恥っず……


気付けば、手に持つ携帯が震えていた。

場所は我が家。


思わずスレを閉じ――その『応答』ボタンを押す。



「……もしもし」

「……」


「ごめんなさい俺情報商材とかに興味は(超早口)――」

「――何言ってるの」


「え」

「……」



今。

確かに、初音さんの声が聞こえた。


「俺、差出人書いて無かったよね」

「……映画のノート。結構癖あるから、いっちの文字って」


納得。

でも、そんな覚えてるもんなのか。


というか今、俺初音さんと話してるんだよな――



「えっと――」

「19時10分、駅に着くから。そこで待ってて」



そして切れた。

……とりあえず、話は出来そうだ。





「……」

「……顔色わる


「!?」

「びっくりしすぎ」



ツンとした雰囲気の初音さんが、制服に身を包んで現れた。

ちょっとだけラフだ。部活終わりだからか?



「歩きながらで良い?」

「え、うん」



そのまま歩いていく。

速足の彼女に付いていった。


「なに」

「いや……」


いつになく鋭い声。

怒っている。でも――全く見当がつかない。


だから、いつも通り話すしかない訳で。


「今日はあやのんと一緒じゃないんだ」

「え」


「……」

「あ、如月さんから聞いたのか。昨日たまたま会ったから――」


「……」

「家までかのんちゃんを……おんぶしてたら寝ちゃって、そのまま家に上がったんだよね」


あれ、俺もしかして知らないうちに犯罪犯してた? 女子高生の家って勝手に上がったら刑法引っかかったっけ?


「その割に遅かったけど」

「……え? いや、かのんちゃんと遊んでて、如月さんはご飯作ってたからそれまで……」


おかしい。

まるで、その場を見ていたかの様な発言。

かつ、如月さんからは何も聞いてないような。


「……あやのん、可愛いよね」

「え?」


「かのんちゃんも、すっごく可愛い」

「それはそうだけど……」


さっきから、初音さんの様子がおかしい。

そして俺も。


どこか、胸が心地悪くなっている。


「あやのんって、本当モテるんだよね」

「……ソレは分かるよ」


「でも本人は鈍感で、というか男に興味がないというか」

「……うん」


ぼそぼそと話す彼女。

ああ、ダメだ。


さっきから、イラついている自分が居る。


「あやのんも危機感持ってほしいよね。ほんと」

「……」


「クラスメイトの男の子を、家にあげちゃうってのも」


「っ……!」



これは嫌味だ。でも、俺はそれにイラついているわけじゃない。


……さっきから何なんだよ。

ずっと、『彼女』の事ばっかり。



「は~。あやのんも罪な女の子だね――」

「――あのさ」


「! な、なに」



耐え切れなかった。

その苛立ちが爆発して――思わず立ち止まる。


驚いた顔の初音さんに、俺はそのまま口を開く。



「さっきから、なんで如月さんの事ばっかり……しかも暗い声で話すんだ?」


「え、いや。そりゃ――」

「不愉快なんだよ、ずっと」



思い描いていた彼女との会話は。


新作の映画の話とか、ハマっている漫画の話とか。

おすすめのアニメとか。

そんな――楽しい話題だった。


如月さんについて話すななんて思わないけど。そんなに楽しくなさそうな声で言われたら、きっと話題にしている彼女にも失礼だ。



「俺は――“初音さん”と話がしたい」

「!」


「友達になって、初めて話すんだから。嫌だよこんなの」

「……なんで」


「?」

「……うぅ」



小さい声を上げて、そのまま彼女は俯いた。

答えは分からない。


でも――




323:名前:1

その子ともっと仲良くなりたい

入学して、初めて出来た友達なんだ



その一レスが、紛れもない本心なら。

今、彼女に伝えたいコトは――



「……俺、初音さんともっと仲良くなりたい」


「初音さんの好きな映画とか。好きな食べ物とか。何でも良いから、もっと初音さんの事を教えてほしい」


「初音さんは、入学して初めて出来た友達だから――」



多分それは無意識に。

すっと――声に現れた。



「……なっ、なに、それ……っ」



俯いた初音さんが、背中を向けてそう呟いた。


その表情は見えない。


そのまま、俺を置いて歩いていく。



「――来ないでっ」



だから、反射的に追いかけようとした。

したら、そんな声が聞こえて足を止めた。



「今、顔、見られたくない」

「え」


「だから、横に、来ないでっ」

「わ……分かった」



言われたらそうするしかない。

広い歩道を、二人縦に並んで歩く奇妙な状況。


「……」

「……」


しばしの沈黙。

地面を歩く音と、環境音だけが響いていって。


やがて――見知ったその場所に着く。

前来た、初音さんの家だった。



「……それじゃ」

「あ、ああ……うん」



結局、まともに話せなかった。

彼女の表情も分からないまま。


「……また、明日」


たたっとそのマンションに入っていく彼女。

そんな小さい声を、最後に聞いて。


「……」


顔が熱くなっていく。

ヤバい。

今更ながら、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。


引かれた? 

いや――でも、アレから雰囲気変わったし。


いやいや、でも。

流石にあのセリフは――



っず……」



せっかく出来た友達だったのに。

暴走した己が憎過ぎて自死してしまいそうだ。


来世は陽子になりたい(元素)。

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