無限ループって怖くね?



『顔色が悪いです 大丈夫ですか』

「っ!?」



初めてだった。

彼女から――それを渡されるのは。

いや、昨日の授業で俺がヤケクソになってやった行為なんだけど。


「……」

『大丈夫じゃない』


紙の裏にそれを記していく。

それは、ちょっとしたおふざけのつもりだった。

でも――書いていてそうじゃなくなった。


今は少しでも、誰かに吐き出したかったんだと思う。

だからそのまま――ソレを滑らせた。


「……!」


それを見た瞬間、ワタワタしだす椛さん。

あれだ。スズメが一斉に飛び出した感じのアレ。


『僕で良ければ 相談に乗ります』

「!」


と思ったら、しっかりそれを新しい紙に書いて滑らせてきた。

そして広げればその言葉。


……僕っ子って存在してたんだ。

知らなかった。ちなみに紛れもなく椛さんは女の子である。


『それじゃ、隣に来てくれるかな』


とりあえず距離が遠いからね。

その内ミスしてしまいそうだ。

また裏にそれを書いて渡す。


……今思えば、かなり特殊な事してるな俺達。

でも――嬉しかった。

誰だよ悪魔とか言ったのは(←)。



「ぅ……」

「……」


小鳥のような小さい声。

いや、ハエ(バカ失礼)みたいな声を上げて隣に座る彼女。


『失礼します』

『紙は大丈夫?』


『前貰ったものがあるので……』

『取っててくれたんだ 捨てたかと思った』


あっ慌ててる慌ててる。

頬っぺたを紅くしてアワアワしてる様子は、本当に小鳥みたいだ。


不思議なもので、こうして話して……いや文通していると、かなり楽になった。


『捨てられません』

『そうなんだ。でも椛さんは、どうしていつも俺の近くに居るの?』


あっまた慌ててる。

少しだけS心が目覚めそう(現行犯逮捕)。


『その 謝りたくて』

『俺何もされてないけど』


『ずっと付きまとっていて ごめんなさい』

「え……」


その為にずっと近くに居たのか?

あ、でも肝心の付き纏っていた理由が分からない――


『別に気にしてないけど なんで近くに居たの?』

『あの 付きまとっていた事を謝りたくて』


無限ループって怖くね?


『えっと、そもそも、一番最初に近くに来た理由は?』

「……っ」


あ……流石に強引過ぎたかな。

真っ白の紙を出して、またアワアワしてる。

正直可愛いです(最低)。


やっぱ別に良いよって言いたいけど、俺今千切れる紙が無い。

彼女の返信がないと何も伝えられないのだ――


――キーンコーンカーン――――


「!」

「!?」


迷っている彼女がビクンと跳ねる。

授業開始五分前の予鈴だ。


『ごめん 最後に一つだけ聞いて良いかな』


時間も無かったから、彼女の前にあった最後の紙を頂いてそう書く。

スペースが足りないが強引にもう一文。


『やっぱり、この髪色だと近くに居づらくない?』


そう続けて――彼女に渡す。

そしてその答えは一瞬で戻ってきた。


『居づらくありません ちょっと目立ちますけど』


大きな文字。

そしてその下。


『僕は綺麗だと 思います』


その小さな文字だけでも、感情は伝わるのだと思った。

間違いなく彼女は嘘をついていない。


本心から、そう言ってくれたんだ。


「……そっか」

「!」


席を立ち、そのメモを胸ポケットに仕舞う。

表裏使ってしまったこの紙は使えない。


だから。

彼女の席に近付いて――髪が掛かった耳の近くに顔を下げる。


ここは図書室。

『私語厳禁』、今だけはそれを破った。



「ありがとう。元気出たよ」


「……! は、はぃ……」


小さく口にして、図書室を後にする。

そのまま礼を言わずに出るのは、ダメだと思ったから。



「――行くか」



そして彼女のおかげで覚悟が決まった。

今日、俺は初音さんと話す。





▼作者あとがき

この後に椛視点で付け足すつもりだったんですがちょっと切り悪すぎて次話となります。というわけで(?)明日も二話投稿です。

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