恥っず……
気付けば、手に持つ携帯が震えていた。
場所は我が家。
思わずスレを閉じ――その『応答』ボタンを押す。
「……もしもし」
「……」
「ごめんなさい俺情報商材とかに興味は(超早口)――」
「――何言ってるの」
「え」
「……」
今。
確かに、初音さんの声が聞こえた。
「俺、差出人書いて無かったよね」
「……映画のノート。結構癖あるから、いっちの文字って」
納得。
でも、そんな覚えてるもんなのか。
というか今、俺初音さんと話してるんだよな――
「えっと――」
「19時10分、駅に着くから。そこで待ってて」
そして切れた。
……とりあえず、話は出来そうだ。
☆
「……」
「……顔色
「!?」
「びっくりしすぎ」
ツンとした雰囲気の初音さんが、制服に身を包んで現れた。
ちょっとだけラフだ。部活終わりだからか?
「歩きながらで良い?」
「え、うん」
そのまま歩いていく。
速足の彼女に付いていった。
「なに」
「いや……」
いつになく鋭い声。
怒っている。でも――全く見当がつかない。
だから、いつも通り話すしかない訳で。
「今日はあやのんと一緒じゃないんだ」
「え」
「……」
「あ、如月さんから聞いたのか。昨日たまたま会ったから――」
「……」
「家までかのんちゃんを……おんぶしてたら寝ちゃって、そのまま家に上がったんだよね」
あれ、俺もしかして知らないうちに犯罪犯してた? 女子高生の家って勝手に上がったら刑法引っかかったっけ?
「その割に遅かったけど」
「……え? いや、かのんちゃんと遊んでて、如月さんはご飯作ってたからそれまで……」
おかしい。
まるで、その場を見ていたかの様な発言。
かつ、如月さんからは何も聞いてないような。
「……あやのん、可愛いよね」
「え?」
「かのんちゃんも、すっごく可愛い」
「それはそうだけど……」
さっきから、初音さんの様子がおかしい。
そして俺も。
どこか、胸が心地悪くなっている。
「あやのんって、本当モテるんだよね」
「……ソレは分かるよ」
「でも本人は鈍感で、というか男に興味がないというか」
「……うん」
ぼそぼそと話す彼女。
ああ、ダメだ。
さっきから、イラついている自分が居る。
「あやのんも危機感持ってほしいよね。ほんと」
「……」
「クラスメイトの男の子を、家にあげちゃうってのも」
「っ……!」
これは嫌味だ。でも、俺はそれにイラついているわけじゃない。
……さっきから何なんだよ。
ずっと、『彼女』の事ばっかり。
「は~。あやのんも罪な女の子だね――」
「――あのさ」
「! な、なに」
耐え切れなかった。
その苛立ちが爆発して――思わず立ち止まる。
驚いた顔の初音さんに、俺はそのまま口を開く。
「さっきから、なんで如月さんの事ばっかり……しかも暗い声で話すんだ?」
「え、いや。そりゃ――」
「不愉快なんだよ、ずっと」
思い描いていた彼女との会話は。
新作の映画の話とか、ハマっている漫画の話とか。
おすすめのアニメとか。
そんな――楽しい話題だった。
如月さんについて話すななんて思わないけど。そんなに楽しくなさそうな声で言われたら、きっと話題にしている彼女にも失礼だ。
「俺は――“初音さん”と話がしたい」
「!」
「友達になって、初めて話すんだから。嫌だよこんなの」
「……なんで」
「?」
「……うぅ」
小さい声を上げて、そのまま彼女は俯いた。
答えは分からない。
でも――
□
323:名前:1
その子ともっと仲良くなりたい
入学して、初めて出来た友達なんだ
□
その一レスが、紛れもない本心なら。
今、彼女に伝えたいコトは――
「……俺、初音さんともっと仲良くなりたい」
「初音さんの好きな映画とか。好きな食べ物とか。何でも良いから、もっと初音さんの事を教えてほしい」
「初音さんは、入学して初めて出来た友達だから――」
多分それは無意識に。
すっと――声に現れた。
「……なっ、なに、それ……っ」
俯いた初音さんが、背中を向けてそう呟いた。
その表情は見えない。
そのまま、俺を置いて歩いていく。
「――来ないでっ」
だから、反射的に追いかけようとした。
したら、そんな声が聞こえて足を止めた。
「今、顔、見られたくない」
「え」
「だから、横に、来ないでっ」
「わ……分かった」
言われたらそうするしかない。
広い歩道を、二人縦に並んで歩く奇妙な状況。
「……」
「……」
しばしの沈黙。
地面を歩く音と、環境音だけが響いていって。
やがて――見知ったその場所に着く。
前来た、初音さんの家だった。
「……それじゃ」
「あ、ああ……うん」
結局、まともに話せなかった。
彼女の表情も分からないまま。
「……また、明日」
たたっとそのマンションに入っていく彼女。
そんな小さい声を、最後に聞いて。
「……」
顔が熱くなっていく。
ヤバい。
今更ながら、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
引かれた?
いや――でも、アレから雰囲気変わったし。
いやいや、でも。
流石にあのセリフは――
「
せっかく出来た友達だったのに。
暴走した己が憎過ぎて自死してしまいそうだ。
来世は陽子になりたい(元素)。
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