聖域
俺は今、失恋相手である学年一の美少女の家に入ろうとしています(絶望)。
いやなんでだよ。
これ、虹色になるまでの俺(進化前個体)だったら間違いなく鼓動高鳴り過ぎて死んでたぞ。
「……し、失礼しま↑すっ↓う↑(緊急事態:声が二度裏返る)」
「そこ座ってもらえるかしら」
「うん↑(裏声)」
「ふふっ……ど、どうしたの?」
「なんでもないよ↑(緊急事態:声が裏返ったまま戻らない↑↑)」
「ふふふっ……だ、だめ……」
「ごほっ!! ごほっ!!!(瀕死)」
一軒家の小さな門を開き。
鍵を開け、その玄関に俺は足を踏み入れた。
まあ大丈夫。入るのはココまでだから。
この先は
俺みたいなのが入ったら、その瞬間消滅してしまうのだ……(マジ)。
「……っと(戻った)」
「本当にごめんなさい。昨日からずっと迷惑掛けてしまってるわ」
「何度も言ってるけど大丈夫だよ。かのんちゃんと居るのは楽しいし」
土間の先、玄関マットに座ってかのんちゃんの足を付ける。
ちょっと楽になった。
「……本当に優しいのね、東町君は」
「え」
「ほらかのん! 起きて! 起きなさーい!」
「ぅ……」
俺の耳は、しっかりとそれを聞き取っていた。
ほんと失恋してて良かったね。今の言葉聞いてたら勘違い野郎になってたよ間違いなく。
「……起きてるのは知ってるんだから」
「えっ(裏声)」
「……ぅ~ だっておにいちゃん帰っちゃうもん!」
知らなかった、起きてたのか。
そして渋々降りていくかのんちゃん。
更にそんな嬉しい台詞を言ってくれる。
というかなんで俺、この子にそんな好かれてるんだ?
何かあったっけ?
映画とアリ一緒に見た事しかないんだけども。
あと横断歩道を共に渡り歩いた戦友である。
俺何歳だよ……(じゅうろくさい!)。
「ワガママ言わないの。東町君だって忙しいんだから」
いや忙しくありません(暇人)。
いつまでも居ていいぐらい。ただし玄関まで!
「うぅ……(泣きそうな顔)」
「もう……ご飯も作らなきゃならないのに」
やっべーどうすんだよこれ。
このまま帰って良いのか? 間違いなく如月さんが大変な目にあうぞ。
ああ、もうどうにでもなれ!
「あのー……俺、かのんちゃんと遊ぼうか?」
☆
そして今。
俺は、○×キュアの敵役になっています。
かのんちゃんが、手に持つ『変身ステッキ』を振るってポーズを取る。
紙で出来た杖状のそれは、俺が折り紙で作った奴だ。
もちろんネットで検索して作った。
動画で見たから30メガぐらいギガを取られただろうけど、その代わり小さい彼女の笑顔を得られた。
安いもんだ……俺の通信料ぐらい(フツメンスマイル)。
「へんしーん!!」
それを握ったらテンションが上限突破した彼女。「敵を倒したーい!」なんて戦闘狂に至ったので、俺が敵役を担った訳である。
「……か、かかって来い(激キモ陰キャ怪人)」
ナイフ(当たり前だがこれも折り紙製)を構え、変身中に待機する敵役の気持ちになりきった。
実際この間に手を出したら彼女達の変身のエフェクトに巻き込まれて謎の死を遂げてしまいそう――
「○×あたーっく!!」
杖を振るう彼女。
多分彼女の中ではエフェクトが出ているんだろう。
見える、俺にも見えるぞ……!
「ぐぁ(迫真の演技で吹っ飛ぶ)」
「やーー!!」
「おおおおあああああ(消滅)」
飛んできた星みたいなの(想像の限界)に轢き殺される陰キャ怪人。
杖で叩かれる追撃もあり、あっという間に戦闘は終了。
こうして平和が訪れたのだ――
「きゃははははは!! かったー!!」
「うっ! …………うっ(死)」
めちゃくちゃ楽しそうに目の前の死体をペチペチ叩くかのんちゃん。
やめなさい。死体蹴りするヒーローなんてお茶の間で絶対見たくないよ。
でも役になりきってるから起きれない!
「そろそろご飯でき――ってかのん! 何やってるの!!」
「ぁ」
やがて、エプロン姿の如月さんが現れる。怒号と共に。美しさと家庭感が溢れて、見てるだけで心臓破裂しそう。
「……すぅ」
「寝てる演技のつもりなの……?」
と思ったら横でかのんちゃんが寝転がってきた。
もしかしてこの子、寝たら何でも許されると思っているのか……?
「……」
「……あれ」
「ほんとに寝てどうするのよ……」
と思ったら、ガチ寝に移行したらしい。
やっべーなこの子(ほめ言葉)。
☆
「それじゃ……本当にありがとう、東町君」
「俺も楽しかったから。別に良いよ」
玄関。
エプロン姿のままの彼女に見守られながら靴を履く。
彼女とだけは、目を見て話せない。
美人過ぎて――加えてエプロン姿とかいうチート装備もあって。
これは仕方がない事なんだ(童貞並感)。
「……明日、お昼休みは中庭に居ると思うわ。来てみたら?」
「え」
「私、桃と一緒に居るから。仲良くなりたいんでしょう?」
「それは――でも、良いの?」
「ダメな理由が無いわよ」
「!」
そう言ってくれる彼女。
なら――明日の昼休みの予定は決まったな。
初音さんと、話をしよう。
「それじゃ、また明日」
「うん、ありがとう――」
今だけは真っ直ぐ彼女の顔を見れた。
そしてすぐに後ろを向いて、外に出た。
「!」
瞬間。
……気のせいか。
一瞬だけ視線を感じた。
それもどこか。
何か、ジトっとした……重い視線。
「?」
ハテナマークが浮かぶが、そのまま家へ。
帰ったら今日こそナンを完璧に作ってみせるぞ!
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