アレから開き直ったとか落ち着いたとか思っていたのは気のせいだった。


やっぱり重すぎて嫌だったのかな。

せっかく出来た友達だったのに。

暴走した己が憎過ぎて自壊してしまいそうだ。

来世は微生物になりたい(ミジンコ)。


『ごめんなさい! 酷いこと言ってごめんなさい。えっと。えっと……』

「えっ」


と思っていたら、追加で掛かる声。

(友達としての関係はもう)ごめんなさい――って勝手に翻訳してたけど違うらしい。


一体なんでそんなに謝るんだろうか。



『えっと、あー……あれ? 話すこと飛んじゃった……』


『ああ! な、名乗るの忘れてた、初音です。初音桃でした――』


『あれ? 切れない切れない……ああもう!』


《――伝言の再生を終了します》



そんな音と共に強引に切れる。

……。

とりあえず、ワタワタしていたのは声越しで分かったけれど。



「……嫌われたなら、あんな伝言はしてこないか」



自分を納得させるようにそう呟く。

人の心は読めない。

初音さんがどう思ってるかなんて分からないけれど。


「3%ぐらい進めて寝よ……」


この時間だし掛け直す事は出来ない。

落ち着いたはずの精神はまた乱れてしまった。ソレを落ち着ける為、俺はまたボトルシップに逃げ込んで――




「――!?」


起床。

気付けば、机で寝てしまっていた。


「ご、五時ね……」


まだ睡眠時間は取れる。

が――この感じ、間違いなく寝坊で遅刻する(確信)。

俺はこれまで無遅刻無欠席。この記録を途絶えさせる訳にはいかないのだ。


「よし、早めに行くか。自習室は空いてるし――」


その宣言のもと、いつもの朝の準備を開始。

学校到着予定時刻は7時。


大丈夫、何とかなるさ。

体感で睡眠時間3時間だが何とかなる。

休憩全部仮眠にすれば何とか(死)。



「行くか……」



重い体を起こして制服に着替えていく。

ボタンをしめる手がぎこちない。


結局のところ、このままだと“昨日”を思い出してナイーブになりそうだ。

というか今もそうなんだけど。

開き直ったつもりが、あの電話でぶり返した。


初音さんに顔を合わせる時、どんな風に振る舞えば良いんだろう、とか。

第一声は? そもそも声を掛けるのか? 挨拶すらまともに出来ない俺が?

ずっとぼっちだった自分は、人との距離の詰め方が分からない――正解があれば教えてほしい!

思考の沼にはまるほど、学校へ行くのが怖くなる。


「……はぁ」


大きなため息を一つ。

頭も背中も椅子で寝たせいで痛いし。

眠たいし――って!


ああもう駄目だ、さっさと行こう!



「行くか――“地獄”に」



呟いて、俺は家を飛び出した。

どんよりとした、晴れない不安を背負いながら。




ウトウトと揺られ、到着したのは最寄り駅。

寝過ごしたら終わりの何時もと違って、今は余裕がある。

と思ったら席埋まってた。


ついてない。

いや、この時間じゃ社会人の人が多いのかな。

無知な俺が悪いですね。

いや、こんな朝早くに出てこなければいけない社会が悪い。


……しんど。

色々とうまくいかなくて、気が落ちてしまう。

寝不足のせいかな。



《――次は○×駅、○×駅》



結局電車内では一度も座れなかった。

こういうのが一番クる。

今後ずっと、こういう事ばっかりなのかな俺――



「はぁ」


「……っ!」

「え」



駅前――改札を出てため息を付く。

瞬間、びくっと動く影。


「え、椛さん?」

「……」


ペコっと頭を下げる彼女。

どうやら同じ時間の電車だった様だ。


「早くない?」

「……」


「あ、もしかして図書委員?」

「……」


「大変だね」

「……!」


「はは、そんなことない?」



何というか、表情で何言いたいか分かるようになってきた。

同類(クソ失礼)だからか、結構考えが似ているんだろうか。


後は前のゼロ距離文通のせいもあり、彼女の思考が分かってきたというのもある。



「……ん? 俺が早いのは、話すと長くなるんだけど」


「……聞いてくれる? ありがとう」



傍から見ればヤバい奴だが、しっかり隣には相槌を打つ椛さんが居る。

だから大丈夫。



「話したいのに、ずっと話せなくて。話したと思ったら間も悪くて。ついでに激重で。俺、どうしたら良いのか分からなくてさ――」



無言で聞いてくれる彼女に甘えて。

俺は、胸中をさらけ出した。


「ずっと、拭えない不安が張り付いて。どうにかなりそうで――」

「……」


前も話を聞いてくれたし。

別に誰かに話すとかしなさそうな安心感があって。

椛さんなら、別に良いかなと思ったから。



「…………」


うわぁすっごい悩んでくれてる。

さっきから五分ぐらいこの調子だ。

ここまで唸ってくれてるとこっちの気が楽になる。


……というかもう学校着くぞ。

いや着いた。


「も、椛さん。着いたよ」

「……!」


「聞いてくれてありがとう。凄い楽になった」

「……」


頬を紅くする椛さん。これは嬉しい顔だ。

正直ずっと愚痴を垂れ流してたから、申し訳なさしかなかったんだけど。

その表情を見ると安堵出来た。


イイ感じで別れられそうだな。

彼女と反対方向へ足先を向ける。



「じゃ、俺自習室行くよ。図書室はムリだしね」



ちなみに自習室は図書室の自習スペースとは全く違う部屋だ。


なぜいつもそっちを使わないかと言えば、単純に自習室が会話自由だから。

いうなれば、生徒同士の教え合いを許容しているのが自習室。

一人で黙々とやりたいなら私語厳禁の図書室って感じで。


ただ図書室はこの時間空いていない。

逆に自習室は鍵さえ借りれば誰でも入って良い。

よって、消去法で自習室に――



「――っ」

「え?」



服の裾が引っ張られる。

振り返れば、彼女が何かを言おうとしていて。



「図書室……ぼ、僕だけ、だから」



その声が、静寂の廊下へ響いていた。





▼作者あとがき


思ったより長くなったので、今日もう一話追加で投稿します。

今更ですが文字数バラバラで申し訳ない。

夜ごろ投稿予定です。



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